鳥羽周作がPodcastを新たな発信拠点にした理由とは? 『鳥羽周作のうまいはなし』制作チームと語り合う
Jリーグの練習生〜小学校の教員を経て、31歳で料理の世界へ飛び込み、 2018年に「sio」をオープンした料理人・鳥羽周作氏。コロナ禍以降はYouTubeでレシピ動画を発信したり、instagramではお悩み相談に乗ったりと、SNSを使いこなしてきた彼が、新たな発信の拠点にしているのがPodcastだ。今年夏からスタートした番組『鳥羽周作のうまいはなし』は、鳥羽の等身大のパーソナリティが存分に発揮され、ミシュラン掲載店のオーナーシェフとは思えない気さくさでコンビニグルメやサッカーの話をしたかと思えば、リスナーの相談にも乗ったりと、いい意味でのフランクさ・適当さに喋り手としての”うまさ”を感じる音声コンテンツだ。
今回はそんな新たな才能を発揮している鳥羽氏を尋ね、『鳥羽周作のうまいはなし』の収録現場に潜入。本人に加え、番組制作に携わる株式会社・玄石の石井玄氏、放送作家の高井均氏、ディレクターの小竹晃平氏、元々sio株式会社取締役で鳥羽氏のテレビ、メディア戦略を行ってきたうぶごえ株式会社の代表取締役・岡田一男氏にもインタビューを行い、制作の裏側などについてじっくりと話を聞いた。
1本のメールから始まったPodcast『鳥羽周作のうまいはなし』
ーー『オールナイトニッポン』のチーフディレクターなどを務めた石井さんや、『オールナイトニッポン』『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』などで活躍する高井さんをはじめとした精鋭陣が番組を作っているのを知り、驚きました。まずは番組がスタートすることになった経緯を教えてください。
石井:会社を作ってすぐ、岡田さんから「何でもいいから一緒にやりませんか」とメールをいただいたんです。当時は仕事がゼロだったので「話を聞いてみよう」と思って会社に行ったら、岡田さん自身がラジオ好きなこと、僕の作った番組のイベントに参加したことを話してくれて、そこに鳥羽さんもいたんです。「今までやってきたことを、鳥羽さんでもやってほしい」と言われて、どうしようかなと思っていたんですが「うまいもんを食わせます! 世界に連れて行きます!」と言うもんだから「じゃあやります」とお返事しました(笑)。
岡田:そもそも、料理人がPodcastをやることってあんまりないじゃないですか。鳥羽さんは話し上手ですし、美味しいご飯の話もしつつ、ご飯以外のところにも話を広げていく番組があったら面白そうだと思ったんです。最終的には、番組発のフードフェスをやりたいんですよ。石井さんが手がけた「オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム」などのイベントを始め、音声コンテンツには、普通の音楽ライブや舞台などにはまだないような、別の種類の熱狂があるんです。だから将来的に、普段は料理人ではないリスナーのレシピで、調理師免許を持ってる方がフードを作ってみんなで食べれるようなフェスイベントをやりたい、と石井さんに熱弁させていただきました。
鳥羽:僕は岡田さんから「石井さんというやばい方がいるので、一緒に番組をやりましょう」と声をかけられました。業界には詳しくないので石井さんのことは知らなかったんですけど、とにかくパイセン(岡田)が言うんだから間違いないと思ってついて来ました。
ーー高井さんと小竹さんは、どのようにしてチームに加わったんですか?
高井:石井君から「ちょっと圧が強いんで高井さんも入ってください」と連絡をもらいました(笑)。
石井:僕1人じゃかわしきれないから、年上の作家に入ってもらおうと思って。
高井:「鳥羽さんのパワーが半端ないんですよ」って言うから、会ってみたくなったんですよね。鳥羽さんの名前は知ってたし、おもしろそうだなと。
小竹:僕はPodcastでいろいろやりたいと思っていたタイミングでちょうど声をかけてもらったので、すぐに参加を決めました。
ーー実際に収録をしてみて、鳥羽さんの話し手としての印象はいかがでしたか?
石井:どのパーソナリティでもそうですが、はじめはまったくしゃべれない想定で準備するんですよ。どれくらい話し慣れているかわからないから。でもいざ始まったらペラペラしゃべるので、高井さんと「これは楽ですね」って。むちゃくちゃ大変なことにはならないだろうと思いました。のちにお店に行ってわかったんですけど、鳥羽さんはお店の営業中に、厨房から出てきて食事しているお客さんに話しかけに行くんです。お店でのおしゃべりが自然とPodcastの準備になっているから、こんなに話せるんじゃないかな。
高井:まったくしゃべれない人と最初からしゃべれる人がいて、完全に後者のパターンですね。しゃべれる人でもそこから伸びる人と伸びない人がいるんですが、鳥羽さんは修正する力があって、言われたことを自分の中で咀嚼するチカラもあるので伸びるタイプです。
鳥羽:聴いて勉強してますからね。今日も『滔々咄(※)』を聴いてましたよ。
(※)石井氏による、音声業界を盛り上げるための対談番組
石井:自分が出演した回でしょ。
高井:でもそれ大事なんですよね。自分のラジオを聴く人が1番伸びますから。
ーー石井さんはこれまでも、プロのしゃべり手ではない人たちの番組を作っていますよね。まだ見つかっていないしゃべりの才能の発掘も、活動の目的としてはあるのでしょうか?
