すべてのNintendo Switchユーザーは『Portal:コンパニオンコレクション』をプレイすべきだ――いま一度伝えたい、歴史的傑作の魅力

改めて振り返る『Portal』の魅力

 2022年6月28日、Nintendo Switch用ソフト『Portal:コンパニオンコレクション』がダウンロード専売タイトルとしてリリースされた。

 本作は2007年にPCでリリースされた『Portal』と、その続編として2011年にリリースされた『Portal 2』がセットになったバンドルだ。購入すると、Switchのメニュー画面に『Portal』と『Portal 2』が別個でダウンロードされることになる。

 いずれも10年以上前のゲームではあるが、それがプレイしない理由にはまったくならない。時代を超越するおもしろさと独創性を持ち、後年にリリースされた数々のゲームタイトルにも多大な影響を与えた、真の傑作シリーズであることをまずはお伝えしておきたい。

 ひとつ客観的な評価を挙げるならば、ゲームメディアの『IGN』が昨年末に公開した記事「The Top 100 Video Games of All Time(歴代ビデオゲームTOP100)」では『Portal』が23位、そして『Portal 2』は堂々の3位に選出されている。ちなみに2位が『スーパーマリオワールド』で1位は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』なのだが、この『ブレス オブ ザ ワイルド』のゲームデザインには、『Portal』シリーズからの影響を見て取ることができる(これについては後述)。

 そんな歴史的傑作シリーズがいま最も勢いのあるゲームハードであるNintendo Switchでプレイできるようになったにも関わらず、多くのユーザーに素通りされてしまうのはもったいない……Nintendo Switchを持っているすべての人にこのゲームをプレイしてほしい……その一心で筆者はこのコラムを執筆している。購入を決めた時点でページを閉じてもらって構わないのだが、「もっとどんなゲームか知ってからじゃないと踏み切れない」という方には、いましばらくお付き合い願いたい。

 それからもうひとつ、こうまで言っておきながら心苦しい限りなのだが、ゲームで「画面酔い」をする人とは、だいぶ相性の悪いゲームでもある。その点だけは注意してほしい。

SF的ガジェットがもたらす体験を身をもって味わえる、ゲームならではのセンス・オブ・ワンダー

Portal:コンパニオンコレクション [Nintendo Direct 2022.2.10]

 『Portal』シリーズの基本的なゲームルールは1作目、2作目ともに変わらない。操作キャラクターは右腕に「ポータルガン」という装置を取り付けており、ここからは「オレンジ色の輪っか」と「青色の輪っか」を発射できる。そしてふたつの輪っかは壁や床に張り付いた時点で「空間を繋げる」のだ。

 ふたつの輪っかを壁や床に張り付けた状態で、青い輪っかをくぐってみる。すると操作キャラクターは、オレンジ色の輪っかから出てくることになる。自分の前後に輪っかを作り、前方にある輪っかをのぞけば、自分の後ろ姿を見ることができる。天井と床へと垂直に輪っかを作れば、「半永久的に落ち続ける」ことになる。

 こうした「空想上にしか存在しないSF的ガジェット」によってもたらされる体験を、漫画や映画のように客観的に眺めるのではなく、自らの身をもって味わえるというゲームならではのセンス・オブ・ワンダーがまずはこのゲームの魅力の根幹にある。

 その上で、本作はギミックが仕込まれた数々の部屋で、出口へとたどり着く方法をポータルガンを利用して解き明かしていくアクションパズルだ。「空間を繋ぐ」ことで、普通に歩いてもたどり着けない場所(たとえばジャンプでは届かない崖の向こう)まで移動したり、キューブを運んで「重り」にすることで扉に対応しているスイッチを起動したり、こちらを攻撃してくるタレットを無効化したり――複数のギミックが組み合わされている場合もあり、新たな部屋に進むたび、頭を悩ませることになる。

 実は、このゲームで輪っかを設置できるのは「白い壁や床」のみで、黒い部分には設置できない。これに伴い、さまざまな局面で活用することになる重要な法則がある。それは「輪っかをくぐっても、くぐる前に生じた運動エネルギーはそのまま引き継がれる」ということだ。

 たとえば、前もって壁にオレンジ色の輪っかを設置してから、高所から飛び降りつつ床に青い輪っかを作ってそのままくぐれば、落下で生じたエネルギーを保持したまま、壁から勢いよく飛び出すことになる。先ほど例に挙げたような「ジャンプで届かない崖の向こう」が黒い壁で覆われていて、直接輪っかを撃ち込むことができない場合も多いため、こうしたテクニックをいかに活用するかというのがパズルを解くカギなのだ。

 その唯一無二のゲーム性と、パズルデザインの秀逸さ。それから「謎の研究施設で目覚めた主人公が、皮肉屋なAIの指示に従いながらテストを受けていく」という独特のユーモアに満ちたストーリーが渾然一体となってもたらされる体験は、リリース当時、多くのゲームメディアとゲームファンに絶賛をもって迎えられた。

 エンドロールで名曲「Still Alive」が流れるとき、すべてのプレイヤーが得も言われぬ充足感に満たされたことだろう。

傑作の「完璧な続編」となった『Portal 2』

 傑作、とくに「独創的」と称されるような作品の続編が、前作に並ぶ評価を得るのは難しい。『Portal』と『Portal 2』のどちらがより傑作であるかというのは意見が割れるところではあるが、『IGN』のランキングをはじめ、少なくない人が『Portal 2』をより優れたゲームと考える理由を端的に表現するなら、本作ほどに「続編として完璧なゲーム」は滅多に存在しないという点に尽きるだろう。

 先ほど書いたとおり、基本ルールは前作と変わらないが、パズルのギミックにはいくつか新しいものが追加されている。とくに『Portal 2』を象徴するギミックと言えば、中盤から登場する「特殊な効果を持つ液体」だ。ポータルガンを利用して壁や床にどのようにこれを塗りたくるか? というのがパズルの解法に絡んでくる。前作では無菌室のような印象だった研究所がびちゃびちゃと液体で汚れていく様子が新鮮であると同時に、前作にもあったギミックとの組み合わせにより、パズルのバリエーションが大幅に豊かなものとなった。

 このゲームとしての進化と並んで『Portal 2』を「完璧な続編」たらしめているのが、プレイヤーにストーリーを伝えるための演出面の強化だ。ユニークなAIは前作から続投する「GLaDOS」に加え「Wheatley」が登場。彼らの掛け合いのおもしろさはもちろん、モーションからも両者の(AIでありながら)人間臭い個性がときにコミカルに、ときに恐ろしさを伴って伝わってくるように。さらに、彼らの台詞に呼応してステージが変化を遂げるといった、よりゲームプレイにリンクする形での展開が徹底されている。

 ゲームとしての進化したおもしろさと、先を見たくさせてくれる素晴らしい演出・ストーリー。その両方から、前作をプレイした者にとっては著しく落ちる「コンセプトの新鮮さ」を補って余りある極上の体験を提供してくれるのが『Portal 2』なのだ。

 ここまで書いてきたのは1人プレイ用モードについてだが、本作には前作になかった2人協力プレイモードも存在する。ここでも基本ルールはそのままに「ゲームプレイの拡張」に成功しており、その隙のない進化ぶりにはプレイするたびに感心させられる。

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