『It Takes Two』で上がったハードルを軽々と越えてきた! 2人プレイ専用ゲームの最高傑作『SPLIT FICTION』レビュー

『SPLIT FICTION』をクリアした。本作は元映画監督のゲームクリエイターであるジョセフ・ファレス氏が率いるHazelight Studiosの最新作。VRシミュレーターに取り込まれたふたりの作家の卵が、SFとファンタジー世界を行き来しながら、協力して悪を倒すというゲームだ。
前作『It Takes Two』がThe Game AwardsでGame of The Yearを受賞したことで、本作のハードルはかなり上がっていたことだろう。しかし、ふたを開けてみると、前作を軽々しく超えるクリエイティビティが発揮されており、友達とふたりで遊ぶゲームならばこれ! という新しい常識すら打ち立てたのではないかと思うほど素晴らしい出来だった。

コテコテの設定から放たれる斬新なアイデアの大洪水 どこを切り取っても文句がない最高のアクションゲーム体験
まずはストーリーから見ていこう。
主人公はSF作家志望のミオと、ファンタジー作家志望のゾーイー。ふたりはとある出版社に招かれたが、行ってみるとそこには巨大なマシーンがあり、半ば強制的に実験に参加させられた。ミオが違和感を覚えて暴れると、同じマシーンの中にミオとゾーイーが閉じ込められてしまった。ふたりは毒づきあいながらも、自分たちが考えた設定のSF世界とファンタジー世界を行き来しながら、出口を探す。

次第にそのマシーンが作家のアイデアを勝手に抽出するためのものだと気づくふたり。果たして彼女たちはふたつの世界から脱出し、出版社の邪悪な計画を止めることができるのか?

そもそも出版社が新人作家のアイデアだけを抽出して何をするのか? という疑問や、彼女たちの脳内にある小説の設定がむしろゲームかコミックスのためのものにしか見えない点など、リアリティレベルにおいては前作をさらに下回っているだが、それらはすべて脇に置いて、純粋にゲーム部分だけを評価したい(ほぼすべてのプレイヤーがさして気にしなかった点だろう)。
無粋なツッコミはさておき、本作のゲームプレイは素晴らしいの一言に尽きる。協力マルチプレイヤーゲームのワールドスタンダードを更新したと言ってもいいだろう。

前作『It Takes Two』同様、本作は古き良き画面分割プレイを余儀なくされる。左半分がミオ、右半分がゾーイーだ。プレイヤーたちは、ミオの考えたネオンきらめくサイバーパンクの世界や、宇宙艦隊が空を飛ぶスペースオペラの世界を飛び回ったり、ゾーイーの考えた氷に閉ざされた耽美なファンタジー世界や、ゴブリンたちが練り歩く伝統的なファンタジー世界を冒険することになる。

これまた前作同様、それぞれの進む道に別々の仕掛けが用意されており、協力しなければクリアできないようになっている。片方がボタンを押して巨大な杭を出しているあいだ、もう片方が振り子の要領で壁を壊したり、片方が船になって池の上を移動する一方で、もう片方はその船に乗って敵に当たらないようにジャンプしたりと、本当に多種多様なアクションが怒涛の勢いで押し寄せてくる。
そのほとんどのギミックは直観的であり、見ればすぐにルールがわかるようなものばかりだ。しかも同じアイデアを何度も擦ることはなく、二度三度楽しく遊ばせてくれたらそれっきりで、またすぐに別のギミックが登場する。そのギミックに四苦八苦して理解したころには、もう場面は転換しており、またさらに面白いゲームが登場する……そんな具合だ。

前作ではひとつのマップに対して同じ道具をずっと使わされるシーンが多く、片方がシューティングであれば、もう片方は近接攻撃といったような感じで、しばらく担当が交代しないことがあったが、本作ではそこにテコ入れが入っており、同じ道具でも使い方が変化するなど、飽きさせない工夫が随所に盛り込まれていた。
ここに文章で列挙しても長くなるだけなので割愛するが、遊びのバリエーションはどんな先行作品よりも潤沢で、なおかつつまらないものがまったくと言っていいほどない。徹底した取捨選択と作り込みで、これほどの大ボリュームを維持しているのは狂気的なほどだ。

特に、最終盤のマップの出来は凄まじい。すべてのゲーマーが一度は妄想したであろうお約束を完璧に叶えてくれたうえで、さらにその妄想にもっと素晴らしいアイデアをてんこ盛りにした体験が待っていた。
子どものころに初めてテーマパークに行ったときに感じたような感動がドドッと押し寄せてくるのは間違いない。「ゲームを好きでいてよかった!」と思えるほど、ビデオゲームという芸術表現の時計を何時間も進めるアイデアが何個も詰まっている(まさしくジョセフ・ファレスはゲーム業界に来るべくして来たのだ!)。

また、カットシーンにおいてもかなりの進化が感じられた。前作ではそのマップごとにNPCがいて、自分たちの置かれた状況について何やかやと説明するストーリーパートが挟まったが、今回はミオとゾーイー(とヴィランである出版社の社長)しか主要登場人物がおらず、会話主体のカットシーンは極力削られている。
それによってストーリーはさらにシンプルにはなったものの、ゲームプレイを邪魔しないという意味では明らかに英断であり、前作にあったゾウの四肢がもぎ取られるような、キャラクターたちに感情移入できなくなるような余計なシーンも存在しなかった。徹頭徹尾、悪役を追いかけて倒すというモチベーションだけが保たれて、あとは大量の面白いアクションが流れてくるだけである。

ポールを掴んだあとのジャンプと駆けあがりのボタンが逆であってほしかった点や、一部のギミックが妙に高度なエイムやジャンプを求めてくるなど、細かい問題はゼロではないが、大きな欠点は見当たらない。ゲーム開始からエンディングまでずっとニコニコで遊べるような、全人類が求めていた面白いアクションゲームがここにある。
執筆時点でメタクリティックは91点だったが、この点数はもはや過小評価だ。『SPLIT FICTION』が次世代のマルチプレイヤーゲームが学ぶべきメルクマールとなったのは間違いないだろう。
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