「Midjourney」などのAIはクリエイターの仕事を奪うのか? 国立情報学研究所教授に聞いてみた
ここ最近、SNSでは「AIはむしろクリエイティブ系の仕事を奪う」という議論が活発に行われている。実際、画像生成AI「Midjourney」は 底知れぬ可能性を秘めており、美術品評会で1位をとる事態も起きた。
「AIは単純作業が得意」とされており、クリエイティブ系の仕事は最も奪われないと考えられてきたため、その衝撃は計り知れない。絵や音楽などクリエイティブなスキルはAIに代替される可能性は十分想定され、クリエイターとして活躍する人は本当に一握りになるかもしれない。AI時代におけるクリエイティブ系の仕事がどうなのか、国立情報学研究所教授の山田誠二氏に話を聞いた。
現状、AIは人間のサポート役である
――まず、一般的な仕事はAIに代替されつつあるのでしょうか?
山田:はい。特に医療現場ではAIの活用が進んでいます。その中でもレントゲンやCT、MRIなどの画像を分析する“読影”の分野で活躍しており、人間並みか時に人間以上の性能を発揮します。
――すでに医療現場ではAIに仕事を奪われ始めていると?
山田:「読影をAIに奪われている!」というわけではなく、人材育成が進んでおらず、単純に時間もありません。“人間の労働力不足をAIが補助している”という表現が正しいです。このケースのように、あらゆる現場でもAIメインになっているわけではなく、あくまで人間のサポート役として活用されています。これは、様々な理由で自動車の自動運転技術がレベル5(完全自動)には至らず、レベル3(半自動)に落ち着いていることと似ています。
――今後は徐々にメインの業務をAIが担っていくのでしょうか。
山田:その可能性もありますが、「AIを導入したので何人リストラしました」としてしまうと、企業のイメージダウンにつながりかねない。企業としても大々的に「AIのおかげで人件費をこれだけカットできました!」とは発信しないため、「どこまで代替されるのか・代替されたのか?」についてはブラックボックス化しているかもしれません。
――それは怖いですね。
山田:いまは慢性的な人手不足ですので、仮にAIに代替されても働き口がなくなる、ということは考えにくいです。また、簡単にリストラはできないため、生産性の高い部署、AIに代替されにくい部署に移るケースがほとんどではないでしょうか。悲観的になる必要はありません。
「クリエイティブ系の職業こそ、AIに代替されやすい」
――そもそも、クリエイティブ系の仕事はAIに代替されやすいのでしょう。
山田:「クリエイティブ系の仕事がAIに代替されにくい」と言われた始めたのは、2015年に野村総合研究所が発表したレポートが影響しています。同調査結果では、「人工知能やロボット等による代替可能性が低い100種の職業」として、マンガ家やゲームクリエイターなど、クリエイティブ系の職業が並びました。
しかし、そのレポートの土台である2013年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン先生の発表によると、機械化によって代替されにくい職業の中にクリエイティブ系の仕事は入っていません。つまり、「クリエイティブ系の仕事は機械化されにくい」とは言い切れないのです。
参考:https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
――どの程度クリエイティブ系の仕事はAIに代替されると考えていますか?
山田:私の著書『本当は、ずっと愚かで、はるかに使えるAI-近未来 人工知能ロードマップ』(日刊工業新聞社)でも主張しましたが、むしろクリエイティブ系の仕事こそ代替されやすい。というのも、ベストセラーであるアメリカの実業家・ジェームス・W.ヤングの著書『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)の中には、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外のなにものでもない」と記されています。要するに、無から有をクリエイトしている人は、実はもういない可能性が高いです。この認識は、音楽や小説の創作現場ではコンセンサスがえられていると思われます。
――クリエイターは“既存の要素の組み合わせをしている人”ともいえそうです。
山田:大まかにはそう考えられるできるでしょう。音楽の世界では「リフやフレーズ、コード進行などは出尽くしている」とよく言われており、諸説はありますが、基本は“既存のパーツを組み合わせるかどうか”の作業だと言い換えることもできます。その典型的なものがヒップホップ・ミュージックを中心に今や音楽形態の主流となっているサンプリング。自分でサウンドを創り出すのではなく、すでにあるものをどのように組み合わせるかが最も重要視されていますよね。
また、絵画の世界でも同様です。あらゆるモチーフはすでに描かれており、あとはこれまで出たパターンを組み合わせることが増えてくるかもしれない。ただ、例えば「Midjourney」が描いた絵をほかの絵と組み合わせたりなど、手を加えることでこれまでにない作品を創造できます。そこが今後クリエイター側の腕の見せ所になるでしょう。