ゲームとは「祭り」である――ゲームマーケティング会社・Nexting設立の背景にある“情熱と信念”

Nexting波光正俊氏が語る“情熱と信念”

 Nexting株式会社の設立が、1月に発表された。ゲーム業界で20年間マーケティングに従事し、50タイトル以上を担当してきた経験を持つ波光正俊氏が、「マーケティングの力で世界と戦うコンテンツを創る」をミッションに設立した、ゲームを中心としたマーケティング会社だ。現在はゲーム事業者向けのマーケティング支援と、世界中のインディゲームのパブリッシング事業の2つをメインに展開しているという。

 広告代理店からキャリアをスタートした波光氏が、なぜゲーム業界に根を下ろし、このタイミングで新たなチャレンジに踏み出すことになったのか。その背景にある情熱とは。会社設立に懸ける想いを聞いた。(片村光博)

広告代理店→放浪の旅→オンラインゲームのマーケティングという異色のキャリア

 波光氏とゲーム業界との“ファーストコンタクト”は、『太鼓の達人 タタコンでドドンがドン』だった。誰もが知る超人気シリーズに、広告代理店の立場から関わることになったという。

「かつて、広告代理店の企画営業部門に勤めていた際、ちょうど『太鼓の達人 タタコンでドドンがドン』のPS2版発売前のタイミングでナムコさんに営業を行いました。そこで、太鼓型コントローラー「タタコン」を展示する紙製什器を提案し、それが採用されたことをきっかけにゲーム業界との関わりが始まりました」

 そして、「太鼓の達人」シリーズは広告代理店を辞めるまで、セールスプロモーション全般を担当。当時はゲーム以外にカーナビ、浄水器、家電、携帯電話など、さまざまな業界のメーカーに企画営業を実施しており、「その後のマーケティングスキルに大いに役立ったと感じています」と振り返る。

 一方で、「ファミコン世代ということもあり、ゲームにはすごく思い入れがあった」という波光氏。退職してヨーロッパやアジア各国への旅を経て、ガンホー・オンライン・エンターテイメントへ移ると、オンラインゲームのマーケティングを担当することになった。そこでの濃厚な経験が、Nextingでの志にも影響を与えているという。

「初期は、『ガンホーゲームズ』というポータルサイトにオンラインゲームをパブリッシング(チャネリング)する営業を担当し、『ルーセントハート』や『グランドファンタジア』などのオンラインゲームを中心に、Boontyのカジュアルゲーム――ハイパーカジュアルゲームという言葉が流行るはるか昔でした――や『鏡リュウジ』『新宿の母』といった占いサービスを導入するなど、ある程度の裁量を持たせてもらいました。このような経験が、現在のインディゲームパブリッシングにもつながっていると感じています」

 そのころに出会ったオンラインゲームのマーケティング担当やプロデューサーたちについて、波光氏は「野武士のような存在」と表現する。もちろんそれはネガティブな意味ではなく、限られた予算でもアイデアとバイタリティで道を切り拓くギラギラした精神性を指しており、彼らの多くはいまでもゲーム業界を中心に、さまざまな業界の最前線を走っているという。そんな経験を経て2011年、自身も『トイ・ウォーズ』――いまでも根強い人気を誇るオンラインTPSだ――のマーケティングマネージャーに就任した波光氏は、ゲームマーケティング全体を統括する立場からさまざまな施策を繰り出していった。

 マーケティングに際して第一に意識したのは、口コミでの広がりやすさを念頭に置いた「ゲームの面白さ(ゲーム価値)を一言で表現すること」、そして広告代理店時代から重視してきた「『コア』と『モア』(≒新規ユーザーと既存ユーザー)の意識を徹底すること」の2つ。これらの指針と、フィギュアが戦う『トイ・ウォーズ』のゲーム性をかけ合わせて生まれたのが、「IPコラボレーション」「オフラインイベントを中心としたコミュニティ活動」「インフルエンサー施策」だった。いずれも現在では広く採用されている手法だが、当時は斬新かつ先進的な取り組みであり、実現する過程で困難が多かったことは想像に難くない。

 「ゲームとIPのコラボレーション」は『トイ・ウォーズ』以前から存在していましたが、『フィギュアが戦うシューティングゲーム』としての価値を活かし、毎月のようにコラボを実施するという、これまでにない展開を目指しました。版元様とのやり取りが必要となるため、広告代理店時代の営業経験が大いに活きています。『自分が好きなフィギュアで遊べる』という新たなゲーム価値を追加し、新規層を獲得できる“モア”を意識した施策ですね。

 「オフラインイベント」もかなり重視していました。当時からMMORPGやFPSタイトルはネットカフェを中心にオフラインイベントの開催が盛んで、『トイ・ウォーズ』でも北海道から九州まで全国規模で展開しました。参加者が数十人規模であっても、徐々に広がり始めていたTwitter(現:X)などのSNSを通じてコミュニティが形成されることを実感しています。大会の開催なども含め、こちらは既存ユーザーの定着=“コア”を意識した施策です。

オフラインイベントの様子

 そして、いまでは当たり前な「インフルエンサー施策」ですが、斬新だったのは『ニコニコ動画の個人チャンネルで公式番組を実施する』という取り組みです。岸大河さん(当時はStanSmith)やyukishiroさんにご協力いただき、『オールナイトニッポン』のように、曜日ごとにインフルエンサーが番組を持つ形式を導入しました。彼らがモアにリーチできるインフルエンサーであると同時にコアユーザーでもあったので、“コアとモア”をバランスよく実現できましたし、人気が出たところでオフラインイベントに出演してもらうとファンがさらに来てくれたりと、相乗効果が生まれていましたね。また、その後に所属することになるMyDearestで『ブレイゼンブレイズ』のマルチプレイヤーゲーム開発プロデューサーを岸さんに務めていただいたのも、当時の縁によるものです」

先進的なプロモーション施策と、異例だった「ミスター☆ディバイン」としての活躍

 これらの施策は、その後のスマホゲームのマーケティングにも活かされることになる。そのなかでも波光氏の経験値が最大限に発揮され、プラスαの価値まで生み出したのが2013年にスタートしたスマホゲーム『ディバインゲート』だ。

 多くのコラボ案件を開拓し、スマホゲーム業界におけるコラボ施策の先駆けとなった同タイトル。『トイ・ウォーズ』の事例があったとはいえ、当時はまだゲームとのコラボを経験したことがない版元も多く、「コラボレーションをしたことのない版元様にはイチからご説明させていただいた」という。それでもたしかな成果を残すことで、大きな流れを生み出している。

「当時、非常に評価いただいていたのは、ユーザー数の多いスマホゲームとコラボすると、プレイヤーがそのIPを見て愛着・親近感を持ち、実際に興味を持ったり、アニメを見てくれたりすることが多かったということです。もちろん売上の側面もあるのですが、多くのユーザーに届ける仕掛けができていたと思います」

 そしてなによりも特筆すべきは、波光氏はそれらのコラボを成立させていっただけでなく、自身が覆面広報「ミスター☆ディバイン」として前面に出て活躍したことだ。

ミスター☆ディバイン

「『ディバインゲート』はスタイリッシュなゲームなので、その対極に位置するようなおじさんを出したいなと思って、『ミスター☆ディバイン』が生まれました。ゲーム内で広報キャラクターがユニット化(キャラクター化)し、さらに進化(再醒)していくという仕掛けは当時としては珍しかったと思います。また、愛猫・銀ノ助もユニット化しましたが、いまも元気に過ごしています。2013年9月にはすでにゲーム内に登場していたので、業界でもこうした広報手法の先駆けだったのではないでしょうか。高野康太ディレクターがノリのわかる人物だったこともあり、ユニット化の際にはさまざまなアイデアをいただきました。

 いわゆる中の人と呼ばれる広報担当がインフルエンサーとして活動する手法は、属人化のデメリットはあり、リスクもゼロではないのですが、非常にコストパフォーマンスが高く、かつコントロールしやすいおすすめのプロモーション手法です。ゲームの価値を一番わかっている人間でもありますからね。当時は、ガッチマンさん、高野D、そしてミスター☆ディバインの3人で毎月生放送を行っていました」

 オフラインイベントではミスター☆ディバインの写真撮影会に100人以上が並ぶこともあるなど、ひとつのPR戦略の枠を超えた活躍を見せた波光氏。「個人的にも思い入れの深い、ファンに愛されたゲームでした」と振り返り、「もし、今後『ディバインゲート』でなにかしらの展開があれば、ミスター☆ディバインとして可能な範囲で協力したいと考えています」とも語っている。そんな思い入れ深い『ディバインゲート』では、ファンへの届け方、演出の面で特に印象深い出来事があったという。

「2014年9月の1周年オフラインイベントでは、高野Dのアイデアにより、イベント終了後に主人公キャラの覚醒進化PVをサプライズ映像として公開する演出を行いました。会場は大きな興奮に包まれ、なかには感動で涙を流す方もおり、最高の演出を届けることができたと感じています。こうしたイベント終了後のサプライズ演出は、その後、多くのタイトルで活用されるようになりましたが、『ディバインゲート』がその先駆けだったのではないかと思います」

8年ぶりにマスクを被った波光正俊氏

「エンターテイメントには唯一の正解はない」 だからこそ泥臭く前進する

 その後もガンホーでさまざまなゲームのマーケティングに携わり、VRゲーム会社・MyDearestにマーケティング責任者として転職。VRゲームは海外比重が高く、海外展開への意識が不可欠であることにくわえ、スタートアップのゲームメーカーであるがゆえに「いかに泥臭く、ゲリラ的に注目を集められるか」という意識も必要だった。クラウドファンディングで資金調達した「クロノス」シリーズや、空前の大ヒットとなったインディーゲームのVR版である『8番出口VR』などを担当し、3年間で海外のインディゲーム市場の関係者とイベントを通じて知り合う機会も増加。それに伴って視野も広がり、独立してインディーゲームをパブリッシングする会社「Nexting」を立ち上げることとなった。

 現在の業務は主に事業会社向けのマーケティング支援となっているが、インディーゲームのパブリッシングやさまざまなゲーム開発プロジェクトも進行中。2月18日にはパズルアドベンチャーゲーム『インスタントメモリー』において、開発を手掛ける海外インディゲームスタジオEndflameと国内パブリッシングパートナー契約を締結したと発表した。近年、急速に広がりを見せるインディーゲーム市場において、Nextingはどのような役割を果たしていくのか。

「インディーゲームは大手パブリッシャーと比べると資金力では劣りますが、20年間のゲーム業界で培ったマーケティングのノウハウと、ゲームにしっかり寄り添う姿勢で、確実に実績を積み重ねていきたいと思っています。

 インディーゲーム市場はこれからも成長を続ける市場です。『8番出口』のように世界で成功するインディゲームが日本からどんどん出るようにしていきたいですし、日本だけではなく世界中の面白いゲームをいろいろなとこに広げていく動きも作っていきたい。そのためにマーケティングの力でしっかりとサポートしていきたいと考えています」

 ゲームを、コンテンツを愛するがゆえの“面白いものを広げたい”という思い。そして、映画好きでもある波光氏は、敬愛するフェデリコ・フェリーニの作品『8 1/2』の名セリフ「人生は祭りだ」から、「ゲームとは『祭り』である」という信念を持つ。

「『人生は祭りだ』。フェリーニはこの言葉を『映画=祭り』という意味でも使っていると解釈していますが、まさに私は「ゲーム=祭り」と思っています。近年、さまざまなジャンルのゲーム、eスポーツ、インディーゲームといった新たなムーブメントが次々と生まれ、グローバル市場も混沌とした状況にあります。

 しかし、それこそがとんでもなく面白い。まさしく「祭り」の真っただ中にいる感覚です。そして、毎日がとても楽しいです」

 社名の「Nexting」は「Next」の進行形から生まれた造語だが、これはロバート・デ・ニーロの有名なスピーチ「Next!」が元となっているという。まだ見ぬ名作を広めるために、どんなときでも情熱を燃やし、前進していく覚悟だ。

「エンターテイメントには唯一の正解はありません。そして、やっていることは泥臭く、大変なことも多いですが、『Next! Next! Next!』と、常に前を向いて挑戦し続けていきたいと思います」

■会社概要
会社名:Nexting株式会社
所在地:神奈川県横浜市港北区新横浜2-5-14 Wise Next新横浜ビル 3F
代表取締役:波光 正俊
事業概要:ゲーム・エンターテインメントコンテンツのマーケティング業務
     インディゲームのパブリッシング業務

Nextingは、20年以上にわたるゲームマーケティングの経験を活かし、国内外のゲームタイトルの成功を全力で支援 しています。
マーケティング戦略の立案からパブリッシング、コミュニティ形成まで、一貫したサポートを提供。
あなたのゲームを、より多くのプレイヤーへ届けるお手伝いをいたします。
詳しくはこちら→ https://nexting.co.jp/

■プロフィール
波光 正俊(Nexting株式会社 代表取締役)
1977年生まれ。これまでオンラインゲーム、コンシューマーゲーム、スマートフォンゲーム、VRゲームなど、50タイトル以上のゲームマーケティングを手掛ける。オンラインゲーム黎明期からアニメIPとのコラボレーションを積極的に推進し、100件以上の実績を重ね、現在のコラボ施策の基盤を築く。国内外を問わず、マーケティング戦略の策定から現場での実行まで、一貫して柔軟かつ幅広い対応力を強みとしている。

ハートフルパズル『インスタントメモリー』のデモ版が配信開始 Nextingが国内パブリッシングパートナー契約を締結

ゲームマーケティング会社のNextingは、パズルアドベンチャーゲーム『インスタントメモリー』において、開発を手掛ける海外インデ…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる