アイドルのあり方はどう変化してきたか  気鋭の論者が43年分の名曲群から読み解く

 アイドルという概念が成立した1971年から、アイドル戦国時代といわれる2010年代までの楽曲950タイトルを徹底レビューした書籍『アイドル楽曲ディスクガイド』編者のピロスエ氏、レビュアーの栗原裕一郎氏、さやわか氏、岡島紳士氏を招いての座談会記事後編。同書編集の意図から、アイドルシーンの現状まで存分に語り合った前編【いまアイドルをどう語るべきか 必読の書『アイドル楽曲ディスクガイド』執筆者座談会】に続く後編では、最近のアイドル楽曲の傾向やプロデュース方法の変遷、さらには今後のアイドルシーンの展望まで、深く掘り下げた。

さやわか「今のアイドルはエンターテインメントが伝達されるメディアになっている」

——レビューを書いていて、印象に残ったことは。

さやわか:僕は今回、おニャン子とかAKB48、ももクロ、セクシー系アイドルなどを担当しました。ジャンル的にはわりとバラけて依頼してくださったので楽しかったです。個人的には、セクシー☆オールシスターズの話ができたのはすごくよかったですね。僕、すごく好きだったのに、こういうアイドルは誰も盛り上げてくれない。アイドル好きな人はみんなもっと、ギルガメとかメガロポリス歌謡祭とかの系譜も重視した方がいいと思う(笑)。

岡島:セクシー☆オールシスターズは素晴らしいです(笑)。

さやわか:ええ、セクシー系で2ページ取ってくれているのがこの本のいいところです(笑)。セクシー系について語ろうとすると「お前は要するにエロい女が好きなんだな」みたいに言われてしまうんですけど、そうじゃない話ができています。これはまさに「楽曲」という軸でアイドル全体を語ったからこそだと思いますね。ほかに自分が担当したところだと、エビ中(私立恵比寿中学校)なんかは、ひたすら音楽に集中して聴いてみると、日本のニューウェイブのユーモアの感じ、YMOなどのシニカルさをやろうとしているように思えるな、と再確認できました。前々からエビ中が自分たちを「サブカル」と呼んでいたのはどういう意味があるんんだろう、と思っていたんですけど、楽曲面から見て80年代のサブカルチャーのシニカルなノリに近いなと思いました。

岡島:AKB48のシングル表題曲について、ひとつひとつの音楽性やサウンドを細かく差別化して書くのって、音楽ライターの人でも書くのがしんどいんじゃないかと僕は思うんですけど、どうなんでしょう? もちろん僕は音楽ライターじゃないから音楽そのものについて深く掘り下げるやり方はできません。それをピロスエさんに伝えたら「それでも良い」ということでお引き受けました。サウンドのみではなく、楽曲やディスクに付随することも書いたんですね。本自体が楽曲だけでなく、ディスクを紹介するという形式なので。結果的にはその方がAKB48の音楽を紹介するにはいいのかもしれません。

さやわか:少し前までは「AKB48はサウンド的には何もない」と言われがちでした。秋元康だから、ということで歌詞の分析はされていましたけど。それに対してこの本はシングル全部載っていて、楽曲について語っていますからね。それをやっているだけですごい。AKB48の楽曲は中身がない、という意見に対する静かなアンチテーゼというか。実際にそれぞれのシングルに何かがあるのか、たとえば毎年夏に出るシングルのそれぞれがどう違うんだろう?とか、聴きながらわりと真面目に考えちゃいました。そうやって女の子に集中せずに、AKB48というグループ単位とか作り手である作曲家単位で注目すると、変化や流れが見えてきたりします。そこは面白かったですね。

 アイドルはどうしても、それぞれの女の子が人を惹きつけるものになっています。でも実は今のアイドルって女の子に付随して音楽やファッションやデザインやライブ演出、といったエンターテインメントの諸要素が伝達されるメディアになっていて、本当はそこだけ取り出して楽しむこともできるはずなんです。この本はそういう意味で、楽曲部分だけをきれいにえぐり出すことができるということをやっています。

——本書では、AKB48の楽曲を手がけるクリエイター、井上ヨシマサさんのインタビューも掲載されています。

ピロスエ:インタビューの人選に関してはいろいろ案があったんですけど、最終的には井上ヨシマサさんとtofubeatsになりました。現状シーンの与党であるAKB48のメインライターと、次世代のホープという二人の話を聞けたことは、結果的に現在のシーンをうまく切り取ることになって良かったと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる