ゼルダの“アタリマエ”を見直した『神々のトライフォース2』と、これからの2Dゼルダに思うこと

ゼルダの“アタリマエ”を見直した『神々のトライフォース2』

発売から10年が経ち、大きく変化した『ゼルダの伝説』の人気

 そして、『トライフォース2』の発売から10年が経ち、「ゼルダの伝説」シリーズを取りまく状況は大きく変化した。それまで、どちらかというと海外人気が圧倒的で、日本は中規模なヒットに留まるという一種のアタリマエが『BotW』を契機に(非常に良い形で)崩壊。続編『TotK』に至っては前作越えはおろか、「ゼルダの伝説」シリーズ全体としても歴史的とも言える大ヒットを成し遂げた。それと共に“「ゼルダの伝説」シリーズ=3Dアクションアドベンチャーゲーム”とのイメージも極めて強固なものになったように思える。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』
『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

 ただ、古くから「ゼルダの伝説」シリーズを追いかけている世代なら、2Dと3Dそれぞれの新作が交互に展開されているイメージがあるだろう。実際、2000年代から2010年代にかけては、据え置き機では3D作品(以下、3Dゼルダ)、携帯機では2D作品(以下、2Dゼルダ)といったすみ分けをされる形で新作が作られてきた。『トライフォース2』も「壁画」という3Dの遊びこそあれど、基本は上空から見下ろした視点で展開される2Dゼルダであり、その完全新作でもあった。

 ところがこの10年の間、『トライフォース2』のような新作2Dゼルダはご無沙汰してしまっている。厳密には2015年10月22日に『ゼルダの伝説 トライフォース3銃士』がニンテンドー3DSで、2019年には『ゼルダの伝説 夢をみる島』(以下、夢をみる島)がNintendo Switchで発売されているが、前者は外伝の色が濃いマルチプレイ特化型のアクションアドベンチャーゲーム、後者は1993年発売の同名作品のリメイク。『トライフォース2』のような従来スタイルで、新しいシステムとストーリーを持った新作は出ずにある。

『ゼルダの伝説 夢をみる島』(リメイク版)
『ゼルダの伝説 夢をみる島』(リメイク版)

 同時に『BotW』と『TotK』の大ヒットで、2Dゼルダを取りまく状況は一変したように思える。3Dゼルダが広く受け入れられたのもさることながら、アタリマエを見直したゼルダが新たなアタリマエになったためだ。『トライフォース2』も、攻略順序をプレイヤーの自由にできるというアタリマエに則らない部分はあった。しかし、ストーリー上の最終的な目的を達成するため、すべてのダンジョンを攻略しなければならない点は旧来のアタリマエに則っていた。ダンジョンすべてを無視し、非力な状態で最終ボスの所まで突貫するみたいな遊びはできなかったのだ。

 そのような遊びを可能にし、果てはストーリーを無理に追いかけなくてもいいようにされた『BotW』と『TotK』が人気を博す現状を思えば、2Dゼルダの新作を作るハードルは随分と上がってしまった印象が否めない。同時に2Dゼルダならではの魅力と価値というものが問われるようにもなったと思える。

 そのことは2019年発売のリメイク版『夢をみる島』が海外人気は圧倒的だが、日本は中規模という旧来の売上パターンを再現したことも物語っている。もともとリメイクというのもあるが、アニメーションムービーの採用、ジオラマ風のグラフィックといった現代風のアレンジを施したとしても、遊びの根幹が旧来のアタリマエに則っているなら、その魅力を知る人にしか伝わらないということなのだろう。

 3Dゼルダにはない、2Dゼルダならではの魅力というものはどこにあるのか。3Dでアタリマエを見直した「ゼルダの伝説」が『BotW』と『TotK』でこれほど人気を博したとなれば、2Dもそういった新作が求められるのも必然だろう。それゆえに『トライフォース2』が出た当時にも増して、2Dゼルダをめぐる状況は変化している。今後、新作が作られるのかすら読めない、場合によっては2Dの新作が作られない時代を迎えるのではとすら思えてくるのだ。

大作志向が高まる中で、2Dゼルダは手軽さを追い求める時……?

 しかし、現実に『BotW』と『TotK』が広く受け入れられている状況を踏まえれば、2Dゼルダは役割を終える時に来ているのかもしれない。もともとNintendo Switchの発売と普及、ニンテンドー3DSの生産終了で携帯機という概念がなくなってしまった現在だ。無理に並列させる必要はなくなったとも言える。

 ただ、筆者個人としては『ゼルダの伝説』の遊びのキモを分かりやすく伝える存在、そして伝統的なアタリマエをあえて体験できるシリーズとして、2Dゼルダは継続していく意義があるのではないかと思える。また、近年の「ゼルダの伝説」シリーズはゲーム内のボリュームが大規模になりがちだ。『TotK』に至っては、単純にメインストーリーを一区切りつけるだけでも50時間を余裕で超えてしまう(ちなみに筆者はメインストーリーの一区切りまで70時間以上を要した)。

 そうした大作ではない、ホドホドのボリューム感で気軽に遊べて、なおかつやり込める魅力を持った「ゼルダの伝説」として、2Dゼルダは続けていく意義があるのではと思うのだ。実際、『トライフォース2』はメインストーリーを終えるだけなら12~15時間程度、リメイク版『夢をみる島』も10時間ほどか、それより早くクリアできる規模になっている。そのようなコンパクトな「ゼルダの伝説」としての価値を突き詰めていく意義があるのではないかと思うのだが、いかがだろうか。

 次に2Dの新作を出すなら、『BotW』のメイキング段階で作られた初代『ゼルダの伝説』をベースにしたプロトタイプを製品化してほしいとの声もある。ただ、そこまで3Dゼルダの遊びに寄る必要があるのだろうか。2Dは2Dなりのメリットを求めていくのが、根幹たる遊びにこだわり続けている『ゼルダの伝説』らしいと思う。

 いずれにせよ、『TotK』の発売がまだ記憶に新しいところ。当面、次のゼルダに関する展開はないかもしれないが、もし次が2Dゼルダの新作になるのなら、独自の価値と魅力を突き詰めたものになることを願ってやまないところだ。

 同時に2023年3月28日をもって新品の購入が不可能になった『トライフォース2』も、何らかの形で再び購入し、遊べるようになる環境が整えられることに期待したい。とはいえ、ニンテンドー3DSの立体視も巧みに生かしていた同作。単純なHDリマスターは見たくない……と、思ってしまうのは、さすがにワガママすぎるだろうか。

©Nintendo

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