そらる、アルバム全体で一つの物語を描く『ユメトキ』での挑戦 ボカロ・歌い手シーンへの想いも聞く

2月12日、そらるがニューアルバム『ユメトキ』をリリースした。
前作『創空とメルヒェン讃歌』から約2年ぶり、6作目のフルアルバムとなる本作は、サウンドプロデューサーに堀江晶太を迎えたことでも話題だ。言わずと知れた盟友・まふまふをはじめ、Neru、白神真志朗などの実力派クリエイター陣に加え、「メズマライザー」の大ヒットで知られるサツキ、さらにZEROKU、是、星銀乃丈などの新進気鋭のクリエイター陣も参加。全12曲が収録され、作詞はすべてそらる自身が手がけている。
昨年、活動16周年を迎えたそらる。11月には、自身が“歌ってみた”として投稿してきたボカロ曲を中心にカバーするワンマンライブ『SORARU Birthday 2024 VOCALOID Cover Live -空祭り-』(以下:『空祭り』)を開催し、あらためてボーカロイドとの深い関わりを感じさせた。思えば、そらるはボーカロイドの歴史とほぼ同じ時間を歩んできた存在でもある。そんな彼に、本作の制作に関する話題はもちろん、ボーカロイド/歌い手シーンへの想いについても聞いた。(小町碧音)
堀江晶太をサウンドプロデュースに迎えたことで「自分がやるべきことに集中できた」

ーーそらるさんは作曲もされる方ですが、6thアルバム『ユメトキ』で作詞のみを手がけた理由は?
そらる:今回は、アルバム全体で一つの物語を展開していく必要があったので、全曲の作詞を自分でするしか選択肢がなかったんです。作曲については、自分でやるかどうかにこだわりはなくて。自分より優れたコンポーザーさんがたくさんいるので、得意な方に任せたほうがいいと思いました。大事なのは「いい曲になるかどうか」なので。
ーーたしかに、そらるさんの楽曲は、ストーリー性のあるものが多いですが、今回のアルバムについては、1曲目の「逃避郷」から最後の「ユメトキ」まで一つの物語を眺めている気持ちになりました。どのように書き進めていったんでしょうか。
そらる:最初から、大まかな始まりと展開、ゴールが決まっていて、書きながら「こっちの方がいいかも」と思うことがあれば変えていく感じでした。
ーー本作では、堀江晶太さんがサウンドプロデューサーを担当されています。昨年11月のそらるさんのワンマンライブ『空祭り』でも堀江さんの名前が発表された際、客席から歓喜の声が上がっていましたね。
そらる:もともと、堀江さんとは接点があって。ポニーキャニオンさんから「アルバムを出さないか」と提案をいただいたときに、「サウンドプロデュースをお願いできるかもしれない」という話が出たんですよね。最初はアルバムを出すつもりはそんなになかったです。でも、堀江さんが入ってくださるなら「じゃあ、作ってみようかな」という気持ちになり、アルバム全体で一つの物語を展開するという構想自体も数年前からあったので、「このテーマで作ってみようかな」と決めていきました。
ーーそらるさんの作品で、サウンドプロデューサーとして誰かが入るのは今回が初めての経験だと思います。
そらる:そうですね。堀江さんから自分が知らないコンポーザーさんを紹介してもらったり、アレンジのバランスを見てもらったりもして。今回はサウンドの面でかなり頼りきりだった感じはありますけど、サウンド面のクオリティが保証されていたので、その分、作詞や歌など、自分がやるべきことに集中できたのが良かったです。
ーーレコーディングも堀江さんと一緒にスタジオで行ったんですか?
そらる:歌自体は自分で録りました。ミックスやマスタリングなどスタジオで作業する部分は、普段の環境で音を聴きたいのもあって、リアルタイムで音声を共有できるシステムを使って進めていきましたね。
タイアップ曲も含め、アルバム全体で一つの物語を成立させる難しさ

