「2004年頃、時代が変わった」石田ショーキチが語る、音楽ビジネスの苦境とその打開策

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最近では、若手ミュージシャンから直接プロデュース依頼を受けることも増えたという

――そういったインディーズシーンは当時の勢いを維持できていますか。

石田:今はもう一歩進んでいますね。面白いのが、若者が札束を持って「僕らの楽曲を録ってくれ」と訪ねて来るようになったこと。インディーズレーベルは今もたくさんありますが、それすらも超えて「自分たちで手売りするんだ」という気概を持った若者が増えている。流通が大メーカーからインディーズに移り、今やインディーズから個人に移る……というように、細分化が加速しているように見えます。

――若手アーティストからプロデュースの依頼があったとき、それを引き受ける基準はどこにありますか?

石田:金額のことは、正直どっちでもいいところはあります。それよりも、今のサウンドを鳴らしている若者とリアルタイムで触れ合うということが、プロデューサーとして何よりの刺激になるんです。ただ、最近はちょっと「それだけではしんどいな」と思っています。

――「しんどい」と言いますと?

石田:つまり、音楽作品を作るということは、やる気や根性だけではできない。演奏なり歌唱なりに関して、ある程度は理論に基づいた方法論があります。それを「こうやるんだ」と教えても、できない子がいる。当然、できるまでやらなければいけないのですが、そうすると時間がかかってしまいます。「この金額で、これだけの曲数を録ってください」と、一生懸命に集めてきたお金について、「時間がかかったから増額な」とは言えない。そうして、そもそも安い金額で請けている仕事の量だけがどんどん増えて、ほかの仕事が犠牲になる……ということが続いて。結局、試されるのは男気だけという状況です(笑)。

――若者の基礎的なスキルについては、どんな変化が見られますか?

石田:二極化している気がします。例えばボーカロイドのように、必ずしもそれで「一発当てよう」と思わない多くの人たちがいろいろなものをシェアしながら、どんどん文化を広げているという状況がある。そこには、宅録でやっている人たちの技術的なスタンダードがどんどん上がっているという背景があると思います。デジタルオーディオレコーディングのツールもどんどん安くなっているし、使い方も上手くなっている。一人がいいものを作ると真似し合って、その連鎖が水準を上げていく――特にダンスミュージックやエレクトロニカの分野では、若者の力はすごく伸びていると思います。

 一方で、いわゆるギターバンドの歩留まり感は「半端ねえな」と思います(笑)。歩留まり感、というより退化感、劣化感と言った方がいいかもしない。特にヴォーカル/ギターがいるバンドはひどいと思う。「リズム隊」という言い方がよくなくて、リズムやグルーヴは本来、ヴォーカルによるところが大きいんです。一番リズムに気をつけなければいけないのに、「リズム隊」という言葉で、リズムをドラムとベースに押し付け、ヴォーカルは知らん顔。また、ギターという楽器は本来、メロディは弾けるし、リズムは作れるし……と何でもできるはずですが、そこを飛ばして、日本のロックにはコードとギターソロの2つの演奏しか存在していません。それが何十年経っても日本のロックが世界に出て行くことができない大きな理由だと思います。

 なんだかんだ言っても、レコードメーカーが潤沢にお金を出していた時代には、売れていても売れていなくても、現場できちんと教育されていたと思います。メーカーもプロデューサーも不在で、バンドだけで音を作ることが増えたことが、質の低下を招いたひとつの原因でしょう。

第3回:「20代のバンドはどう食べていくか?」石田ショーキチが示す、これからの音楽家サバイバル術

(撮影=金子山 取材・文=神谷弘一)

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