スマブラ最大級のコミュニティ大会は、驚異の運営力で支えられていた 「ウメブラSP11」に見た“本来のゲーマー”の姿

「ウメブラSP11」に見た“本来のゲーマー”の姿

運営スタッフに聞く、『ウメブラ』の凄さとは?

 大会開催中、忙しいにもかかわらず運営スタッフの方々にコメントをいただいた。特に最後に掲載している運営の主幹を担うアユハ氏には深く丁寧にコメントをいただいたので、彼らが何を思い、どんな意識で『ウメブラ』を運営しているか、耳を傾けてほしい。

ぶれどん氏

 『ウメブラ』では列整理やゲスト対応、Discordの質問対応などを担当。コミュニティ大会の運営が好きで、スマブラやほかのゲームの対戦会の運営や主催も経験している。

——なぜ『ウメブラ』のスタッフをやろうと思ったのですか?

ぶれどん:いろんな大会のスタッフをやっているとき、「スマブラコミュニティに768名の枠が数十秒で埋まる大会がある」と噂を聞き、それが『ウメブラ』でした。伝手をたどり「勉強したいのでスタッフをやらせてもらえませんか」とお願いしたらOKをいただきました。そこから始めて楽しかったので、いまもスタッフを続けています。

——実際に『ウメブラ』のスタッフをやって感じられたことは何でしょうか?

ぶれどん:選手もスタッフも関係なく、全員が「自分ごと」として大会を盛り上げていこうとする空気を強く感じました。選手たちが予選を自分たちで回していたり、スタッフがやりたいことや改善したいということを自発的にやったりしているところなどです。

——設営風景を見ていると、スタッフが緩やかながら自発的に動いているのを感じました。

ぶれどん:事前にDiscordなどで連絡が行われ、設営責任者による指示書なども作成されています。また、こういった大会は『ウメブラ』以外にもたくさんあるので、机の並べ方やモニターの組み立て方などもスタッフたちが分かっていて慣れていることも多いですね。

——ほかの大会のスタッフもされている方が多いのですか?

ぶれどん:そうですね、特に若い方は兼任していることが多いと思います。やる気も体力もあるなかで選択肢も多く、一人で3~4団体のスタッフをやりながらそのうちのひとつは主催している、という方もいます。スマブラコミュニティは小中規模も合わせて大会が多く、そこで経験を多く積み現場だけでなくマネージメントも身に付けられるのではないでしょうか。スマブラコミュニティがうまくいっているのは、こういった大会の多さを最大限に活かしていることなのではと感じます。

——『ウメブラ』のスタッフをして何か得たものはありますか?

ぶれどん:スタッフや主催が無理しないシステムでも大会を運営できる、ということを経験して体感できたことです。有志のコミュニティ大会ならば理論上は可能だと思うのですが、結果的に運営側と選手や参加者側が分離してしまうことがよくあります。技術・知識・意欲の差もありますし、選手たちも大会で勝ちたいので試合に専念したくなります。スマブラコミュニティや特に『ウメブラ』は、そこの境界が良い意味であいまいだと感じます。

——スタッフとしての能力を身に付けるのは、経験の要素が大きいのでしょうか?

ぶれどん:そう感じますね。ある意味、接客業のようなものだとも思います。コミュニティ大会なので参加者はお客様ではありませんが、お願いや交渉など人対人の面では現場の経験が必要です。先ほど話したような数多くの大会に参加することで成功や失敗を重ねていくと、たとえば「あのベテランスタッフは、なぜこういう指示を出したのだろう」というのも理解できるようになっていきます。

——スタッフの立場から『ウメブラ』の魅力やすごさを伝えるとすれば何になるでしょうか?

