ニッポン放送に聞く“ラジオ局のPodcastに対する向き合い方” 「最終的にはコンテンツの勝負」

ラジオ局、Podcastとどう対峙?

 近年、世界的に音声コンテンツが大きく市場を広げている。

 ヒット番組が多く登場し、制作会社やパーソナリティ(ポッドキャスター)が破格の金額で買収・契約されたり、Spotifyなどのプラットフォームが注力するなど、日に日にその規模感が増しているのだ(参考:人気ポッドキャスターに100億円払う時代ーー音声コンテンツ新時代の未来とは?)。

 そして、日本でもプラットフォーム主導のオリジナル番組がいくつも登場するなど関心が高まるなか、ニッポン放送はiPhone・Android対応のポッドキャストアプリ『poddog』をリリースした。

 昨今の音声メディア業界の盛り上がりや、諸外国でのPodcast市場の成長を受け、本格的にPodcastのコンテンツ制作・広告営業に注力しているニッポン放送。国内有数のラジオ局が、なぜ新たなフォーマットの音声コンテンツに向き合っているのか。同事業を手掛けるデジタルビジネス部の澤田真吾氏を取材し、その真意について尋ねてみた。(編集部)

ラジオとradiko、ポッドキャストの比較で見えてきたもの

ーー最近は、ラジオ局がポッドキャストにより力を入れている印象です。その理由はどこにあるのでしょうか?

澤田真吾(以下、澤田):アメリカでのポッドキャストの盛り上がりが大きいと思います。ポッドキャスト自体はニッポン放送に限らず、ラジオ局としては以前から一部コンテンツを出していました。特に弊社は『飯田浩司のOK! Cozy up!』など朝のニュース番組をポッドキャストで配信していて、当時からダウンロード数はよかったのですが、単純に番組の周知目的でしかなかったんです。弊社のデジタル部としては、これをなんとかビジネスにできないか、アメリカまで取材に行ってどうマネタイズされているのかというところを、現在も調査しているところです。アメリカでの盛り上がり、ビジネスとして成り立っている状況を日本でも実現させたい、というのが始まりですね。

ーー近年、アメリカでのポッドキャストの普及率や広告市場の増加は著しいですよね。

澤田:2018年にアメリカに取材に行ったんですよ。そこで欧米諸国の会社やポッドキャストのほか、デジタル音声でマネタイズしているラジオ局に話を聞いてきました。ポッドキャストのシステムは向こうの方が進んでいて、ポッドキャストに広告を挿入するシステムに至ってはそもそも日本にはまだなかったんです。今うちのポッドキャストでは海外のシステムを取り入れて、配信から分析、広告までを一貫して行っています

ーー澤田さんは、2017年に当時話題になっていたSNSのマストドンに「TUNER」というインスタンスを立ち上げていたそうですが、その時からそういった新しいサービスに目を向けていたのですか?

澤田:僕が所属しているニッポン放送のデジタルビジネス部というところで、言ってしまえばラジオ以外のデジタルの文脈でなんでもやっていい部署なんです。自分はデジタルを使って番組をどれだけ多くの人に聴かせるか、というところを軸にしていたので、マストドンもラジオ好きがインスタンスで会話できたら面白いんじゃないかと、外側にも広がっていくのを目的に作っていったので、基本的には今と軸は変わっていないですね。

ーーラジオ好きにはコアな側面もあるので、マストドンという狙いはバッチリだったんじゃないかなと思います。

澤田:まぁ、でもあんまり上手くはいかなかったですけどね。マストドン自体がもう、サービスを終了してしまいましたから……(笑)。

ーーそうですね(笑)。先ほど番組名も挙がっていた『飯田浩司のOK! Cozy up!』は、早くから人気があったということですが、どのくらいのダウンロード数だったんでしょうか?

澤田:2019年当初は月間100万ダウンロードくらいで、既にポッドキャストとしてはかなり多い数でした。それから1年間で倍以上になっているので、リスナーの数が増えているのはひしひしと感じますね。(※2020年7月のニッポン放送コンテンツの月間総ダウンロード数は500万ダウンロードを超え、過去最高の数値を記録。昨年同月比は270%となった)

ーーほかの人気番組についてはいかがですか?

