鈴木新彩アナと仕掛け人に聞く、テレ朝が“ポッドキャスト事業”で目指す場所

鈴木アナと仕掛け人が語る“音声事業”の裏側

 テレビ朝日が2月より参入したポッドキャスト事業『聴くテレ朝』が話題になっている。

 同局が複数のジャンルの音声コンテンツをシリーズ化し、制作・配信するのは初めてのこと。「近くて・リアルなコミュニケーション」をコンセプトに、現在テレビ朝日・ABEMAにて放送中の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』のスピンオフ企画としてスタートする完全オリジナルコンテンツ『アルコ&ピースのしくじり学園放送室P』と、テレビ朝日の鈴木新彩アナウンサーが、素の自分で語る『さらさラジオ』、そして著書『断片的なものの社会学』などで知られる社会学者・岸政彦がリスナーのオチのない話に共感する『岸政彦の20分休み』がスタート。それぞれの番組がランキングに入るなど、滑り出しは好調だ。

 そこで今回は同事業を手がける株式会社テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部の藤森一樹氏と、『さらさラジオ』のMCを務める鈴木新彩アナウンサーにインタビューを実施。新たな事業だからこそできること、3番組のねらい、鈴木アナの持つ“ポッドキャスト向きのキャラクター”などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)

アルピー、岸政彦、鈴木アナ……『聴くテレ朝』3番組それぞれの狙いとは

テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部の藤森一樹氏
テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部の藤森一樹氏

ーーテレビ朝日はラジオ局をもっていない中で、音声コンテンツであるポッドキャストを始めたきっかけを教えてください。

藤森:社内で新規事業立ち上げのアイデアを募集していて、集まったうちの1つがポッドキャストでした。テレビ朝日が音声に参入する意義は、ラジオ局を持たないからこそ、自由にコンテンツを制作できることだと思っています。ラジオ局ではきっとルールが確立されていて、クオリティも担保する必要性がある一方で、僕らはそこまでカチッと決め込まず、番組作りの方法もテストしながら進めています。

 ビジネス視点では、ポッドキャストや音声広告市場の成長を受けて、コンテンツ・メディア企業であるテレビ朝日としても参入できる余地がないか検討しています。最終的には、継続的なビジネスにできればと考えています。

ーーライトに発信できるチャネルを持ちつつ、長期的なビジネスモデルの構築を目指しているんですね。チームの規模感はどれくらいですか?

藤森:まだテストをしている段階なので、体制がしっかり決まっているわけではないです。『しくじり学園放送室P』は、テレビ番組『しくじり先生 俺みたいになるな!!』の演出を務める北野貴章が担当し、ラジオ・音声のディレクターにも入ってもらってはいますが、テレビの制作者がポッドキャスト番組を作るということ自体を試せればと考えています。『さらさラジオ』は、鈴木アナウンサーが話す内容をすべて考えていて、収録も少ないときは鈴木アナウンサーと私だけで行うこともあります。『岸政彦の20分休み』は、ディレクターに入ってもらいつつ、企画を立ち上げた佐藤理人プロデューサーがほとんど1人で回しています。今後番組数を増やすにあたっては、人数も増やすかもしれません。

テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部の藤森一樹氏(左)とテレビ朝日アナウンサーの鈴木新彩(右)。
テレビ朝日 ビジネスプロデュース局 ビジネス推進部の藤森一樹氏(左)とテレビ朝日アナウンサーの鈴木新彩(右)。

ーー3番組ともそれぞれまったくジャンルが異なりますが、なぜこのラインナップになったのでしょうか?

藤森:ポッドキャストは、作り手のモチベーションが大きく反映されるコンテンツだと思っているので、ポッドキャストにモチベーションを持って取り組んでくれる人に制作してもらう、という考えが根本にあります。

 『しくじり学園放送室P』では、演出の北野さんは最初にお話したときから企画を考えてくれて、『しくじり先生』のスピンオフ企画として制作することになりました。『しくじり先生』でこれまで作られてきたものとは差別化したものを作ることを目指して、芸人さんやアイドルの方ではなく、文化人の方々にご出演いただき、テレビ版・YouTube版とは少し違う面白さを作れればと思っています。

 

 『さらさラジオ』について、喋れるアナウンサーは社内にも多くいるのですが、その中でもまず鈴木アナウンサーを選んだのは、アナウンス部の中でポッドキャストに1番向いていると思ったからです。バラエティーに出ているのを見て、普通のアナウンサーではない感じがしたんですよ。趣味が多くてオタク気質だから、情報の深堀りがうまいんです。それに何事にも物怖じせず、肝が据わっているので、適任なんじゃないかなと。

ーー『岸政彦の20分休み』はどんな経緯で?

