濱野智史の地下アイドル分析(第3回)
「顧客対応は大企業よりも優秀」サービス業化する地下アイドルが日本社会を変える!?
――現状でも、新しい地下アイドルがどんどん出てきている、という状況ですか。
濱野:そうですね。AKBやももクロの次を目指して、どんどんいろんなアイドルが出てきている……という状況です。もちろん、その全部が売れるわけじゃないですし、夢を叶えられるアイドルはほんの一握りかもしれない。
でも、逆に「地下のままでいい」みたいな持続可能型のアイドルも出てくるような気がします。それこそメンバーもいい意味で部活的なノリというか、ヲタの人たちと毎日いろんな話ができてちやほやされるだけでも嬉しくて、別に将来売れなくても今が充実していればいい、というような感覚。でも、そりゃそうですよ。部活をやるよりアイドルをやってるほうが、もちろん辛いことも多いけど、絶対に楽しいですからね。僕がもし10代の女子中高生とかだったら、絶対にアイドルになりたいと思うし、なろうとしたと思う。
地下アイドルって、それこそもう誰でもなれるんですよ。別にめちゃくちゃ容姿が優れてなくてもいい。そんなに人気がでなくても、地下アイドルの世界なら、“人気のないアイドル”に対する需要もちゃんとあって、必ず一人や二人はどんなアイドルでもファンがつくんですよね。そしてファンが一人でもいれば、絶対嬉しいですよ。ファンの側から見ても、あえて人気のないメンバーやグループに行けば、握手会で会話を独占できるし、自分が「太ヲタ」として支えてるんだよと“足長おじさん”感をアピールできますから、それはそれでニーズがある。だから「え、こんなのがアイドルなの!?」って思うようなのが地下の世界にはいっぱいいますけど、それでいいんです。それでも存在できるのが地下アイドルだし、だからこそ多様性にあふれている。
だからアイドルはまだ出てくると思います。もっといえば、音楽業界以外もどんどん「アイドル」化するんじゃないか。CDに握手券をくっつけるAKB商法って、いいかえれば、なんでもかんでもサービス業・接客業化するということですよね。これは日本社会の産業構造の変換ということを考えたら自然なんですよ。モノだけの価値ではもう他の国で作られる安価なものに勝てないのだから、付加価値で勝負するしかない。さきほどもいったようにアイドルはもはや関係性を作る際のプラットフォームというか「おもてなし」の形式のようなものであって、音楽というジャンルからも自立しうると思います。もちろん歌って踊ってレスがあるのがアイドルの核だから、音楽との関係性は強いですが、変な話、音楽以外のモノを売るときにも使える形式だと思います。
――なるほど、サービス業と捉えればいいんですね。
濱野:お客さんを認知して、お客さんごとに気の利いたサービスを提供するというのは、これまでは高級ホテルとか高級料亭のおもてなし術であったわけで、それがいまアイドルのような場所まで降りてきてコモディディ化したということだと思うんですよね。
実際、アイドルから学べるものは多いですよ。顧客とか消費者といわれる人たちとどう接すればいいかは、めちゃくちゃアイドルのほうが優れていて、だからこそアイドルにハマる人が多いわけで。大企業だと、やっぱり顧客対応ってないがしろになっていきがちですよね。どれだけ“お客様は神様です”と言っていても、やっぱりお客さんとの距離が遠い。まさに近接性の問題で、大企業だと顧客の声はコールセンターに集中させることが多くて、オフィスで働いていたら直接顧客の声を聞く機会もない。この数年は、ソーシャルメディアを使って企業がいかに消費者と接するかみたいな話もよく聞かれるようになりましたけど、大半はうまくいってないですよね。企業と消費者のあいだの距離が遠いから、両者ともなかなか歩み寄れず、どこかよそよそしくなっちゃう。
逆にアイドルはどうか。それこそ握手会のような場所で直接お客さんから声をばんばん聞くわけですよ。たとえ数人でも、直接というのはでかい。変な話、お客さんが少なければ、それだけ“この10人が来てくれなかったら私はアイドルとして活動できない”という意識も生まれるから、めちゃくちゃファンに感謝もするし対応もよくなります。
リアルの対応だけじゃなくて、アイドルはソーシャルメディアの使い方もうまいですしね。Twitterでのリプ返とかフォロ返とか、地下アイドルはソーシャルメディア上でもまさに「レス」がすごいんですよ。対応もめちゃくちゃきめ細かいし、めっちゃエゴサもしてるし(笑)。会いにいけないときもきっちりファンの心をつかもうとみんな必死です。まあ、そりゃまだ10代20代の子が多くて普段からSNSとか使ってる世代がやることだから、SNSを使いこなすのもうまいに決まってるんですけどね。とはいえ「アイドルに学ぶソーシャルメディア活用術」みたいなビジネス本が出たら、すごく役立つだろうなと思います(笑)。
――最後にもうひとつ、アイドル文化に対してNHK連続ドラマ『あまちゃん』はどれくらい影響を与えると考えますか。
濱野:僕自身は『あまちゃん』を全然見てないんですけど、NHKの朝ドラでもアイドルが扱われたことで、イメージはだいぶよくなるでしょうね。これまでアイドルなりアイドルオタクって、とても”気持ち悪いもの”“地上に上げちゃいけないもの”というマスイメージがあったわけじゃないですか。それこそ「地下アイドル」なんて言葉はまさにそのイメージをそのまま表すものでもあった。でも『あまちゃん』は、アイドルなんて全く興味なかった人に対してもそれを崩すことには役立っていて、とても大事なことだと思いますね。
また『あまちゃん』のことを熱心に語る人の話を聞いて思ったのは、現場に行かなくても“「アイドルの成長を見守る」という楽しみを味わえて、「古参」の気分(最初期から見ているぞと自慢できる楽しみ)を味わえているんだな”と。そもそもアイドルヲタでなかった人に、アイドルを推すこと、追いかけることの楽しさを伝えているんだなって思います。しかも連ドラだからまさに“毎日会える”わけじゃないですか、画面越しとはいえ。これはなにげに大きい要素ですよね。
個人的には、『あまちゃん』でアイドルに目覚めた人には、どんどんアイドルの現場に「流出」して、その目でアイドルの素晴らしさを体験してもらえると嬉しいですね。
(取材=神谷弘一)
■濱野智史(はまのさとし)
社会学者、批評家、株式会社日本技芸リサーチャー。千葉商科大学で非常勤講師も務める。専門は情報社会論で、著作に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)、『前田敦子はキリストを超えた――〈宗教〉としてのAKB48』(筑摩書房)、『AKB48白熱論争』(共著/幻冬舎)などがある。