tofubeatsが制作環境を見直して生まれた“新しい音楽のつくりかた” 「ゼロからもう一回やり直したいという気持ちがあった」

tofubeats、制作環境を一新した理由

 DTMが普及するなかで、プロ・アマチュア問わず様々なアーティストがDAWを使うようになった時代。アーティストたちはどのような理由でDAWを選び、どのようなことを考えて創作しているのか。また、キャリアを重ねるうえで、自身のサウンドをどのように更新しているのか。

 『Live』でお馴染みのAbletonとタッグを組み、それぞれのアーティストのDAW遍歴やよく使っているプラグインやエフェクトなどを通じ、独自の創作論に迫っていく連載企画「わたしたちの『Live』」。第四回目となる今回は、5月に5thアルバム『REFLECTION』をリリースし、11月3日に同作のLP盤『REFLECTION』とリミックス集『REFLECTION REMIXES』の発売・配信を控え、直近でもさまざまなアーティストへの楽曲提供を行うなど、精力的に活動を続けるtofubeatsに話を聞いた。

「『なんか自分のミックスが好きじゃないな』という漠然とした問題意識があった」

――まずは曲作りを始めたタイミングと、DAWの環境を整えていった過程について教えてください。

tofubeats:サンプラーなどを手にする前は、Windowsの“オーディオ編集フリーソフト界の王”である『SoundEngine Free』を使ってDJミックスみたいなのを作っていました。そのあとKORGのES-1というサンプラーをハードで買ったのですが、PCはレコーダー以上のものとしては使っていなかったんです。そこからはハードでの制作が続いていて。2008年、高校3年生のときにAbleton『Live 7』のアカデミック版を買って、そのときに一緒にパソコンもBTOで作ったんです。とにかく値段を抑えながら、スペックの良いものを組んで、そこに『Live』を入れました。

ーー最初に買ったDAWが『Live』になった理由は?

tofubeats:オノマトペ大臣に教えてもらって『Live 6』の体験版を使ったのが大きかったですね。それと、友人のimoutoidがライブで『Live』を使ってたんですよ。本当は『Logic』で作ってたみたいなんですけど、『Live』で曲も作ってると勘違いして「Abletonってやっぱりいいんだ」と思ったのが決定打となって『Live 7』を購入しました。

tofubeatsが学生当時に購入したアカデミック版の『Live 7』。

――それまでのハードメインの環境から『Live』に移行すると、描くキャンバスがまったく違うものになったと思うんですが、そのときの感覚って覚えていますか?

tofubeats:覚えてます。『Live』になる直前はMPCで制作をしていたわけですが、MPCから移行ができるっていうのは前提にあって。そういえば、『Live』を選んだきっかけとしては『blast』(ヒップホップ専門誌)で取り上げていたことも大きかったかもしれません。当時の『blast』はハード全盛なので、TRITON〜MPCと来て、ちょっと最後にAbletonが出てくる、という構成でしたから。

――作り方や使うハード・ソフトはキャリアを重ねてどんどん変わってると思いますが、最初から変わらないものはあったりしますか?

tofubeats:最初から変わらないのは「Drum Rack」ですね。あと、最初の2〜3年くらいはセッションビューを使って曲を作ることが多かったんですけど、そこから1、2年するとアレンジメントビューしか使わなくなって。いまもセッションビューは一切使わないですね。ライブでもセッションビューは使ってないので、けっこう普通のDAWみたいな使い方をしてることが多いかもしれません。

――ほかのDAWと併用していた時期もあるようですね。

tofubeats:そうなんですけど、そっちはあくまでも業務的なやりとりに使うことが多かったので。いまは改善されたんですが、以前は『Live』のエンコーダーに不満があって、トラックダウンだけProtoolsを使っていたりもしました。『Live 7』『Live 8』くらいまでは、「書き出したときにAbletonっぽさが取れない」みたいなことを言われてたんですが、それも『Live 9』あたりから解消されたので、いまは『Live』のみに再び戻っています。

tofubeatsの制作スタジオ。

――『Live』がアップデートされていく中で、tofubeatsさんとして大きなターニングポイントだと感じたポイントや機能はありますか?

tofubeats:「EQ Eight」にスペアナ(スペクトラムアナライザ)がついたのは、自分にとってブレイクスルーでした。『Live 9』から追加されたものなんですが、アナライザーが後ろに出るうえ、拡大表示もできるようになっていて。それまではEQを『Live』だけで完結させるのは難しいと感じていたのですが、そこが解消されてからは、ラジオなどのお仕事を『Live』オンリーで仕上げられるようになってきました。とくに出先で作業する際にはかなり役立っていますね。

スペクトラムアナライザを使えるようになり、さらに快適になった「EQ Eight」の制作画面(本人提供)

――モバイルセットでもシームレスに作ることができたと。

tofubeats:そうです。あと、つい最近「Utility」の音量が-∞まで対応するようになったのも、自分としてはめちゃくちゃ大きくて。僕、トラックのフェーダーをあまり動かしたくないんですよ。ボーカルのエンベローブを書くときもUtilityを何本も挿して、サ行を取るエンベローブはUtilityを一発入れて書いて、それとは別にAメロとBメロと全体的な音量にかけたいときはもう一発Utilityを挿す、みたいな感じでフェーダーを書くやり方が多いんです。そういうときにストンとミュートできるようになったので助かりました。ほかにも、ウェットの状態でパラデータが書き出せるようになったのも大きかったです。Protoolsなどを使っている人に「ウェットでパラを送ってくれ」と言われたときが一番地獄でしたから(笑)。

