マーベル・シネマティック・ユニバースにおける『アントマン』の新しさとは?

MCUにおける『アントマン』の新しさ

 2008年に公開された『アイアンマン』に始まり、『キャプテン・アメリカ』や『マイティ・ソー』など、アメコミ原作のヒーロー映画を製作し、数々の大ヒット作を世に放ってきたマーベルスタジオ製作の新作映画『アントマン』が公開中だ。7月に日本公開されたばかりの『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』に続き、早くも今年2本目のマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)作品となる。これまでのMCU作品は、“アスガルド”や“S.H.I.E.L.D.”など、その背景設定におけるスケールの大きさで、同一の世界観を重視してきた。だが、『アントマン』はこれまでの作品とは異なり、特に背景設定などの予備知識がなくとも誰でもすんなりと楽しめる、笑いと人間ドラマが絶妙なバランスで描かれた、非常に優れた作品になっている。

 もともとは『ホット・ファズ−俺たちスーパーポリスメン!-』や『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』などで知られるエドガー・ライトが監督を務めるということで、製作段階の時点で既にファンの間では話題となっていた本作。スタジオ側との見解の相違によりライトが電撃降板し、代わりに監督を務めたのが『チアーズ!』や『イエスマン “YES”は人生のパスワード』など、数多くのコメディ作品を手掛けてきたペイトン・リードだ。主演を務めたのはポール・ラッド。日本ではあまり馴染みがないが、『俺たちニュースキャスター』や『40歳の童貞男』など、こちらもコメディ作品で人気を博してきた俳優だ。この2人のタッグにより、MCU作品初心者にとっても非常に入りやすい、随所に笑いが散りばめられた独特のヒーロー映画に仕上がっている。

 コミックページがパラパラとめくれて「MARVEL」のロゴが出てくるマーベル映画お馴染みのオープニング映像。このオープニング映像、いつもならシリアスで重厚な音楽に合わせて出てくるのだが、『アントマン』では軽快なサルサミュージックが流れてくる。この時点で、『アントマン』がこれまでのMCU作品とは何かが違うことが示唆される。そしてこのオープニング映像に続いて始まる本編では、主人公スコット・ラングが刑務所から出所してくる様子が描かれる。そう、本作の主人公は前科ありの元犯罪者なのである。出所後にサーティワンアイスクリームのアルバイトとして働き始めるが、過去の犯罪歴がバレてクビになる。別れた妻と一緒に暮らす愛娘の養育費も払えない。ソーのような神々の息子でもなければ、トニー・スタークのような大企業の社長でもない。前科アリ、バツイチ、無職…と、とてもマーベル映画の主人公とは思えない、人生崖っぷちの男が本作の主人公なのである。

 そんなスコットだが、実は並外れた能力を持っている。それは“盗み”の能力だ。この能力に注目したのが、初代アントマンとして自ら世界平和のために戦ってきた、マイケル・ダグラス演じる天才科学者ハンク・ピムである。ハンクはスコットに身長わずか1.5cmになれる驚異のスーツを“盗ませ”、2代目アントマンとして世界を救うという大仕事を課せるのである。身長1.5cmというミクロな世界で展開される迫力あるバトルシーンも実に面白い。伸縮自在のアントマンが、バスルームや子供部屋など、我々の日常生活に馴染みのある場所を舞台に、小さくなったり大きくなったりする様にも、遊び心ある演出が数多く含まれている。

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