ラックライフ PONが語る、ポップであり続けることの自負「キャッチーは正義やと思ってる」

ラックライフPONにとっての“ポップ”とは

 ロックとJ-POPを通過したメロディアスなサウンドと、年間100本以上のライブ活動の経験に裏打ちされたタイトさとタフさを武器に、着実に支持を集め続ける大阪・高槻発の4人組バンド、ラックライフ。彼らは結成11年を迎えた今年5月に、シングル『名前を呼ぶよ』でメジャーデビュー。その切なさと温かさにあふれたサウンドと言葉は、バンドファンだけでなく、エンディング主題歌として書き下ろしたアニメ『文豪ストレイドッグス』(TOKYO MXほか)のファンの心も掴んだ。ますます広がりを見せる彼らは、11月2日に待望の3rdシングル『風が吹く街』をドロップする。今作は、マイナーコードが激しくも優しく疾走していくサウンドと、実直で力強い言葉が絡み合う、じつに“ラックライフ節”と言える、正統派ロックナンバーに仕上がった。

 今作も『文豪ストレイドッグス』第2クールのエンディング主題歌として起用され、注目が高まる彼ら。今インタビューではバンドの作詞・作曲の全てを担当するフロントマン、PON(Vo/Gt)に、『風が吹く街』の制作過程から、歌詞とサウンドの誕生秘話、そしてメジャーデビュー以降のラックライフを取り巻く環境について、熱く、濃く語ってもらった。(田口俊輔)

「風が吹く街」は『文豪ストレイドッグス』の存在がなければ一生作れなかった

――「風が吹く街」、完成おめでとうございます。まず、制作にあたってのお話しを伺えればと。

PON:最初に『文豪ストレイドッグス』制作サイドからあった言葉が「次もエンディング主題歌はラックライフで行きたいと思うんだ。……ヨロシク!」という一言だけやったんです(笑)。1クール目のエンディング主題歌として制作させていただいた「名前を呼ぶよ」の時には、色々と話し合いがあったんですけど……今回は要素やビジョンの話し合いはなく、好きにやってくださいと。それやったら、僕としても好きにやらせてもらおうかなと思ったのがまず一つあって。それに、メジャーデビューしてから半年、3枚目にもなるので、それぞれ1作ずつキャラクターが違うものにしようという構想はずっと頭の中にあったんです。「名前を呼ぶよ」がバラード、次の「初めの一歩」が明るくポップなサウンド、と来ればまた違ったラックライフの一面をアニメファンの方にも知ってもらいたいなと思って。結果、僕ららしいエイトビートでメロウなバンドサウンドになりましたね。

――とは言えど、好きにやってくださいと言われて、「ハイ、自由にやります!」とは言いづらいですよね。作品世界との整合性もありますし。

PON:でも、「名前を呼ぶよ」で信頼してもらえたなぁという嬉しさもあったので、気合半分、迷い半分(笑)。

――スタッフからの信頼も得て、かつラックライフファン、『文豪ストレイドッグス』ファンからの信頼も得たからこそ、どこまでラックライフ“らしさ”と「文豪~」の世界観を擦り合わせていくかが大変だったかと。

PON:僕はタイアップをいただいたら、原作を読んで、その作品の中で自分と重なる部分を探すという行動から曲のイメージ作りが始まるんですよ。出てくるキャラクターの心情や言葉の中から、共感できるものを探して「自分がその立場ならば、きっとこう思うだろうな」という自分の物語を作り上げていくんです。原作からヒントと“キッカケ”をもらうだけ、最終的には“僕”という人物を描いた曲になっていて。作品世界を噛み砕きつつも、そこに寄り添いすぎず自分の言葉として噛み砕く、というのが基本ですね。

――原作は要素として活かしつつ、自分に起きた出来事についてが歌詞の基になると。原作でヒントを得た、キャラクターやセリフというのは?

PON:これは太宰治と織田作(織田作之助)の関係から着想したんですよ。織田作が自らの命が消える前、太宰に向かって「お前は人を助ける側に行け」という一言を残す。その言葉に救われて、太宰が探偵社に入り新たな人生を歩むという場面が、自分の中にうまくひっかかって。俺も昔、色んな人……自分が今まで生きてきて、中々会えなくなった人、もう会えなくなった人たちから、救い言葉をもらってきたなぁと二人のやり取りをみて、思い出したんですよね。

――それはどんな言葉だったんでしょう?