ぶれどん:みんなが「やりたい」「楽しみたい」「がんばりたい」と思うことを、いろいろな立場で達成しやすい場所だと思います。スタッフだけでなく、選手でも「優勝したい」「初日を突破したい」「配信台で活躍したい」などいろんな目標が立てられます。

 ほかにも希望すれば出演できる配信の実況解説、有志による試合とは別のブース参加、観客としての応援や写真撮影など、スマブラコミュニティや『ウメブラ』を通して、自分のやりたいことを達成してもらえればよいのではと思います。

キッチン氏

 『ウメブラ』で配信を担当するEGSの一員。大学2年生でEGSに入りまだ半年ほどだが、リプレイなどを担当している。

——こちらのEGSでは何人ほどのスタッフで各員がどんな仕事を担当しているのですか?

キッチン:今日は4人ですが、通常は5~6人になります。カメラや配信ソフトなどそれぞれ得意な人はいますが、明確には分かれていなくて各自が準備して担当しています。

——EGSは『ウメブラ』とは別組織で運営している会社なのでしょうか?

キッチン:別組織ではありますが、単なる団体で会社や法人ではありません。みんな好きでスマブラの配信をやっている人間の集まりで、仕事として報酬をもらっているわけではありません。

——配信となると特に専門的な知識や技術が求められると思いますが、どうやって身に付けているのですか?

キッチン:ふだんからそういった仕事をしている人もいますが、自分は周囲の先輩たちにソフトの使い方など教えてもらいながら配信しています。流れとして元からいた人から教えてもらい、自分ができるようになったら次の人に教える、といった感じで技術を身に付けていきます。

——将来的に大会運営や配信、eスポーツ関連の仕事をしたいとお考えですか?

キッチン:eスポーツ業界に興味はあります。こういった配信の体験などは大学に通っているだけではできないので、いろいろなスキルを身に付けて将来に活かせればいい、と考えています。

——配信スタッフをしている立場として、『ウメブラ』のすごさはどこにあると思いますか?

キッチン:やはり選手の多さですね。配信台も多く、ほかのeスポーツ大会と比べても『ウメブラ』は最大規模レベルだと思います。強い選手たちが集まり海外から参加する選手がいるのも『ウメブラ』の強みだと思います。

アユハ氏

 『ウメブラ』を運営する一般社団法人『令和トーナメント』の理事であり、イベント運営の主幹を担う。配信技研(※)の取締役、iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授を務め、「ゲーマーの専門家」として特にライブ配信や大会運営、コミュニティに関わっている。

※会社名「配信技術研究所株式会社」。ライブ配信データ解析ツール「Giken Access」をリリースし、ライブ配信・大会運営・eスポーツのアドバイザリーなどを行う。アユハ氏は主に文章や思想の部分を担当している。

——『ウメブラ』との関りについてお聞かせください。

アユハ:もともと自分はスマブラ勢からスタートしており、そこでTwitchに呼んでいただいて現在に至ります。スマブラの大会運営を続けてきましたが、ここまで続くとは正直思っていませんでした。以前は配信などいろんなことに手を出していましたが、いまはそれほど多くありません。私より下の世代がEGSや無明遊者といった配信団体で自走しています。

——2020年以降、コロナ禍から『ウメブラ』はどのような変化をたどってきたのでしょうか?

アユハ:『ウメブラ』は今年で10周年になりますが、「ウメブラは本来のゲーマーの姿を残している」と自分は謳っています。ゲーム会社の公式大会や派手な企業イベントが多い現在、『ウメブラ』は古いやり方を続けている一方でコロナ禍以降はだいぶ改革に乗り出した大会です。古い姿を残しつつ現代的なところもある大会と言えるでしょう。

 たとえば大会参加費の事前決済やキャンセル手数料の徴収は、こういった非公式大会での導入は少ないと思います。スタッフの世代交代を進めていることも改革のひとつですし、有志によるブース出展なども『ウメブラ』がやり始めたことですね。

 コロナ禍以降はほかのコミュニティ大会も台頭してきたので、自分たちがスマブラ界隈でできること、自分たちが身を切ることでほかの大会運営が楽になるようなことを率先して行ってきました。

——『ウメブラ』はコミュニティ大会のフラッグシップを目指しているのでしょうか?