ーーほかに『Live』ならではの利点というのはありますか?

tofubeats:地味なところかもしれませんが、トラックの色分けは便利ですね。メイン素材、ベース素材、リズム素材みたいに見た目で区別できるので。それも含めたUIの良さは『Live』の利点だと思います。あとは「Max for Live」の存在もすごく助かっていますね。サードパーティを入れなければというときも「Max for Live」で探せば大体なにかはある。コードやスケールを調べる作曲支援系のものもあって、すごく役立ちました。一番使っているのはラウドネスメーターかもしれません。

ーーちなみに『Live 11』になって、さらに使いやすくなったポイントなどはありますか。

tofubeats:動作が本当に安定しましたよね。『Live 11』になってから落ちた記憶がないです。オートセーブがついたことにも涙が出るほど感謝しましたけど、オートセーブがついてから落ちなくなったんですよ。すごい矛盾だなと思いましたけど(笑)。

――よく使うエフェクトやプラグインで、自分っぽいなと思えるものはありますか?

tofubeats:やっぱり「Drum Rack」と「Simpler」ですね。でも、大人になってきてから「Drum Rack」を使うことが減って、どんどん「Simpler」だけになっていきました。サンプルをちょっと鳴らしたいとき、これまでなら波形をポンと置くことの方が多かったんですけど、30代に入ってからは「Simpler」を一回挿してそれにアサインするようになったんです。

――音楽性の変化というよりは、どんどん削ぎ落とされていくなかでそういった表現にたどり着いているというか、ここ最近の作風の変化と連動しているように感じますね。

tofubeats:間違いなくそうだと思います。あと、インストゥルメントだと「Operator」もよく使いますね。シンセは「Operator」しか使わないくらい好きです。

「Operator」を使用した楽曲の制作画面(本人提供)

――たしかに「Operator」=tofubeatsさんっぽい、というのはあるかもしれません。

tofubeats:僕はウェーブテーブル感のない朴訥な人間だと思うんですけど(笑)、それは「Operator」やシンプルなシンセが好きだからなんでしょうね。

――楽曲のテイストに関する話でいえば、今年リリースした『REFLECTION』はある種のターニングポイントというか。聴いていて、大きく作り方を変えたんだろうなと思っていました。

tofubeats:まさしく「自分がDAWをこう思って使ってる」というエッセンシャルな知識を見直すことが『REFLECTION』を作るうえでのテーマになっていて。なにも考えないでやってたローカットを何Hzからやるかとか、そういうところから全部考え直そうという。特にコンプレッサーに関してはゼロからもう一回勉強し直したというくらい。そのぶん、『Live』の純正プラグインを使うことも増えたんですよ。サードパーティでなんとなくこうなるからと使っていたものをあえて禁じて、自分で分かっていることは『Live』の中だけで完結させようと。

――低音周りでいえば、音の積み方や腰回りの締め方、リリースの質感はがっつり変化しているような気がしました。

tofubeats:リバーブひとつとっても初期設定で使いがちだったものをやめるとか、高校生のときから“ノリ”でやっていたところを「もう大人になったんやし」とイチから整理していきました。でも、“ノリ”でできてしまうところが『Live』のすごいところでもあるんですけどね。「EQ Eight」にスペアナがなくて使いにくかったという話だって、ノリで曲を作るうえで細かいところは邪魔でしかないわけだから、逆に言うと使いやすかった、という話なんですよ。そういった目線から考えられているDAWであるというのが伝わってくるところも、『Live』やAbletonが好きな理由なんですよね。

ーー直感的に作れることが『Live』最大の強みでもありますもんね。ほかにも、使い方・作り方を変えたことについて、もう少し細かく教えてもらえると嬉しいです。

tofubeats:同じソフトでも使い方が変わってきたところはありますね。これまであまり使ってなかった「Glue Compressor」を今回は使うようになったりとか。これまでは普通のコンプレッサーの設定を変えて対応していたんですが、なにをどうすればどこに効くのかを改めて勉強しなおしたことで、こっちの方がいいなと。

 あと、今回はミックスまで48kHz/32bitで完結しているのも、聴いていただいたうえで大きく違いを感じてもらった要素としてあるかもしれません。ディザーはマスタリング段階で入れてもらうようにしてもらって。

――それはどういう意図が?

tofubeats:ディザーについていろいろ調べた結果、ディザーについて考えることが一番面倒くさい、という結論に至りまして(笑)。自分で作業をするときは、ディザーを外そうということになったんですよ。『Live』の内部でやるディザーとそうじゃないディザーはどう違うのかといったところも検証して、自分がどっちが好きかを検証したうえで、そういう決断に至りました。

――そうして見直していくフェーズを作ったのは、2020年以降のコロナ禍も関係しているのでしょうか。

tofubeats:それももちろんありますね。でも、ひとつ前のEP(『TBEP』)を作ってるときくらいから「なんか自分のミックスが好きじゃないな」という漠然とした問題意識があって。自分の曲をクラブで聴いたりして、すごくムラがあるなと感じることが多かったんです。だからエンジニアリングに関して、ゼロからもう一回やり直したいという気持ちはあったんですよ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる