ボカロP・きくお×VR空間アーティスト・三日坊主に聞く、VRChatワールド『よるとうげ』制作秘話

国内外で高い評価を受け、18ヶ国41公演を巡るワールドツアーを開催中の きくお。三拍子やアコースティックを中心にしたメロディアスな楽曲から、ワブルベースを中心としたグリッチポップまで、幅広い音楽ジャンルと独自のタッチで描かれる世界観で多くのリスナーを魅了するボカロPだ。
そんな彼の世界観と楽曲を反映した3Dワールド『よるとうげ』が昨年10月、ソーシャルVRプラットフォーム『VRChat』にて公開された。音楽に合わせてワールドが自在に変化し、きくお楽曲の“心がざわつく”感覚を丁寧に再現した本作は、瞬く間に人気ワールドの仲間入りを果たした。
ワールドの制作を監督したのは、VR空間アーティスト・三日坊主。VR空間における3D演出を始め、プロップのモデリングからVJ、“ソーシャルライフキャラクター”としても活動する気鋭の作家である。今回、リアルサウンドテックではきくおと三日坊主による対談を実施。『よるとうげ』の制作過程から、作品に込められた想いまで話を聞いた。
【※本稿には『よるとうげ』のネタバレが含まれます】
ファンの心を救った、きくおの楽曲
――そもそも、『よるとうげ』のプロジェクトはどのようなきっかけで始まったものなのでしょうか。
きくお:もともと、自分のライブ活動のサポートをしてくれていたSony Music Entertainment(以下、SME)さんから、「VRでなにかしませんか?」という提案をいただいたのがきっかけです。
自分自身は、そこまで『VRChat』に入っている人間ではなかったのですが、VRのゲームは毎日のようにプレイしていたんですよ。特によく遊んでいたのが卓球のゲームで、他にもいろいろなゲームを楽しんでいたので、お話をいただいたときは率直に「面白そうな話だ」と思って。
どんな作品を作ろうか、と考えたとき、観た方が「なんじゃこりゃ!」と思う作品を作って、それをずっと置いておきたかったんです。今後、もっとVRの世界が盛り上がっていった時に、オーパーツ的に評価されて長く楽しんでもらえるものがあるといいなって。
――ワールドの制作を担当された三日坊主さんには、どういう流れでオファーをされたんでしょうか。
きくお:実際のワールドを誰に依頼しようかと考えていた時に、たまたま三日坊主さんの作品を見て「この人しかない!」と。
三日坊主:僕はもともとSMEさんが試験的に取り組んでいたメタバースライブのプロジェクトに参加していたので、そこを経由して「実はきくおさんからこれこれこういったオファーがきました」と話を受けまして、そこから本格的に話が進んでいったかたちです
――三日坊主さんは『Sanrio Virtual Festival』などでも制作に携わっていましたよね。きくおさんからオファーを受けたとき、どのように感じられましたか?
三日坊主:今まで作ってきたものを見てオファーしてくださったというお話を聞いて、光栄だなと。もともと、きくおさんの楽曲は2013年ぐらいからニコニコ動画で聴いていましたから。
実は僕、前職時代に児童福祉の施設で働いていたことがあったんです。そこは複雑な家庭環境の中で安全で健全な生活を送ることが難しい子や、そうした背景の中で地域でヤンチャした子とかが、一緒に寮生活を送っているような施設でした。
そこで働いているときに、子どもたちの成長の過程には福祉の力だけでなく、子どもたちの心を支えたり希望を見せる、音楽や漫画などのエンターテイメントの存在が大きくあるなと感じていました。
そういった前職の体験から、子どもたちのある種のしんどさを解消するようなものをつくってみたいと考えていました。
また、僕がその施設で一緒に過ごしたことがある子の中にきくおさんの曲を聴いている子がいたのもあり、この機会は運命的だなと思いました。ですので話が来たときに、二つ返事でお受けしました。
『三日坊主を止めるな2!』の衝撃
――きくおさんは自身の楽曲をVR化すると聞いて、どんなイメージをされていましたか?
きくお:イメージについては、一緒に作っていただくクリエイターの方次第だなと思っていました。自分はクリエイターの方とコラボレーションするとき、こちらの思い通りにやってくれる人ではなく、対等の立場で一緒に取り組んでほしい、という感じで頼むことが多いんです。
――それは、今回の三日坊主さんに対しても?
きくお:はい。もう、全面的に信頼していましたね(笑)。自分はなぜか、「こだわりの強い、さぞかし怖い人なんだろう」とか「面倒な人なんだろう」という先入観を持たれることが多いみたいで。でも、そんな感じでは全然ないんですよ(笑)。
むしろ、コラボレーションしてくださる方の解釈や表現したいものを思いっきり出してほしい、むちゃくちゃなもの作ってください、というスタンスです。三日坊主さんだったら、“ちゃんとむちゃくちゃにしてくれる”と感じていたので、最初から全面的に信頼していました。
三日坊主:正直なところ、僕もきくおさんは怖い人なのかなというイメージがありました(笑)。
きくお:そうらしいんですよね(笑)。
三日坊主:打ち合わせでお話してみたら、もうめちゃめちゃ気さくな方で、すごく柔らかくコミュニケーションを取ってくださったうえに「全面的にお任せします」とおっしゃっていただけて。
――きくおさんは、三日坊主さんのことをどこで知ったのでしょうか?
三日坊主:僕の『三日坊主を止めるな2!』というイベントの動画を見たとおっしゃっていましたよね。僕がポエトリーリーディングをしたり、お経を唱えたり、「アルゴレイヴ」という、即興で書いたプログラムで音楽を流したりするパフォーマンスをしながら、そこで流す映像のVJもするというVRイベントです。これを見てオファーしてくれたのなら、本当に好き勝手してもいいんだろうな、という安心感がありましたね(笑)。

