アユハ:フラッグシップと言うよりは、若い大会がスマブラ界隈の盛り上がりや視聴者の多さをアピールしている一方、『ウメブラ』は焦る必要のない腰の重い運営ができる大会です。なので、「ほかの大会も導入してね」といったことを行っています。

——「eスポーツ元年」と繰り返し言われた時代より前から開催してきた『ウメブラ』ですが、最近のeスポーツの盛り上がりに対して『ウメブラ』はどういったスタンスをお持ちなのでしょうか?

アユハ:『ウメブラ』には、視聴者・ファン・eスポーツチーム・プロゲーマーが自発的に参入してくれます。そういった方々はeスポーツと比較をするので、私たちも意識しないわけにはいきません。

 『ウメブラ』は2014年初開催ですが、スタッフ陣は以前から関東にあった大会運営を引き継いでいるので、系譜自体はおそらく2008年ごろからになります。そのときからある“モニターは運営が用意して、ゲーム機は参加者が持ち寄る”といった方式は、昔のいいところと言えるでしょう。一方、会場の写真撮影を自由にしたり配信台が3つもあったりなど、『ウメブラ』にはeスポーツ的な新しい面もあります。

 映像クオリティやホスピタリティで比較される部分はありますが、良いものは維持しつつ新たな良いものも取り込んでやれることをやっている感じです。

——昨今のeスポーツ大会とコミュニティ大会である『ウメブラ』の大きな違いを挙げるとすれば何でしょう?

アユハ:分かりやすい面では、みんなが好きでプレイしにくる参加者であることでしょう。今日ここに来ている人たちは全員戦闘員なので、勝ち上がるために自分の意志で参加しています。告知も参加者たち自らが行い、気合の入った写真を撮っている方もいます。

 私たちが誘導やアテンドをしているわけではなく、参加者は自主的に来て自主的に戦い自主的に帰ります。試合では島(対戦ブース)ごとに戦っているので、そこはフラクタル構造のように一人一人が物語を持って戦っている場所です。

 やや分かりにくい面で言うと、『ウメブラ』は多くの大会のひとつに過ぎません。もし公式大会があれば、「この大会が偉い」「この大会に強い人が集まる」と明確になります。一方、スマブラの公式大会は存在こそしますが、いつ開催されるか分かりません。

 そういった状況で、非公式大会が主流なスマブラ界隈でゲーム会社のお墨付きをもらって一番とされている大会はありません。福岡、大阪、東京などいろんなコミュニティ大会があり、大会同士が競い合っているところが面白いですね。

——運営スタッフはどれくらいの数でどのような業務を担当しているのでしょうか?

アユハ:アクティブでおよそ80人です。まず、会計と受付を担当するスタッフがおり、入場料の徴収や経費の管理などを行っています。

 次が進行です。格闘ゲーム大会に参加経験がある方ならばStart.gg(※)などご存じだと思いますが、トーナメント進行を管理します。今大会の場合、予選では1024名の選手が試合結果を自主的にシートに記入しますが、それを受け付けてトーナメント表に入力していくスタッフがいます。そしてトーナメント表は事前に作成する必要があり、シーダーというシードを振るアルゴリズムのプロとも呼べる人たちが準備をしています。

※オンラインでトーナメント表を作成し、リアルタイムにトーナメント進行を管理できるツール(Start.gg スマブラSP11)。

 人員としては上記2つが多く、ほかには設営があります。今回からスタッフ内の設営人員だけでなく外部の大学生も要員に加わっており、これも先ほどの新たな取り組みに挙げられるでしょう。また、デザインチームがもっとも長く大会の手前から準備しており、大会のさまざまなクリエイティブに携わっています。