澤田:深夜の『オールナイトニッポン』シリーズの番組をポッドキャスト化して、それも徐々に数字が上がっています。まだまだポッドキャストはニュースカテゴリの方が強いんですけど、Appleのランキングには『霜降り明星のオールナイトニッポン0(ZERO)』や『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』が上位にきていたりもします。エンタメ系の番組もポッドキャスト化していくことで、徐々にエンタメカテゴリのユーザーも増えてくれているんじゃないかと感じています。

ーーradikoの聴取率とポッドキャストのダウンロード数とではどのくらいの差があるのでしょうか?

澤田:『飯田浩司のOK! Cozy up!』はradikoの聴取数より、ポッドキャストのダウンロード数の方が高かったりしますね。『オールナイトニッポン』シリーズもダウンロード数は上がってきているんですが、まだまだradikoの数には達してはいないです。

ーー例えば、『オールナイトニッポン』シリーズのradikoの聴取率とポッドキャストのダウンロード数を比べた時に、聴かれ方が違うということもありますか?

澤田:『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』はSpotifyのメインユーザーである10代のリスナーにすごい刺さっているんです。各プラットフォームで聴いている属性が全然違ったりするので、それによって数の変動が起こっていくことはあると思います。

ーーニッポン放送だけでなく、TBSラジオやJ-WAVEなども、音声コンテンツに力を入れていますよね。

澤田:最近は他局とも情報共有をしています。TBSはポッドキャストからラジオクラウドにコンテンツを全て移動したという経緯もあって、具体的な数値は分からないんですけど、TBSがあのままポッドキャストを続けていたら、ニッポン放送と同等かそれ以上の数字にはなっていたと思います。他局がポッドキャストならではのオリジナルコンテンツを打ってきたりすると参考にしたり、悔しいと思うことがありますね。TBSの『THE GUILTY / ギルティ』や、最近だとJ-WAVEの『SPINEAR』というポッドキャストブランドがアニメとコラボしたオーディオドラマもすごいクオリティだなと思いつつ、聴いていますね。我々もポッドキャストならではの作り方を自分たちで開拓していく必要があるなと感じています。

ーーポッドキャストとラジオクラウドの違いはどういったところにあると思いますか?

澤田:最近はラジオクラウドもポッドキャストアプリのように変わったので、同じような感じになってきたのかなと思っていました。けれど、ポッドキャストの「プラットフォームに縛られない」という面はかなりのメリットかなと個人的には思っているので、コンテンツを広げるのが目的であるならばポッドキャストとして展開するのが良いと思います。ただ、ラジオクラウドの色んなラジオ局のコンテンツが聴けるという点はかなり魅力を感じますね。

ーーその好きな環境というものの一つに、今年6月にリリースとなった『poddog』があると思います。まずはこのアプリを立ち上げることになった理由を教えてもらえますか?

澤田:立ち上げた理由は大きく2つあって。まず、ニッポン放送はコンテンツプロバイダでもあるので、自分たちのプラットフォームとなるアプリを作らないといけないというのがありました。Appleにしろ、Spotifyにしろ、ポッドキャストのコンテンツをプラットフォームに出すには、承認を受ける必要があるんです。もちろん、ほぼほぼリジェクトされることはないんですけど、その可能性が少しでもあることを考えると、我々としても確実にコンテンツを出せる場所が一つは必要だなというところがあったんです。

 もう一つは、聴取者のデータです。これはアメリカでもまだまだ解決されていませんが、プラットフォーム側から得られる「そのコンテンツをどんな人がどのように聴いているのか」というデータはかなり限られています。Spotifyは年齢層や性別のデータや、このコンテンツを聴いてる人はこんな音楽を聴いていますといったデータを教えてくれるのですが、やはりそれ以上に自分たちが欲しいデータを得るためには自らアプリを作って、そこで聴いてくれるユーザーを増やすことで、ちゃんとデータを取得して、コンテンツにフィードバックすることが必要ですね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる