さよならLightningケーブル 数年で”時代遅れ”になったインターフェイスの足跡

さよならLightningケーブル

 AppleがLightningを手放さなかった理由はいくつかあるだろうが、一つには前項にて語った「MFi」の存在が挙げられる。USB Type-Cを採用することは、自社の策定した規格に基づく認証された安全なサプライを提供することとは相反する。「自由」と「安全」はある程度トレードオフの関係を持っており、すでに確立されていたLightningのエコシステムを捨ててUSB Type-Cを採用することには大きなリスクがあったはずだ。

旧型のiPhone筐体
旧型のiPhone筐体

 もう一つには無線通信技術の進化により、一般的な用途における有線接続のデータ転送が以前ほど重要ではなくなってきた、というのもあるだろう。Wi-Fiの転送速度は2013年の時点で3Gbps(300MB/s)を超えており、これを利用したAirdropによるデータ転送もできるため、Lightningのような有線接続の技術を革新をすることにメリットがあまりなかったのではないかと思う。

 また個人的には、当時のAppleは将来的にIPhoneの接続ポートそのものを無くしたかったのではないかと推察している。ポートがなくなれば防水化のハードルは大きく下がるし、内部設計も楽になるだろう。無接点充電機能を持つ現在のiPhoneを見ているとそんな気がしてならない。

 ちなみに時々「Lightningは転送速度がUSB2.0で遅い(から廃止された)」という言説を見るが、これは正確ではない。2017年に発売されたiPad ProはLightningを備えているが、これはUSB 3.0(USB 3.2 Gen 1)に対応しており5Gbpsの転送速度と高速充電の機能を持っていた(ただ、それでも当時の水準から見ても遅いのは事実で、加えてこの後iPadは順にUSB Type-Cを採用することになるのだが……)。別途コントローラを用意すればUSB 3.xに準拠するLightningポートを作ること自体は可能だということだ。

 逆になぜ、AppleはこのタイミングでLightningを手放し、USB Type-Cを採用したのだろうか。一番直接的な理由はEUの法案改正だろう。

 EUは2021年9月、スマートフォンに代表されるデバイスの充電端子をUSB Type-Cに義務付ける法案を可決し、2024年12月28日からEUで販売されるデバイスにはUSB Type-Cの採用が義務付けられることとなった。BBCが報じたEUの声明によれば、こうした規格の統一により「不必要な充電器の購入にかかる費用を年間最大2億5000万ユーロ(約396億円)節約でき、廃棄物を年間1万1000トン削減できる」という。

9月13日の発表においても環境への配慮に関するトピックがプレゼンされた
9月13日の発表においても環境への配慮に関するトピックがプレゼンされた

 EUは2014年にもスマートフォンの充電規格としてMicro USBを採用するなど、以前より充電端子の標準化を進めている(ちなみに2014年のAppleにはこの策定に合意しつつも「Lightning - Micro USBアダプター」を販売することでこの策定を実質無視し、Lightningを続投した過去がある)。Appleは今回の「USB Type-C統一法案」にも反対しつつ、採択後には遵守するとし、ついにLightningを手放すに至った。

 思うに2014年と2023年ではAppleの環境問題に対するスタンスが大きく進歩しており、EUの勧告を無視できなかったのだろう。今回の新製品発表で通底して「環境への配慮」が語られていたことも印象的だ。

 iPhone 15 Proに採用されたSoC「A17 Pro」はSoC内にUSB Type-Cコントローラーを搭載しており、USB 3準拠の10Gbpsでの転送が可能とされている。大量のRAW画像やApple ProResフォーマットの動画など、大容量のコンテンツを転送するには非常に便利に使えるはずだ。

 さて、ここまでLightningインターフェイスとUSB Type-Cの関わりを早足に振り返ってみた。現在Lightningは一部のiPhone・iPad、そしてMacの周辺機器である「Magic Mouse」、「Magic Keyboard」、「Magic Trackpad」を有線接続するためのインターフェイスとしてその姿を残している。こうした接続がかつてはUSBの役割だったことを考えると、その用途は現在逆転しており不思議な気持ちになる。いずれLightningはこれからもMacの近くにその姿を残すのだろうか? 私はその最後を見届けるつもりでいるが、一つだけ要望があるとするならば、Magic Mouseの充電方法だけは今からでも変えてほしいと思うのである。

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