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『デッドプール』が“R指定で最も売れた作品”となった理由ーー善悪を超えたヒーローの革新性

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 コミック原作のヒーロー大作映画がハリウッドを席巻している。だが、その全てが成功しているわけではない。複数の女優や歌手と浮名を流し、2010年に雑誌「ピープル」で「最もセクシーな男」に選ばれたイケメン俳優ライアン・レイノルズが、勢いに乗ってDCコミックス原作のヒーローを演じた『グリーン・ランタン』は、大宇宙を舞台に強大な悪と対決する、200億円の巨費を投じた超大作だったが、全くヒットせず大惨敗を喫してしまった。

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 一度スターとしての地位を失ったレイノルズだったが、ヒーロー映画での成功を諦めたわけではなかった。本作『デッドプール』は以前、彼が「X-MEN」シリーズで演じたキャラクター、デッドプールを主役にした企画で、レイノルズ自身が主演、製作に名を連ね、脚本の修正にも携わるという力の入れようで、復帰戦への情熱を感じさせる。X-MENの人気ヒーロー、ウルヴァリンの戦いを描く『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』に登場したデッドプールは、コミック版とはかけ離れた性格や能力で表現され、あくまでヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンを引き立てる役でしかなかった。そのため今回は、X-MENとの世界とリンクさせながらも、過去のデッドプールを完全に「無かったこと」として仕切り直し、R指定作品として過激表現を満載し、思い切った方向に舵を切っている。

 そして、公開された『デッドプール』は、『グリーン・ランタン』の4分の1程の予算で3倍の収益を上げるという、アメリカ史上「R指定映画で最も売れた作品」という記録を作るほど、ライアン・レイノルズ起死回生の大ヒットを達成したのである。この復活劇は、同じように『アイアンマン』で再ブレイクしたロバート・ダウニー・Jrを髣髴とさせる。しかし本作のように、子供の観客を切り捨てたヒーロー映画が、何故ここまで圧倒的な支持を集めたのだろうか。

 コミック原作「デッドプール」のタイトルの基になったのはクリント・イーストウッド主演のアクション映画『ダーティハリー5』の原題からだという。ダーティーハリーが無表情で容赦なく悪漢の眉間を撃ち抜くのと同様、デッドプールも悪人を殺すことに躊躇のないヒーローだ。違うのは、デッドプールの方は異常なまでにおしゃべりだという点で、戦闘中でもスキップしながら軽口を叩き敵を惨殺するという態度は狂気を感じさせる。まともではない。基本的にはコメディ・タッチだが、モリーナ・バッカリンが演じるヒロインが娼婦という設定だったりと、R指定ならではのアダルトな要素が本作の大きな魅力となっている。

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 アメコミヒーロー映画は近年、内容のあるヒット作を連発することで、大人の観客にもかなり浸透してきている。とくに『ダークナイト』や『ウォッチメン』、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』などは政治的な要素が強く、むしろ大人の観客向けに作られているといえる。しかし、全く興味のない層には依然としてアピールできていない部分もある。ピッタリとした派手な色のコスチュームを着て悪の怪人などを倒すという、ヒーロー作品の基本設定に、どうしてもついていけないという観客が一定数存在するからだ。

 ライアン・レイノルズが演じるデッドプールというキャラクターが最も面白いのは、悪の組織と真剣に戦っているヒーロー達とは違い、自分が創作物であるということを理解して、作品世界を超えた現実の世界に言及したり、ときに観客に向かって語りかけたりするという点である。劇中で、例えば「緑色のコスチュームはもう着たくない」などと、『グリーン・ランタン』の失敗について自虐的な台詞を吐き、例えば敵を容赦なく銃で殺害し刀で串刺しにすると、やり過ぎた暴力表現について、観客に対し言い訳めいた発言までするのだ。つまり彼は、アメコミヒーローの善悪の枠を超えた行動をとり、さらにその行動を作品世界の外から客観視し、批評的な態度を取ることができるのである。

 映画『スパイダーマン』や『アントマン』のように、キャラクターを現実的な社会に放り込んで、観客の共感を呼ぶという手法は今までにもあった。だが、人間の能力を超えたヒーロー達が強大な敵と戦う様子は、我々観客にとっては、あくまで「人間の限界」という名の川を越えた「向こう岸」の出来事ではある。その光景に憧れる者もいれば、自分とは関係のない話だとして興味を失う者もいるだろう。だが、デッドプールは例外的に、善悪の彼岸を越えるのと同様、作品世界と観客の意識の彼岸をも自由に行き来して、頻繁にこちら岸に来てくれる稀有なヒーローなのだ。それが『デッドプール』という作品の本質であろう。同時に、つながりのある「X-MEN」の世界観を壊す危険性もはらんでいるのは確かだ。

      

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