ーーコンポーザーの方々には、どのように楽曲のオーダーをされたんでしょう。
そらる:アルバム全体の大まかな流れは、最初に伝えていました。現実に居場所を感じられなくて、外に出られなくなった男の子が、夢の中に逃げ込む。そこで、夢でしか存在できない女の子と出会って、さまざまな夢の中で物語を経験し、お互いに成長していく。でも、やがて男の子は夢を見ることができなくなり、二人は夢の中で会えなくなってしまう。
女の子は「夢でしか存在できない」と思っていたけれど、実は海のバス停の前で事故に遭い、昏睡状態にあったことが「ユメマドイ」で明らかになる。そして、お互いがその事実に気づいて、最後の「ユメトキ」で再会を果たす——という流れです。
その上で、たとえば「レヴェノイド」をお願いしたNeruさんには、直接メインストーリーに関わるのではなくて、「男の子と女の子が見ている夢の一つとして、錆びついた世界のロボットやアンドロイドをテーマにした曲を作ってほしいです」とお伝えしました。各作家さんにも同様に、必要なポジションの曲をお願いしていきました。
ーーコンポーザーの方々とのやりとりの中で、最初のデモから完成した楽曲の印象が変わることはありましたか?
そらる:そんなに多くはないですけど、ありましたね。言葉の印象によってアレンジが変わったり、仮歌のリズムの詰め方に合わせて曲そのものが変わることもありました。歌詞については、大きな修正はあまりなくて。仲の良いまふまふとかNeruさんとかは「こういう形はどうか」と提案をしてくれたこともありましたし。ざっくりと「こう変えてもいいんじゃないか」と言う人もいて。本当に人それぞれでした。
ーー制作の中で一番大変だったところを教えてください。
そらる:たとえば、「ユメマドイ」はアルバムの根幹となるストーリーを重視した楽曲になっているんですけど、「空腹の怪物」は、一つの夢の中での物語として、女の子はそのままの姿で登場するけど、男の子は怪物として出てくる……みたいな構造になっていて、より一つの物語としての側面が強い曲なんですね。「空腹の怪物」を物語として成り立たせつつも、アルバム全体を通して連想できる要素を入れる必要があった。実際に小説みたいに「第1章、第2章、第3章」と進めていくわけにはいかないので、そのバランスがすごく難しかったです。一つひとつの曲が単体で聴いてもわかるようにしつつ、アルバムとしての流れを前提として考えないといけないというか。
ーーそういうことで言うと、アルバム全体のまとまりを考えながら、「ツギハギの翼」(TVアニメ『2.5次元の誘惑』第2クールオープニングテーマ)を組み込むのは、調整が大変だったのではと感じます。
そらる:そうですね。タイアップ曲との整合性を取りつつ、違和感が生まれないようにするのは難しかったです。アニメしか知らない人には、アニメのキャラクターの二人の曲として聴こえると思うんですけど、「ツギハギの翼」の1番のBメロに〈届くはずのない 一番星に/なぜ願ってしまったんだろう/でも誤魔化せない/いつか(じゃない)君の(その手)/今掴みたい〉というフレーズがあって、「オーロラ」にも〈手を引くのは君〉というフレーズがある。アルバムを通して聴いたときには、「この二人の物語なんだ」と伝わるようにしているんです。
ーーこだわり抜いて制作された本作を届けたあとの4月には東京・Zepp Haneda(TOKYO)でCD購入者限定イベントのリリースパーティ、5月には『SORARU LIVE TOUR 2025 -ユメユイ-』も控えていますね。『ユメトキ』の物語がどのように展開されていくのか、とても楽しみです。
そらる:今回のアルバムは、自分が直接登場する物語ではなくて、完全に書き手として作ったものなんですよね。なので、ライブではその物語を読み聞かせることになる。「書き手から語り手に変わる」のがライブ、というか。ライブを通して物語の解像度をより高めて、みんなにしっかり伝えられたらこのプロジェクトがやっと締まるのかな、と思っています。
