分かりやすい「正しさ」にすがらないことの大切さ。「正解」がないからこそ、想像の余地がある『7 Days to End with You』

「正解」がなく、想像の大事さを知れるゲーム

正解がないからこそ、想像の余地がある魅力的な作品

 本作の特徴は、決して「正解」がないことだ。このことは、本作の冒頭で提示される「貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう」というメッセージで、はっきりと示されている。

 本作では、言葉をどう翻訳するかはプレイヤーの自由だ。作中のメモは、単に自分の翻訳を書いておけるだけのものであり、正解を告げる効果音が鳴ることはないし、得点が付与されたりもしない。そもそも「正しい翻訳」なるものは存在しないため、翻訳が正しいか、それとも誤っているかの判断もプレイヤーに委ねられる。

 また、翻訳はプレイヤーの語彙や、キャラクターをどう見ているかなどで左右されることもあるだろう。「ありがとう」といった何気ない言葉でも、「あざっす」「ありがと」「サンキュー」といった風に、翻訳する人によってさまざまに変化する。

 ある人は、女性を快活な人物だと思い、「ありがと!」と訳すかもしれないし、ほかの人は普段自分がよく使う「ty」という略語を何も考えずに打ち込んでいるかもしれない。こんな風に、翻訳の仕方は十人十色であり、その積み重ねによって、プレイヤーによって微妙に異なるキャラクターやストーリーの輪郭が浮かび上がってくる。

 翻訳が自由な以上、彼女とのコミュニケーションにも正解はない。どのようなやり取りをしようとも、「パーフェクトコミュニケーション」や「彼女の好感度が上がった」といった表示が出てくることもない。それどころか、こちらの返答で変わった彼女の表情を見て、また別の推理をする必要が出てくる。

 そして、物語全体に対する解釈についても、明確な答えは存在しない。主人公や女性は何者で、二人はどういう関係性で、なにが起こったのかといったことを、どう読み解いてもいい。「正解」がない以上、ここで起こったことをどう表現するかは、プレイヤーに委ねられているのだ。

正解や効率を超えて

 ふと自分のゲームプレイを思い出してみると、ついつい効率的なプレイがあり、全てのものに正解があると思いがちだし、多くのゲームがそうした「正解」を求めることが楽しさに繋がっているという側面もある。一方で、冒頭でも述べたように現実世界でもあらゆる送受信、すなわちコミュニケーションや作品について考えること、それを投稿することなどについて、ついつい正しさを求めてしまいがちだ。あらゆることが炎上や誹謗中傷に繋がってしまう時代だからこそ、間違う可能性があることを不安に感じる人も少なくないだろう。こと、ゲームにおいてはプレイにおいても効率や最適解を求められ、ストーリーの読解にも正しさを求められてしまう。また、そのゲームが面白かったかどうかまで、人の意見を気にしてしまうことは少なくないだろう。

 だが、『7 Days to End with You』はそんな時代において、コミュニケーションや作品読解なんて究極的には不確かで、「正解」なんてないことを思い出させてくれる。また、本作は正解がない分、爽快感や達成感といった報酬はあまり感じることができないが、それ以上に想像力を働かせて考えることの楽しさや、大切さを痛感させられる作品なのだ。

 この物体は何なのか、彼女は何を言っているのか、どうして物語はこういう結末を迎えたのか……。そうしたことについて想像力を巡らせながら作った自分だけの単語メモをプレイ後に振り返ってみるだけで、自分がどんな言葉で考え、それを残しているかがぼんやりと見えてくる。そのメモはきっと、「あなたと過ごした7日間」を記した、オリジナルのメモになっているはずだ。

 その上で、友人やネット上にある他の人の単語帳や考察と、自分のそれとを見比べてほしい。その時、あなたの考えも、あなたが受け取るものも全て正解であることを本作は保証してくれている。

 一歩踏み込んだことを言うと、他者や作品に対して「間違ってしまう」ことは不安かもしれないが、だからこそ安易で、分かりやすい「正しさ」にすがるのではなく、想像力を働かせて向き合うことが、作品や他者へのリスペクトに繋がるのではないだろうか。そして、その想像力は作品を楽しんだり、他の人の考えに触れることで培われることを、本作は思い出させてくれるのだ。

 最後になるが、一点、本作には問題点がある。暗号解読の要領で単語が翻訳できてしまう点だ。また、すでにネット上にはさまざまなネタバレ・考察がアップされている。プレイする際には是非、ネタバレなしでプレイしてみてほしい。繰り返しになるが、効率性を求めすぎると想像の余地を失ってしまうことも少なくないはずだ。

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