生成AIは誰かの著作権を侵害しているのか?  弁護士・柿沼太一が語る“日本の著作権法とAIの関係性”

弁護士・柿沼太一が語る著作権法とAIの関係性

 2023年8月17日、新聞協会ら4団体は共同声明を発表し、生成AIについて著作権者の権利が侵害されるリスクがあること、権利の保護策を検討すべきことを訴えた。

(参考:https://www.pressnet.or.jp/statement/copyright/230817_15114.html)

 個人レベルでも自分の作品が無断で「AIに食われている」ことに反感を覚えるクリエイターは少なくないはずだ。一方で、既に創作活動にAIを活用しているクリエイターのなかには、意図せずに他者の権利を侵害していないか不安を感じる人もいるだろう。

 今回は上記の問題について詳しい弁護士の柿沼太一氏に、AIと著作権の関係について話を聞いた。(福地敦)

AI開発のためならば、著作物は原則として無許諾で利用できる

——日本は生成AI開発に関する規制が他国よりも緩やかで、「機械学習天国」とも呼ばれています。こうした状況について、法的な背景を教えてください。

柿沼:まずは大前提として生成AIと著作権について議論する際には、AIによるコンテンツの「学習」と、AIによるコンテンツの「生成(利用)」を区別して考えることが重要です。そのうえでご質問に答えると、確かに日本の著作権法は他国に比べて「学習」についての規制が緩やかなのは間違いないでしょう。平成30年の法改正で定められた著作権法三十条の四は、AIによる機械学習を含めた情報解析のために、著作物を原則として無許諾で利用できると定めています。

——どうしてそのような条項が設けられたのでしょうか?

柿沼太一

柿沼:法改正の背景を細かく説明することは避けますが、そもそも著作権法というのは、ある著作物を見たり聞いたりして楽しむこと、つまり「著作物を視聴して満足を得ること」に対して著作権者が対価を得られるように、著作権者に独占権を付与するという制度です。逆に言えば「視聴して満足を得ること」以外の著作物の利用方法については、著作権法は規制の対象としていませんし、著作権者に独占権を付与していません。

 このような「視聴して満足を得ること」以外の利用方法として代表的なのが、情報解析のために著作物を利用する行為です。たとえば文学研究の世界では、小説などをテキストデータとして抽出し、単語の出現頻度や相関関係を分析するテキストマイニングという手法が古くから用いられてきました。小説は言うまでもなく著作物ですが、こうした情報解析にあたって著作権者の許諾を得る必要はありません。音楽や映画、絵画についても同じです。

——情報解析の延長として捉えると、AIの開発にあたって、イラストなどの著作物を原則で無許諾で学習できることも、少し納得できる気がしてきました。

柿沼:一方で、平成30年度の法改正の時点で具体的なプロダクトとして想定されていたのは、AIによる認識や分析、予測の精度向上のための学習データとして著作物を利用するケースでした。その当時も生成AIと著作権侵害についての議論はありましたし、著作権法改正の際に生成AIのことが全く考慮されていなかった、ということはありません。もっとも、改正当時に、わずか数年後に、誰でも使えるこんなに高精度な生成AIが生み出されるとまで予想していた人は多くはなかった。そういう意味では、現在のクリエイターのみなさんの反発や戸惑いはとてもよく理解できます。ただ弁護士としては、AIの開発において著作物を利用することに対して著作権侵害を主張することは、かなり難しいと言わざるを得ません。

 もしも著作権侵害にあたるとしたら、特定のキャラクターの生成に特化したAIを意図的につくるような場合でしょう。そういうケースではAIに機械学習させること自体が、著作権法に抵触していると判断される可能性はあると思います。

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