“AIでサボる”ために始めた「#100日チャレンジ」 話題の著者に聞く、令和に「やりたくないことをやらない」ための思考法

「#100日チャレンジ」 話題の著者に聞く思考法

「サボるために全力を尽くす」のがエンジニアの本質

ーーそういう意味では、本を書くという経験を通じて、「文章を書く」という行為の枝葉が大きく広がり、さまざまな可能性が開けたのではないかと思います。そのなかで、「こんなかたちで枝葉が伸びるのか」と思ったことはありますか?

大塚:本を書いたことでとくに良かったと感じるのは、文章力が大幅に向上したことです。文章を書く力が上がると、プロンプトもうまく作れるようになりますし、頭のなかで考えたことをそのまま言語化して文章にできるため、コミュニケーションがとてもスムーズになります。これは人との対話だけでなく、ChatGPTのようなAIとのやり取りにも当てはまるので、開発能力自体も向上しましたね。

 世のなかの人は「エンジニア」と聞くとプログラムを書く仕事だと思うかもしませんが、実際にコードを書くのはエンジニアの業務全体のなかでおそらく2割程度なんですよ。残りの8割はコードの設計や設計書の作成、システムの構想を練る業務が中心となっていて、さらには発注者と「どういったプログラムが必要なのか」といった話し合いを重ねて要件定義を行う重要な役割も担っています。このように、コードを書かない部分の業務の方が圧倒的に多いからこそ、「文章を書く能力」はエンジニアにとって非常に重要なスキルになるんです。

ーーこれからAIや生成AI、ChatGPTを活用して何かを作りたいと考えている人にとって、プロンプト作成のうえでもっとも重要なマインドセットやスキルとは何だとお考えでしょうか?

大塚:サボるために「全力を尽くす」のがエンジニアという職業です。要は、どうやってサボるかについての戦略を立てることが非常に重要になるわけです。そのため、「サボるための戦略」を考えて、頭のなかで構想していることを的確に文章で表現するスキルが求められます。

 ただし、このスキルを身につけるためには、そもそもどのようにすれば仕事をサボれるか、効率化できるかというのをしっかりと考えなくてはなりません。このことから、「文章化する力」「業務自体のスキル」「開発能力」の3つが絶対に必要になってきます。

 私はいつも面倒な作業に直面すると、「この面倒なことを回避できないのは、自分の工夫が足りないからだ」と自分に言い聞かせ、最適な方法を模索しています。

「#100日チャレンジ」を終えて感じたのは達成感ではなく不安だった

ーー書籍のタイトルにもなっている「#100日チャレンジ」ですが、割と初期から課題を感じ、躓いているのが印象的でした。「ChatGPTでプログラムを作れているからいい」という妥協を序盤からしなかった理由についてどう考えていますか?

大塚:同じような質問をいただいたことがあるのですが、その際は「昨日よりも良いものを作らなければならないという挑戦だから」と答えていました。でもその考えに至った経緯をあらためて考えてみると、最初からそのようなルールを明文化しているわけではありませんでした。

 チャレンジ初期のころにオセロゲームを作った際は10時間以上かかってしまいましたが、「このゲームより悪いものを作ると何か言われるんじゃないか」と思いながらチャレンジを続けていたんです。そんななか、周囲から「なんでそんなに頑張っているの?」と聞かれることがあり、そのたびに「昨日よりもいいものを作らないといけないから」と繰り返し答えていました。その言葉を何度も口にしているうちに、もうそれが当たり前みたいになっていったというか。

 最初は適当にアプリを出していくだけだったのが、次第に「投稿時間の目標」や「再利用の方法を考えて文章化する」など、いろいろな細かいルールが出き始めて、気が付いたらものすごい数の“暗黙的なルール”に従っていました。

 また、最初のころは、似たようなライブラリや手法を使い、見た目が異なるゲームをいくつも作っていました。それが次第に、「似たようなものを作るのはずるいんじゃないか?」という意識が芽生えてきて。そこから徐々に同じアルゴリズムを使うのは手抜きだと感じるようになっていったんです。

ーー「#100日チャレンジ」をやり終えたときの達成感はどうでしたか。

大塚:就職が嫌だったので、100個目のアプリを出したときもあまり達成感はなく、むしろ「これからどうなるのか」という不安が大きかったですね。論文を書くためにかなり時間もかけていたので、終わった感じはまったくしませんでしたが、論文を出し終えたあとは、もう疲れ果ててぐったりしていたのを覚えています(笑)。

 でも、「#100日チャレンジ」の取り組みに関する本を書いたことで、随分と自由が利くようになり、講演依頼などの仕事をいただけるようになりました。私自身、今回のようなメディアでの取材や対談が結構好きなんですよ。

 競争力をつけるためには、さまざまなスキルが不可欠ですし、必要なものを身につけていかなければならないので、自分のスキル向上に結びつくと思ったことに関しては受け入れていくスタンスを大切にしています。その一方で、自分が好きではないこと、面白くないことは基本的に断るようにしていますね。

 私が常に考えているのは、「やりたくないことを絶対にしないためにはどうすればいいか」ということです。これこそ、自分の効率化の根本であり、サボるために全力を尽くすという考え方の中心にある部分だと考えています。

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