分かりやすい「正しさ」にすがらないことの大切さ。「正解」がないからこそ、想像の余地がある『7 Days to End with You』

「正解」がなく、想像の大事さを知れるゲーム

 高校の文芸部も含めればかれこれ15年以上文章を書いている筆者だが、小心者ゆえに、いまでも自分の文章がどう読まれているかを気にしがちだ。特にゲームや小説、映画といった作品のレビュー・批評記事に関しては、間違ったことを書いていなかったか気になって、ついついエゴサーチをしてしまう。もちろん、これは物書きゆえの悲しき性でもあるし、自分の書いたものがどう受容されたかを見るのは、筆者のような弱小ライターにこそ必要とされる姿勢であることに間違いない。

 一方、最近では多くの人が筆者と同じように間違いを恐れ、多くの人が自分が間違っていないか、正しいことを言えているのかを気にするようになったと感じる。他人とのコミュニケーションには「正解」があって、それを「攻略」するような投稿や書籍が注目を集めがちで、作品を語る際には、その解釈や批評に「正しい読解」が求められているように思える。実際、ネットで炎上をしたくない、誰かに突っ込みを入れられたくないという思いから、ついついこうした「正しさ」を追い求め、窮屈な思いをしている人は少なくないだろう。

 そんな悩みを抱えている人にこそ紹介したいのが、『7 Days to End with You』だ。

7 Days to End with You | on Steam Trailer

※本稿ではネタバレを含まないが、完全にまっさらな状態でプレイしたいという方は一旦ブラウザバックして購入することをオススメしたい。本作はSteam、iOS、Android向けインディーゲームで、価格も520円と非常に安いからだ。

未知の言語を読み解くノベル×パズルゲーム

 『7 Days to End with You』はノベルゲームでありながら、パズルの要素もあわせもったゲームだ。プレイヤーは物語の観測者となり、未知の言語を翻訳することで、ストーリーを読み解くこととなる。

 主人公は見知らぬ部屋で目を覚ますのだが、記憶を失っており、目の前にいる女性のことはおろか、彼女が話している言葉を理解することすらできない。本棚に置いてある本や新聞を読むこともできないし、キッチンに置かれたビンのラベルを読むこともできないので、何が入っているのかも分からない。

目に入ってくるのは、抽象的な記号だけ。本作ではこれを翻訳することとなる
目に入ってくるのは、抽象的な記号だけ。本作ではこれを翻訳することとなる

 幸い、女性は言葉を理解できない主人公に協力的で、家具などのオブジェクトをクリックすればそれがなんなのかを未知の言語で教えてくれるほか、時には植物の世話や料理などを手伝ってくれたり、表情豊かに話しかけてくれたりすることもある。

 このように本作では、彼女とのコミュニケーションを通じて、一つひとつの単語の意味を推理していくこととなる。本作は単語ごとに翻訳のメモをとることができるので、メモを見ながら、その単語が、いつ・どこで・どのように使われたかを振り返ったり、他の単語と意味を照らし合わせていくことで翻訳を進めていく。

 数や色は分かりやすく、「おはよう」のような挨拶もなんとなく想像がつくが、さまざまな場面で頻繁に出てくる単語に限って、意味を特定できないことも多く、その単語が使われているシチュエーションや対象の共通項、話す彼女の表情などから推測していくことで、難解な単語がなにを意味するかもボンヤリと見えてくる。

単語はメモに残せる
単語はメモに残せる

 タイトルからも分かる通り、本作はゲーム時間で7日経過すると終わりを迎えることになる。7日という短い期間で全ての単語の意味を理解することは難しく、物語の全容や、女性が何者なのかはおろか、彼女が主人公に何を話し、伝えたかったかすら分からずに終わってしまう。

 本作には2週目以降も存在し、単語メモを引き継いでプレイすることができる。また、本作はマルチエンディングを採用しており、一定の条件で物語が変化する。

 2週目以降でも、ゲームの内容には変化がないものの、周回を重ねるたびに言葉の意味が分かっていくことで、彼女が何を話しているのかや、自分に対してどのような感情を持っているのかが掴めてくる。彼女への理解が進むことで、物語の全容に対する考察も深くなっていく。そうすると、今度はこれまでの翻訳にミスがあったことに気が付いたり、何度も見てきたシーンの解釈がまるで違っていたことに思い当たったりする。

 こんな風に本作は、周回プレイの中でトライアンドエラーを繰り返しながら、言葉に意味を持たせていく。翻訳が進むほど、新たな7日間を過ごしたくなる。物語の全容を明らかにしたいのはもちろんだが、筆者はそれよりも、彼女が主人公に何を伝えているのかを知り、コミュニケーションを取りたいという気持ちの方が強かった。

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