PON:僕が音楽のことで悩んでいた時に、先輩のシンガーソングライターが「PONはPONのままでええって。思ったことを歌い続けて、そのままの自分を信じ続ければ大丈夫やで」と言ってもらえたことや、初めておばあちゃんにCDを渡した時に「あんた、歌上手やねぇ」と言ってもらえたこと、ライブハウスのスタッフさんからの「良かったよ」という一言……この先、何度も思い出すだろう、背中を押してくれる数限りない言葉たちですね。僕は苦しんだ時には必ず過去の出来事や、言葉たちを思い出しては、次へ進むということを繰り返していて。もう会えなくなってしまった人たちと過ごした時間。それぞれの“今”にどれだけ胸を張れるか? 今ウジウジしとったら、大切なひとからもらった言葉や想いに泥を塗ってしまう気がして。迷おうが悩もうが、一生懸命に“今”を生きることが、出会った人たちに対する礼儀だなと。ちゃんと今を胸張って生きないと申し訳ない、という感謝の気持ちを歌にたくさん込めようと思って書きました。“君と僕”という形で歌ってますが、この“君”は今まで僕の活動を支えてきてくれた、全ての人ですね。

――もう、この言葉が全て。これでインタビューを終えてもいいぐらいに、歌詞の世界を紐解いてもらいました!

PON:それダメですって(笑)。まだ、5分も経ってないし。

――歌詞を読むと本当にその言葉通りだと思いまして(笑)。

PON:確かに今の話そのままの歌詞ですからね。改めて思いましたけど、「風が吹く街」は『文豪ストレイドッグス』の存在がなければ一生作れなかった曲ですね。でなければ、みんなの言葉に支えられてたんやと、改めて気づくのに遅れてたと思います。タイアップって、自分が普段素通りしていた人生の中のカケラを、もう一度拾うチャンスをくれるものやなと感じました。

――カップリングの“旅”という言葉が冠された「journey」は、ラストのフレーズ<僕はこんな歌歌っているけど/赤の他人君には関係ない/でも君が笑ってくれたなら/頑張れる気がしてる>という言葉が印象的で。これはラックライフのライブにおける気持ちと姿勢を完璧に表していると感じました。

PON:まさにこの曲は“ライブハウスに集まる人”への歌ですね。キツイ表現になるかもですけど、言うてしまえば、ライブハウスに集まる人ってお客さんもバンドも、みんな赤の他人。さらに言えばバンドもお客さんも、みんな勝手に楽しんで、勝手に「明日も頑張ろう!」と思う。でも、それって素晴らしいことだなと考えていて。だって、会場に集まる一人ひとりの名前、顔、どこに住んでるのかなんて、絶対にわからないじゃないですか。ましてや、何を頑張って、今どんなことを思っていて、悩んでいるかなんて余計に分からない。俺はいま、俺でいるためにライブをやっている。けれど、俺が歌った先には人がいて、少しでも歌で元気になってくれたら、俺も次また頑張れる気がすると思うんです。赤の他人のはずやのに、自分のために頑張っているはずなのに、誰かがいないと俺も頑張れない。この奇妙な関係が好きなので、ライブ会場に集まって、騒いで楽しんで感動する人たちのために自分は自分でいたい、という気持ちを込めました。

――「デイルニハ」は一読すると“君と僕”の歌ですが、同じ“君と僕”を通して歌う「風が吹く街」とは真逆の内容ですね。

PON:そうですね、「風が吹く街」は、音楽を通じて出会った人たちからもらった言葉を軸に書いていて、「デイルニハ」は、バンドや音楽とは全く関係ない、普段の生活を支えてくれている人たちに向けて書いてます。その人たちは、あまりにも自然にいすぎて、「CDの売り上げどうなん?」「ライブ、人入ってる?」という、バンドの話に一切踏み込んでこないんですよ。その人たちの前では、僕は真っ裸の状態でいられる。一方で、あまりにもそっとしておいてくれてるから「応援してくれてるんかな?」とつい不安に思うこともあって。

――あえて聞いてくれないことが、かえって心をざわつかせると。

PON:実はこの曲、メジャーデビューが決定した夜が舞台なんです。メジャーデビューが決定して、これで一つ夢が叶った。この話は俺から報告しなければと、みんなに伝えたら、まるで自分のことかのように涙を流して喜んでくれて。その姿にすごく感動したんです。普段応援する素振りなんて見せないし、ライブは1年に1度来るか来ないかやのに、ホンマに応援してくれてたんやと。ライブハウスで生きる僕ももちろん僕なんやけど、普段生きている僕も僕で。その普段をナチュラルに支えてくれてたというのを知れたのはすごく嬉しい。今までライブ会場にくる人ばかりに向けて歌ってたんやけど、ふと日常を振り返ると、こんなにも素敵な場所が自分にあったんや、と気がついて。歌詞に出てくる“君”は毎日を支えてくれる人たち。その全員に向けてのラブソングです。

――この1枚、3曲全てがメジャーに行ったからこそ、書き上げることができた曲ですね。

PON:ホンマですよ。メジャーデビューして、良かったぁ。

――しかし、これだけのクオリティのものを半年で3枚制作って……。

PON:すごいハイペースですよね。でもそれはありがたいことでもあって。もっとその求められる声が「風が吹く街」でさらに広がり、増えてほしいと思っていますよ。

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