ササノマリイに聞く、“サウンドの変化”の裏側にあった挑戦 『Live』での創作を経て掴み取ったものとは

ササノマリイ、“サウンドの変化と挑戦”

 DTMが普及するなかで、プロ・アマチュア問わず様々なアーティストがDAWを使うようになった時代。アーティストたちはどのような理由でDAWを選び、どのようなことを考えて創作しているのか。また、キャリアを重ねるうえで、自身のサウンドをどのように更新しているのか。

 『Live』でお馴染みのAbletonとタッグを組み、それぞれのアーティストのDAW遍歴やよく使っているプラグインやエフェクトなどを通じ、独自の創作論に迫っていく連載企画「わたしたちの『Live』」。第二回に登場したのは、ボカロP・ねこぼーろとしてキャリアをスタートさせ、現在は自身の名義での音楽活動やさまざまなアーティストへの楽曲提供、たなか&Ichika Nitoと結成したバンド・Diosなどでも活躍するササノマリイ。“本当に作りたいものを作れる”という『Live』での創作を経て、彼が掴み取ったものとは。

『Live』は「本当に自分が作りたいものを作れる」

――まずはササノマリイさんのDAW遍歴を伺えればと思います。

ササノマリイ:最初に曲を作り始めたのは、ゲームボーイの『ポケットカメラ』(編注:ミニゲームの中に音楽を作れる「DJモード」というものがあった)なんですよ。本格的な曲作りを始めたのは中学2年生のころですね。初めて家にパソコンが来て、パソコンで作っている曲が世の中にも色々あるということを知って。最初に『Cakewalk』や『Singer Song Writer』を触り、専門学校に入った段階で『FL Studio』を使い始めたときに、WindowsからMacに乗り換えたいという欲求が生まれてきて。当時の『FL Studio』はMacに対応していなかったのと、僕の憧れでもあったkz(livetune)さんがAbletonの『Live』を使っているのを知って、自分も『Live』を使い始めました。僕はものを覚えるのがとても苦手だったり、最初に『FL Studio』で曲作りを覚えたせいで、いわゆる一般的なDAWの画面で作るというのは、自分のなかでできる気がしなかったんです。『Live』はセッションビューがあったり、見た目がとにかく好みだったんです。最初こそ乗り換えをして慣れない時期もありましたが、『Live』は本当に自分が作りたいものを作れるというところで選びました。

――『Live』に慣れていくうちに、さまざまな利点を見つけていったということですね。

ササノマリイ:ほかのDAWでも同じことができるかもしれないけど、それよりも直感的に自分のやりたいことを付属しているものだけでも作ることができる、というのは大きかったです。コンプレッサーやリミッターに関しても、プリセットだけで帯域別に分けて上の帯域にはコンプをかけて、下はバイパスしながらEQをかける、という処理までこなせるのは、今から考えてもとても便利だなと思いますし。『Live』だけ買えば、ひとまず一定のレベルのものは作れるし、「あれがないんだけどどうしよう」という悩みにもある程度の答えが用意してあるので、それを自分で見つけられるのもメリットでした。

ササノマリイの制作環境

――直観的、というのは『Live』について考えるうえで一つの大きなキーワードですね。ササノマリイさん自身も即興的・本能的な曲作りを普段からされていると伺いました。

ササノマリイ:そうなんです。だからこそ、ほかのDAWで曲を作れる気がしません(笑)。

ーー覚えるのが苦手、とのことでしたが、とはいえ使っていくうえで自分なりのカスタマイズや独自の方法も見つけられていると思います。そのあたりはいかがでしょう?

ササノマリイ:『Live』のコレクション機能が増えたタイミングで、自分が作ったラックのセットや素材をカテゴリ分けしておいて、すぐ目につくところに置くようにしたのですが、これが非常に助かっていて。自分が一番最初に使いそうな楽器や、最初にインスピレーションをもらうために立ち上げておきたいものを、とりあえずコレクションに突っ込んだりしています。ハードの楽器の階層に潜り込むといったこともせず、立ち上げて目の前に見えているボタンで音色を変えてるくらいの気持ちで全部を操作できているのも楽で。どこのタブに切り替えて、なにを開けばいい、ということではなく、やりたければそこに表示されているというのは、自分が『Live』を使っていきたいと思う理由だったりします。

――ご自身がよく使うラックについても、ぜひ詳しく聞いてみたいのですが……。

ササノマリイ:まず、自分が耳で聴いて作る段階では、マスタリングされてるような音が好きなんです。最終的に書き出すときとは違う、何をどう弾いても良い感じに聴こえるような音をまずマスターとして出します。ちょっと深めのコンプなどを含めた10個くらいを使う感じですね。あとはトラックごとにパッと自分の好きな音になってくれるように、ひとまずインストゥルメント用のプラグインセットを出したりもします。ローカットやハイカット、リアンプ用のギターアンプをラックとチェーンで組んで、-30dbで混ぜたり……。思いついていいなと感じたものはとにかくラックにして保存しているので、かなり色んなものがありますね。

――以前はローファイ系の音を作りがちだとお話していましたが、先ほどは「マスタリングされたような音が好き」とありました。ご自身のなかで好みの音は変化しているのでしょうか。

ササノマリイ:両方が好きではあるんですが、人に提供する曲で音がハッキリしているものを作る機会が続いたこともあって、ローファイの音の出番が少なかったんです。グシャっとしている感じの音が本能的に好きなんですよね。そういう音を作る時には「Redux」を使っていたんですが、最近アップデートされて、以前に使っていた感じの処理ではなくなったので、出番が少なくなってしまったんです。その代わりといってはなんですが、「Auto Filter」が新しくなって、変な共振をせずにすごく綺麗で音楽的な処理をしてくれるようになったんです。(画面を見せながら)以前はこのバンドパスにしたときにどうしてもピークが結構出てしまっていたので、あとで結局削っていたんですが、それでも1k付近にしたときの「コンッ」という音がすごくお気に入りだったので、アップデートしないままでいます。

 あとは「Complex Pro」の処理の仕方が変わったのか、オートメーションでトランスポーズを書くときに、良くも悪くも音が破綻しなくなったんですよね。昔だと上げていくときにザラっとした音が含まれていて、あれが逆にエレクトロニカ系の音として使うのに結構アリだったんですけどね(笑)。

――『Live』がアップデートを重ねていくなかで、これが加わって嬉しかったという機能は?

ササノマリイ:MIDIのキャプチャ機能ですかね。これが追加されるとアナウンスされたときには「勝った!」と思いました(笑)。

 普段の曲作りは、即興で鍵盤を弾いていて、なにかひらめいたら改めて録ることが多いのですが、「いま弾いたフレーズ、すごくよかった!」と思って弾き直しても、完全に再現できなくて「なにか違うな……」と感じたりもするのですが、この機能によって自分の思ったまま、弾いたままのフレーズが残るので、「さっきの録っておけばよかった!」というのが完全になくなったわけです。直感的に音楽を作るタイプとして、かなり助けられましたね。あとはアレンジメントの機能の方では、テイクレーンの機能ですね。歌やギターで一音ごとに録り直したいと思ったとして、ツルって録っておいてパンチを入れてもしっくり来ないままズレちゃって、裏に隠れたデータがどこに行ったのかわからなくなる時があって、そこだけ前のテイクを使いたかった、ということを簡単にケアできるようになったのは本当にありがたいですね。あと、エクスポートのところで”リターン/マスターエフェクトを含める”をオンにした上で各トラックを書き出したり、選択したトラックのみ書き出すのが選べるようになったことも最高でした。それまでは、1トラックずつボタンを押して書き出したり、マスターのプラグインで一括で処理したのを最後に書き出すとなると、100トラックを越えるのでそれだけで1日が終わることもあったので……自分にとっては革命といえるアップデートでした。

ーーよく使っているエフェクトなどを伺ううえで、今日はPCを持参いただいているので、できればランク表示をして見せてもらえると嬉しいのですが……。

ササノ:いいですよ。一番頻度が高いのは付属のエフェクトの組み合わせで作ったWideエフェクトですね。これはコーラスを使って位相をズラしているんです。真ん中を出しているところから位相をずらして広げるんですけど、インプットで片方だけ位相反転したものをぶつけることによって、真ん中が消えることがある。これを前段に指すことによって片方がまた反転できるので、真ん中が無くなってほしくないところをカバーできるんです。あとは「Auto Filter」「EQ Eight」「Utility」「Compressor」「Glue Compressor」の順ですね。

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