 そして3つの配信チームが別組織として動いています。おおまかに分けるとこういった分類になります。

——『ウメブラ』のスタッフはボランティアながら専門性を持った優秀な方が多いと聞きます。

アユハ:そういう人“も”います。たとえばCAD(設計支援ツール)が使える人などは、さすがにそうですよね。しかし、そうでないスタッフも多くいます。それで言うならば、大会運営そのものが専門スキルと呼べるでしょう。能力が高いというよりも単純な大会経験の多さですね。ほかの大会にスタッフや選手として参加している人も多く、ときに比較して考えながら洗練されている部分はあると思います。

——先ほどご紹介いただいた一般社団法人『令和トーナメント』はどのような理由で立ち上げられたのでしょうか?

アユハ:一番大きいのは会場確保のためです。東京は使用できる会場が少なく、たとえばベルサール(※)などがありますが使用料も高くて借りることはできません。そして、ベルサールや東京流通センターなどは法人でなければ借りられません。今回の会場である東京都立産業貿易センターや大田区産業プラザ(Pio)は法人だと1年先まで予約可能で、個人だとそれより直近でないと予約できません。法人の方が借りられる会場が増える、先まで予約ができるといった点で圧倒的に幅が広がるんです。

※住友不動産が展開するイベントホールや貸し会議室などの施設。新宿・神田・飯田橋など都内に多くの施設を持つ。

——最後に、『ウメブラ』を知らなかった人やeスポーツ観戦を始めたばかりのような人たちへ、『ウメブラ』のすごさや魅力をお伝えいただけますか?

アユハ:最近、瀬戸風味さん(※1)とお話しする機会があったのですが、『ストリートファイター6』の公式プロリーグ「SFL(※2)」の以前と以後で観客の性質が異なるとお聞きして、そういう見方もあるのかと思いました。

※1:格闘ゲーム大会やプロシーンを追いブログ・Xポストの投稿、配信などを行っている方(瀬戸風味氏Xアカウント)。
※2:CAPCOMの対戦格闘ゲーム『ストリートファイターシリーズ』を使用した公式チームリーグ戦「ストリートファイターリーグ」。

 「SFL」以降からeスポーツ観戦をしている人に、『ウメブラ』の魅力をお伝えすることは正直難しいかもしれません。そういった方々には「ぜひ写真を見てください」と言っています。フォトグラファーの人たちが撮ってくれた大会の写真が多く公開されていますので、それを見てもらえれば何となく分かると思います。

 壇上の選手だけでなく、今回ならば1024人の選手たちが戦って勝ち負けに対して表情の濃淡をあらわし、それを見守る観客たちもいます。そういったいろいろな角度や視点から撮られた写真がいっぱいあるので、ぜひ見ていただければと思います。

取材を終えて

 これまでいくつかのeスポーツ大会やパブリックビューイングを取材してきたが、『ウメブラ』は最も自然で最も熱量が高いイベントだった。スマブラや格闘ゲームに限らず、ゲームの大会やイベントに少しでも関心があるならば、一度はオフライン参加(観戦のみもOK)や配信・動画視聴をしてほしい。

 そして大会としての完成度の高さに驚き、これがコミュニティ大会であることにも驚き、さらにスタッフたちの言葉から培われてきた歴史と高い意識を感じられたことも収穫だった。いまではコンテンツとしてeスポーツ大会やストリーマー配信を楽しむことが自然になった。それを過去から支えてきて現在も発展し続けている『ウメブラ』をはじめとしたコミュニティ大会があることも、ぜひ覚えておいてほしい。

 最後に、アユハ氏もインタビューで触れている本記事内でも使用した有志の方々の撮影による大会写真を紹介したい。撮影者の方々はXでも写真を公開しているので、興味を持った方は下記リンクやハッシュタグ「#ウメブラSP11」で確認してほしい。

【写真提供】※順不同
Rose・ろぜ各務原/kagamiharaうってぃーiRose/いろせふく/fukuToki

【公式サイト】
『ウメブラ』公式サイト
『ウメブラ』公式X

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