美術館のオンラインチケットが生む弊害 様々な世代のニーズに応えるためにできることは?

美術館のオンラインチケット

 大切な美術館を守っていくにはどうしたら良いだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大以降、運営方針の転換を迫られた多くの美術館は、ひとまず「時間区切りのオンライン予約制」を導入した。しかし、この制度は様々に弊害を生んでしまっているのかもしれない。ウェブ版美術手帖の編集長である橋爪勇介氏は先日、個人のTwitterでこのようなツイートをした。

 特にお年寄りにとっては、インターネットで様々な個人情報を登録したり、時間指定を行ったりするのはなかなか難しいだろう。そもそも、美術館や展覧会によって個々に開設されている「チケット購入ページ」を探し出すのも一苦労なはずだ。

 オンライン予約制に腰が引けてしまうのは、お年寄りだけではない。高校生や大学生の中には、まだ自分のクレジットカードを持っていない人もいる(筆者もその一人だ)。しかし、展覧会の事前予約チケットはクレジットカード払いしか受け付けていないところも多い。そのため、身近な大人に代わりに予約してもらい、お金を払って、予約のメールを転送してもらって……というように、多くの手順を踏まなければならない。このように、事前予約のオンラインチケットには、人によってはいくつもハードルが存在するのだ。

 東京都国立博物館では、オンラインチケットの予約が難しい人のために、当日のみ有効の日時指定券を若干数している。しかし、来館時には既に完売している可能性もあるため、できるだけオンライン予約をするように推奨している。

 これといった解決策が提示されない中、森美術館が9月19日より、ネットでの事前予約なしで入館できるようにシステムを変更したと発表した。同日より政府がイベント開催時の人数制限を緩和したこともあり、美術館に少しずつ人々が戻ってくることを楽しみにしつつも、集団感染の恐怖と隣り合わせの日々が続くことがもどかしい。Twitter上の美術館関連の人たちの声を聞く限り、実際は、密を避けるための客の間引きよりも、コロナの影響でそもそもの来館者の数が減少してしまっていることが1番痛手であるようだ。

 「VRを利用したオンライン美術館が、マネタイズを加味すると将来的に1番の解決策だ」という声もある。だが、実際に美術館を訪れて、本物を生で鑑賞する時の感動(没入感)と同じものを、たった数年でVRで味わえるようになるとはあまり思えない。その上、いつコロナが終息するかが判断できないため、いまは「オンライン予約をうまく機能させるにはどうすれば良いか」を考えることが最優先課題であるように思われる。運営面では、各美術館がリアルタイムで策を練っていることが想像されるが、より来館のハードルを下げるためには、一体どんな“技術”が開発される必要があるのだろうか。

 筆者が個人的に、美術館のチケット販売に取り入れてみてほしいシステムの一つに、「サブスクリプション型ストリーミングサービス」がある。もうご存知の方も多いとは思うが、「サブスクリプション(サブスク)」とは、定額料金を支払い、一定期間サービスを受けられる仕組み」を持つサービスのこと。また、「ストリーミング」とは、「インターネット上のマルチメディアファイル(音源・動画など)を簡単に再生したり、転送したりするダウンロード方式」のことである。美術館のチケット販売にサブスク型ストリーミングサービスを導入するというのはつまり、さまざまな美術館のチケットを予約できるプラットフォームを作成し、そこに定額を支払うことで、一定期間、そのサービスと提携を組んでいる美術館の展覧会に行き放題…というシステムである。

 この案のマネタイズ面に筆者自ら不安を抱いてしまっていることは認める。音楽や映画・ドラマなどと比較して、毎月頻繁に美術館を訪れる人の母数は少ないかもしれない。CD1枚と展覧会のチケット1枚では利益分配の仕組みも全く異なるため、細かな部分も含めて、音楽と同じことが適用できるかどうか確認する必要がある。

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