藤森:番組プロデューサーの佐藤が学生時代から追いかけていた岸先生を起用したポッドキャスト番組の企画書を持ってきてくれたんです。私も「断片的なものの社会学」はもちろん読んでいて、近年の多作なご活躍は拝見していて、ご出演いただけるのであればぜひと思っていたのですが、岸先生にはツテがなく。なんとか先生に連絡する機会を得まして、ご提案させていただいたところ、岸先生も喋りたいことがあられて、ご一緒させていただけることになりました。

順調に見えるキャリアに訪れた「迷い」 悶々とする日々の中で始まったポッドキャスト&YouTube

ーーポッドキャストでは、テレビ番組よりも鈴木さんの素や人間的な部分が出ていて面白いなと感じています。実際に『さらさラジオ』を始めてみて、鈴木さんの印象に変化はありましたか?

藤森:本当にバイタリティがすごいなと思います。任せすぎなくらい、コンテンツ作りをすべてやってくれています。キービジュアルにしても、自分でフィルムカメラで撮った写真を用意してもらいましたし、番組の概要文も書いてもらっています。もちろん番組の内容を考えているのも本人です。

テレビ朝日 鈴木新彩アナウンサー
テレビ朝日 鈴木新彩アナウンサー

ーー鈴木さんは普段テレビのお仕事をされる中で、音声コンテンツの第1弾を任されたときの心境はいかがでしたか?

鈴木:「なんで私なんだろう……?」と思いましたね。いまこうして藤森さんがお話しされているのを聞いて、初めて経緯を知りました。アナウンス部長から「ポッドキャストを始めるらしくて、鈴木さんが担当になった」と聞いていたのですが、決定から実現まで時間が空いたので、本当にやるのかなと半信半疑で。でも自分としてはすごく良いタイミングでした。

ーー元々ラジオが好きで、ご自身でもやっていたんですよね。それもあって前向きに始められたのでしょうか?

鈴木:テレビ朝日にはラジオ局がないので、自分がラジオをできるなんて入社当初は思っていませんでした。でも大学時代にライターのインターンをしていたこともあり、エッセイを書きたい気持ちは少しあって。自分のことを語りたいというよりは、自分の好きなものをおすすめするのが好きなんですよ。世間ではあんまり知られてないけどすごく良いものを見つけると、それがもっと広まったらいいなと思っちゃうんです。大学生のとき、いい化粧品を見つけたら、友達にLINEでとても長文のレビューを書いて送ったりしていました。

 なかでも私が特に大好きなフィギュアスケートとインディーズバンドの魅力を発信出来たらいいなと思っています。フィギュアは、ジャンプはもちろん、音ハメ・足の伸ばし具合…もうどこをとっても奥が深いのでもっと沢山の方に見ていただきたいですし、インディーズバンドは純粋にもっと売れてほしい。でもアナウンサーはある種受動的な側面もあるので、どう実現していけばよいのか悩んでいました。そこにポッドキャストの話が来たので、テーマにはあまり困らなかったですね。

ーーYouTube番組の『褒めフィギュア』も同時期に始まって、発信するチャネルが一気に増えましたが、ご自身の気持ちとしてはいかがですか?

鈴木:充実しています。ちょうど能動的に動いていきたいと考えていたので。『ミュージックステーション』のサブMCになったことで、周りからすごいねよかったねと言われる一方で、サブMCじゃなくなったときに、別の強みを見つけておかないとまずいなとも思っていました。

そんな昨年の夏、悶々としているときに聴いたGLIM SPANKYさんの「Up To Me」の歌詞〈もう奇跡に頼らないわ 白馬の王子なんて 何も与えてくれないよ〉がすごく刺さったんですよ。受動的でいることに慣れてしまっていないかと自分に問いただして、もっと能動的に動かないとと考えていた時期に、ポッドキャストと『褒めフィギュア』が始まったんです。好きなものをおすすめできる場が生まれて、やりたかったことが実現し始めていると感じています。

ーー能動的に発信できるチャネルをもったことで、日々生活するうえでの意識の変化はありましたか?

鈴木:「言語化」への意識が強まりましたね。「このバンドのこの曲がいい」という話をしたくても「いいんだよ」という以上のことを言えなかったんです。フィギュアスケートの演技でもどういいかを言語化することはすごく難しい。どうしたら伝わるか、より考えるようになりました。自分が何を感じてるかを把握するためにも、物事を深掘りするようにしています。

ーーまるでライターのような考え方ですね。

鈴木:リアルサウンドテックや他の企業でライターのインターンをしている時も類語辞典を見て記事を書いていました(笑)。そういう意味では、ライター的な感覚もここにきて活きているのかもしれません。

ーー「自分がどう感じたのか」ということに対する解像度が上がっているのは、アナウンサーの仕事にも大きく活きそうです。

鈴木:もともと思考を整理するのにマインドマップを作るのが好きなのですが、最近はフィギュアスケートでもやるようになりました。たとえばショートプログラムを見たら、選手の名前を真ん中に書いて、どう感じたか、なぜそう感じたのか、そう感じた要因はなんだったのかを書き出しています。一つの演技を見る回数も前より増えましたね。ラジオで話すには1回だと言語化できないので、最低5〜6回は見ています。好きだからまったく苦にならないですし、これが仕事だなんて幸せです。

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