映画館の売り物は“映画”ではない? 独立系シネコン・立川シネマシティの考え方

映画館の“売り物”はなにか?

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第23回は“映画館が「売っているもの」は何か?”ということについて。

“Sell me this pen.”

 レオナルド・ディカプリオ主演、マーティン・スコセッシ監督で、なりふり構わない豪腕でのし上がった株式仲介人ジョーダン・ベルフォートの狂乱の半生を描いた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』にこんな場面があります。

 麻薬をを売りさばいているうさんくさい連中を何人か集めて、ジョーダンが会社を設立しようとレストランで誘います。

 「俺はなんでも売れる」そう豪語するひとりの男に、ならば、とジョーダンはジャケットからペンを取り出して男の目の前に突き出します。

「このペンを俺に売れ」

 突然のことに、男は口ごもってしまう。

 そこでジョーダンは、見てろ、と中でも格別に優秀な、ギャングの風体の男にまったく同じ質問をします。

 するとその男ブラッドは、ペンをつまみ取って、即答。

ブラッド「そのナプキンに名前を書け」

ジョーダン「ペンは?」

 ブラッド、腕を伸ばし、ジョーダンの前にペンを置くと「需要と供給だ」。

 ジョーダンは他の連中を見回して「ほら、必要性を作った」。

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 なんであれビジネスを始めようとするならば、最初に考えるべきことは「何を売るのか」「売り物は何か」ということでしょう。

 肉や野菜なのか、証券や仮想通貨なのか、美容師やデザイナーのように技術を売るのか。

 こんなことは当然すぎると思うかもしれません。自分の店や会社で自分が何を売っているかわからない人間なんているのか、と。

 ならば映画館が「売っているもの」とはなんでしょう?

 映画、と素直に考える方が多いのか、それとも映画なんてのは引っかけで、正しいのはポップコーンやドリンク、なんて答える方が多いのか。

 僕はこう考えています。映画館が売っているものは「時間」と「空間」なのだと。

 映画館は映画を作っているわけではありません。映画の宣伝をするのは製作会社、配給会社であって、映画館はそれを上映する場所を提供するだけです。

 つまり、映画を商品としているのは製作会社、配給会社なのです。映画は、レコードショップでも、ネット配信でも、レンタルショップでも買えるということを考えるとわかりやすいでしょう。

 映画は映画館の商品ではない、ということをはっきり認識できると、このビジネスにおいてやるべきことが明確になってきます。

 筋トレで漫然と重いものを持ったりするのではなく、この運動によってどの筋肉を鍛えているのか意識してやると効果が断然違うのと同じことです。

 シネマシティは立川だけの、映画館しかやっていない零細企業なので、大手と同じことをやろうとしても資金的にも政治力的にも非力ですからまるで敵いません。

 かと言ってミニシアターでもなく、11スクリーン約2200席規模のシネコンなので、あまり趣味性を高めすぎても成立しません。

 また周辺を、TOHOシネマズ、MOVIX、イオンシネマという3大大手シネコンに囲まれており、いつ潰れても不思議ではありません(笑)。

 このような状況で、どう生き残っていくのか。

 そのためには、何を、誰に、売っていくのかをきちんと狙い定め、特長を作って差別化を図っていくしかありません。

 大型ショッピングモールの中にある映画館と、映画館だけの建物で無料駐車場もないシネマシティが、ファミリー層の取り合いをして果たして勝てる見込みがあるでしょうか?

 また大手広告代理店がプロのクリエイターや俳優を使って映像やポスターを作り、広くカッコ良く宣伝する映画館と、センスもなければ勉強もしてない僕ひとりが、見よう見まねでポスターやなんかのデザインをして、やぶれかぶれの文章を書いて自社のみで宣伝するだけのシネマシティではゾウとネズミです。

 必然、生き残り策は限られてくると思いませんか?

 ファミリー層も、カッコいい宣伝に惹かれるライト層も、周辺の大手に流れていきます。

 ならば狙うべきは、中くらいから濃い目の映画ファンということになります。

 他の層を排する必要はありませんが、この層を優遇していくことで個性を出していきます。

 すでに映画の魅力をよくご存知で、「質」に価値を感じる映画ファン。映像や音響、作品セレクト等の「質」です。

 シネマシティではこのお客様たちに喜ばれる「空間」と「時間」を作っていくことにしたわけです。

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