モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析
『One Two Three』から始まる現在のEDM路線
現在のモーニング娘。'14のモードは、いわゆるEDMと言われる、かなりアッパーなダンスチューンですが、それは2012年7月発売の『One Two Three』からはっきりと始まります。サウンド的にはその前の『恋愛ハンター』もダンスチューンですし十分アッパーなノリではあります。両者が違うことは聴けば何となく感じるかもしれませんが、具体的に比較して、現在のEDM路線がそれ以前とどう違うかを見てみましょう。
静的な歌メロディとコード
まずわかりやすいところで、メロディを比較。『恋愛ハンター』の歌メロディはアニソン風でセクションの中でもよく動きますし、各セクションごとにそれぞれ違うドラマが用意されています。それに対応するコードも、イントロと歌の1セクションでは「Am Dm G C」を基調にしていますが、それ以外のセクションはそれぞれ全く別のコード進行です。
一方『One Two Three』は楽譜にすると「ソ」の連符が非常に多く、音符の数を数えれば、おそらく60%以上が「ソ」でしょう。これはメロディの動きが極端に少ないと言えます。コードの方も、ほとんどのセクションで「Em」から始まります。メロディとコードの関係で言えば、「愛情 もっと ~」のセクションは「ソ」、「One ちょびっと不安で ~」では「シ」の連符だけでフレーズのほとんどを構成していて、進行していくのはコードだけですが、そのセクションで初めて登場する、というコードはほぼありません。歌のメロディラインだけでなくコード進行も静的ですね。
『One Two Three』にコード感がない理由
さらに言うならば、『One Two Three』はそもそもコード感がとても希薄です。それがもっともよくわかるのがベースで、試しに『恋愛ハンター』と『One Two Three』の低音部に注目して聞き比べてみてください。『恋愛ハンター』は耳のいい人ならベースのフレーズを歌うことができると思いますが、『One Two Three』ではそれができないはずです。理由は単純で、ベースにフレーズらしいフレーズがなく、音色にも音程感がないからです。元々つんく♂さんはメロディアスなベースラインを得意としていますから、それを封印するのは明らかに意図的なことです。
リズミカルな歌で「踊るための曲」へ
では、ベースや歌がメロディを歌わないとしたら、何を歌っているのかといえばリズムです。歌のフレーズで見ると「100万ドルの夜景よりも ~」の「夜景よりも」は「タタッタタタ」、「One ちょびっと不安で ~」の「One ちょびっと」は「タン タタッタ」、「大好き ~」の「どんなどんな」は「タタッタ タ タ タ」というリズムで、「タタッタ」というリズムを要所で強調しながら、リズム楽器のように多彩で細かなリズム表現をヴォーカルが担っています。
フレーズの長さも歌のリズム的な役割を示しています。『恋愛ハンター』では2-4小節で1フレーズだったものが、『One Two Three』ではほぼ全てのフレーズが1小節で、そのリズムをループすることでセクションを構成しています。
当然ですが、ここまでリズム偏重の楽曲は歌謡曲では滅多に聴くことができません。つんく♂さんにとって最大化すべきプラットフォームが、『LOVEマシーン』時代が「はっちゃけ感」であったとしたら、現在はダンス、ということなのでしょう。これには両面的な意味があり、よりダンスを引き立たせるためにメロディを最小化した、とも捉えられますし、ダンスという武器があるためにメロディを最小化することができる、とも言えます。