ベストアルバム『メッセージボトル』レビュー
amazarashiの音楽の中心には、言葉と物語がある “表現の理想形”として支持される理由
秋田ひろむを中心としたロックバンドamazarashiが、初のベストアルバム『メッセージボトル』をリリースする。“今後歌い続けるであろう曲たち”“未だamazarashiと出会ってない人の為の一枚”という観点から制作された本作には、インディーズ時代に発表された「光、再考」、メジャーデビュー作『爆弾の作り方』から「夏を待っていました」「無題」、中島美嘉に提供した「僕が死のうと思ったのは」、TVアニメ『東京喰種√A』のエンディングテーマとして注目され、YouTubeで2,300万回以上再生されている「季節は次々死んでいく」、最新シングル「命にふさわしい」、テレビドラマ『銀と金』主題歌としてオンエアされていた最新曲「ヒーロー」など26曲を収録。生に直結した切実な思い、そして、一個人の感情に留まらない普遍的な表現を共存させたamazarashiの音楽世界をリアルに体感できる作品に仕上がっている。
『メッセージボトル』は、彼らがアマチュア時代に主催したイベントのタイトルでもあるという。ザ・ポリスの名曲「Message in a Bottle」でも歌われているように『メッセージボトル』という言葉には“孤独な人間が助けを求め、未だ見ぬ人間に対して手紙を出す”という意味が含まれている。このタイトルに対して秋田ひろむ自身が「その時の僕らの歌は宛てのない手紙であり、願いであり、SOSでした」とコメントしているが、amazarashiの表現の根幹は、この言葉によってすべて言い表されていると思う。生きづらさ、無力感、劣等感、どうしても消すことが出来ない承認欲求などの負の感情を抱えたひとりの人間が、ニヒリズムや絶望と戦いながら、“誰かとつながることで、希望の光を掴みたい”と願うーー彼にとって“表現”とは、そのための最大の手段だったのだろう。
あまりにも切実なモチベーションに貫かれたamazarashiの音楽。その中心にあるのは“言葉”、そして“物語”である。たとえば「さくら」。“君”が出て行ってしまった部屋で孤独に暮らす“僕”を主人公にしたこの曲は、さまざまな不安を抱えながら、それでも自分の夢に向かって必死で進もうとする姿を映し出している。モチーフはおそらく彼自身の体験だと思うが、それを俯瞰しようとする冷徹な視点と抒情的な筆致によって、きわめて質の高いフィクションとして成立させているのだ。
「ひろ」もまた、秋田の作家性の高さを実感できる楽曲だ。“僕”が友人の“ひろ”に向かって語りかける形で綴られたこの曲には、「さくら」と同様、歌を歌い、夢を追うことに対する迷いと葛藤が生々しく描かれている。しかし、それは単なる感情の押しつけではなく、“僕”と“ひろ”との関係性を軸にした良質な戯曲のような作品へと昇華されているのだ。<いつも見送る側 なんとか飛び乗った 身の程知らずの夢を生きている>という優れたキャッチコピーのようなフレーズ(カッコいい決めゼリフを効果的に使う太宰治の小説を想起させる)、行間にある背景を想像させる構成力も絶品。彼のストーリーテラーとしての才能は、ベストアルバムの完全生産限定盤、初回生産限定盤に収録された小説『メッセージボトル』からも感じてもらえるはずだ。
また、完全生産限定盤、初回生産限定盤には“あまざらし”名義で2009年にリリースされたミニアルバム『光、再考』を収録した特典CDが付属する。希望という概念の本質をえぐりながら、<僕は今から出かけるよ ここじゃないどこか>と叫ぶタイトル曲「光、再考」、眩いばかりの青春時代と大人になるにつれて直面する過酷な現実を対比させた「少年少女」。力強いストロークで鳴らされるアコースティックギター、繊細なフレーズを奏でるピアノを軸にしたこれらの楽曲は、まさにamazarashiの原点そのものだ。ひとつひとつのフレーズを叩きつけるような秋田のボーカル、ラフなサウンドメイクには粗削りな部分も確かにあるが、音楽に対するモチベーションは微塵も変わってない。そう、amazarashiは活動をスタートさせた当初から、自らの音楽の軸をしっかりと掴み取っていたのだ。