石井:そう言われることもあるんですが、たまたまなんですよね。この番組も含め、適正なギャランティをいただけるオファーをもらったら断らないようにしているので。芸人さんなどのプロのしゃべり手は、こちらが何もしなくてもおもしろい話をしてくれるので、めちゃくちゃ楽しいんだけど、自分の中ではやりきった感がありました。話し慣れていない方、料理人や編集者、エッセイストの方が話しておもしろくなる方が、振り幅が大きくてやりがいがあるのは、あとからわかったことです。こうやって僕がPodcastの裾野を広げることでいろんな人が参入してきてくれたら、それにともなってリスナーも増えていくから、今後も続けていきたいなと思っているところです。
ーー鳥羽さんはお店で話す経験はありつつも、音声番組としてPodcastで配信すること、しかもプロと一緒に番組を作っていくことは初めてのことですよね。
鳥羽:そうですね。きちんと形のあるフォーマットの中でやるのは新鮮ですし、純度が高いです。精神衛生上、吐き出す場所があるのはすごく良くて。たくさんの人ではなく、限られた人に深く届けるという意味では、お店にいる感覚にも近いです。アンチも含めた不特定多数の人に話しかけるのとは少し違いますし、癒されます。
ーーPodcastで再生ボタンを押している時点で、お店に入って席に座るくらい、鳥羽さんへの興味がある方たちですよね。
鳥羽:ただお店よりは入口のハードルが低いので、話が届きやすいし、エンゲージメントも高い気がします。PodcastからSNS、Podcastからお店といったサイクルもできていて、かなり可能性を感じますね。話してる内容はアホっぽいですが、それがいいのかなと思っていて。
ーーほどよいユルさ、ある種の“適当さ”が魅力だと思うのですが、どれぐらい考えて話されてるんですか?
鳥羽:あんまり考えないで来て、みんなと打ち合わせをして、ノリでやってますね。SNSの反応やコメントはチェックして、次のトークに反映するようにしてます。あんまり考えすぎない方がいい気はしてますけどね。
ーー番組を続けていく中で、意識していることやこだわっていることはありますか?
鳥羽:リスナーを笑わせること以上に、チームのメンバーを笑わせたい気持ちが強いです。チームにウケれば、結果的にリスナーにもウケますから。でもみんなを笑わせるために頑張ってるのに、朝早いと全然笑わないんですよ。
石井:朝早いからじゃないですよ。
鳥羽:違いました?(笑)
石井:僕が意識しているのは、我々スタッフは“リスナー代表”だということです。鳥羽さんより少し年上の高井さん、年下の僕・小竹くんと、いろんなタイプがいるわけじゃないですか。僕らがみんな笑ってないってことは、リスナーも笑ってないことになりますからね。
鳥羽:怖いなぁ。
高井:僕はおもしろいと思ってますよ。自分がよく知らない分野のことでも、鳥羽さんがめっちゃ熱を持って話しているのを見ると笑っちゃうんですよね。
ーー「偏愛」はPodcastを語るうえで重要なワードですよね。専門性を持った人が愛情をもって深掘りすることで、その対象にまったく興味がなかった人も惹きつけられると思います。
鳥羽:それはめっちゃありますよね。熱量がないとおもしろくないじゃないですか。『サントリー 南アルプスの天然水』についてこんなに熱く語る奴はいないですよ。好きじゃないと頑張れないし、好きなことだから熱量をもてます。
ーー語っているのが身近なものなのも良いですよね。聴いたあとに、街や物の見え方が変わる番組でもあると思います。
鳥羽:自分としても、Podcastがあることで生活するうえでの意識や解像度が上がりました。いいなと思うものがあったらネタとしてストックして、気づきを置いておく場所になってますね。
ーースタッフの皆さんとしては、パーソナリティがいろんなアイデアを出してくれることは、やりやすさに繋がっているのでしょうか?
石井:良い面も悪い面もありますね。広げすぎると収拾がつかなくなるので。
鳥羽:今は自分なりに勉強しているところです。はみ出してるのもたまにはいいだろうと思って話すんですけど、聴いてみたらめちゃくちゃカットされていることもたくさんあって。今回はやりすぎたなと反省します。
石井:まだ始めてから半年ぐらいですからね。今は土台作りの時期なので、型を破るのは土台が出来上がったあとです。