amazarashi、“ひき算”から生み出されたライブ表現 初の弾き語りワンマンライブレポ

amazarashi、“ひき算”から生み出された表現

 2016年、10月15日に幕張メッセイベントホールで開催した『amazarashi LIVE 360°』は、amazarashi史上最大規模でのライブであり、ホール中央で演奏するバンドの四方を巨大透過性LEDモニターで取り囲む、演出面においても新たな試みに挑んだものだった。対して、2017年12月6日、7日に舞浜アンフィシアターでamazarashiの秋田ひろむが開催した初の弾き語りワンマンライブ『amazarashi 秋田ひろむ 弾き語りライブ 理論武装解除』は、一昨年のライブから“ひき算”をして作り上げたものだ。例えば、彫刻は木や石を掘り刻み、イメージをかたちづくっていくように。限られた楽器、照明、スクリーン、舞台演出でこそ浮き上がるamazarashiの世界観、秋田ひろむの歌声。それが『理論武装解除』だった。本記事では12月6日の公演をレポートする。

 半円形のステージに黒い紗幕が降りる会場。暗転すると、うっすらと紗幕の向こうに秋田のシルエットが見えてくる。スポットライトが秋田を照らすと「夏を待っていました」でライブはスタートした。全15曲の中で、前半6曲は『爆弾の作り方』『ラブソング』『ねえママ あなたの言うとおり』のアルバム3作、2010年から2013年までの楽曲で構成されていた。それ以降の、15曲目までは未音源化曲の「夕立旅立ち」、amazarashiの原点とも言える「光、再考」の2曲を除いて、2016年、2017年の作品でのセットリストだ。ライブは4枚目のフルアルバム『地方都市のメメント・モリ』のリリース直前というタイミングであり、amazarashiの軌跡を辿っていくような、そんな原体験を味わうことができたのも確かだ。

 amazarashiは、秋田ひろむを中心とするバンドであり、キーボードの豊川真奈美とギター、ベース、ドラムのメンバーを加えた5人編成でライブを披露している。この日、途中で豊川が加わり、アコースティックギターとキーボードによるパフォーマンスがあったが、ほか12曲はタイトル通りの「秋田ひろむ 弾き語りライブ」。会場には、開演前からいつもとは違った緊張感が漂っていた。秋田が爪弾く弦と、激しいストロークでかき鳴らすギターの音色。語りかけるように、優しく、時には嘆きのように、叫びのように力強く歌われる秋田のボーカルは、より洗練された存在としてライブ空間の中心にあった。また、軌跡を辿っていくように思えたのには、秋田のこれまでを振り返るMCがあったからでもある。

 居酒屋や路上、ライブハウスで豊川と歌っていたデビュー前。前身バンドを経て今のamazarashiに至った秋田は、彼女を誘って正解だったと話し、その時作っていた音源でもある「隅田川」を披露する。ライブでの出会いは一期一会、秋田とファンとの関係、“みなさんとの繋がりの歌”「ナモナキヒト」。ニューアルバム収録の「命にふさわしい」では、「ネガティブなことも、新しい出会いもあって、いろんな感情が生まれて、それがまた新しい曲になったりするので、それはそれでよかったのかなと思っています」と充実した2017年を振り返った。「音源にもなってない曲なんですけど、二人でやるにはいいのかなと思って。故郷からの旅立ちの歌です」と豊川と共に披露した未発表曲「夕立旅立ち」は、2人の歌声が美しく重なり合う、リズミカルで、叙情的な楽曲だ。

 amazarashiのライブは、ステージ前方の紗幕に写される映像演出とタイポグラフィーが一つの特徴である。秋田の歌と連動するように映し出される歌詞は、そのデザインやカラー、動きで楽曲の世界観を演出していく。そのタイポグラフィーの表現が、この日のライブではほぼ映し出されなかった。“ひき算”と例えたのには、大きくこれらが要因にある。タイトル『理論武装解除』にもそんな意味合いが込められているのだろう。「ナモナキヒト」では星空を模した電球が秋田のバックで優しく煌き、「ラブソング」では幾つもの炎がメラメラと燃え上がる。川面に浮かび上がる花火がゆらゆらとスクリーンに浮かび上がった「隅田川」。「光、再考」では、客席にある通路を照らす天井のライトが点灯し、幾つかの“光の柱”が立つ。この日のライブは、いつにも増して限られた光の中でのライブであったが、客席側もこうして舞台の一部として演出してしまう発想には驚かされた。

 豊川がステージから去り、一人残った秋田は、次の曲について語り出す。「作った時はいい曲だなとは思ってたんですけど、まぁまぁとも思ってて、いろんな人に聞かせたら『すげぇいい』って言ってくれて、そうなのかなって。みなさんに名曲にしてもらった曲だと思います。今ではわいも好きな曲です」。そう告げて披露されたのは、中島美嘉に提供した「僕が死のうと思ったのは」。囁きにも似た歌い声から、秋田は徐々に声を張り上げていく。その姿は、まるで生きる意味を見出していくようだった。ライブを締めくくるのは、ニューアルバム収録曲の「悲しみ一つも残さないで」。秋田のバックにあったスクリーンが上げられると、ステージ裏にある蛍光灯が一斉に点灯し、客席を向く秋田にとっての逆光となり、amazarashiの一つの世界観を作り上げる。普段包み隠すはずのステージ裏を、まるでスクリーンに映しこむように、演出の一つとして用いていたのだ。

 幕張メッセでのライブも、今回の舞浜アンフィシアターでのライブも、終わってみれば思い描くライブ表現を完璧に実現できる会場を探して行ったのではないかと、想像を巡らせてしまう。“ひき算”から生み出される究極美のような初の弾き語りライブだった。今春からは『amazarashi Live Tour 2018「地方都市のメメント・モリ」』の開催が決定している。『地方都市のメメント・モリ』の楽曲の多くがここで披露されることは確か。それに加えて、どのような演出で私たちを驚かせてくれるのだろうか。

(写真=木村篤史)

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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