『ドンキーコング リターンズ HD』を楽しんだ人に強くオススメしたい Switchで遊べる『ドンキーコング トロピカルフリーズ』の魅力

『ドンキーコング トロピカルフリーズ』レビュー

 1月16日にNintendo Switch向けに発売された『ドンキーコング リターンズ HD』が盛り上がりを見せている。直近に「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の「スーパー・ニンテンドー・ワールド」内の新エリア「ドンキーコング・カントリー」がオープンするという、大きな話題と重なったのが影響している感じだ。

 また、2月6日からは序盤のコースを無料で遊べる体験版の配信も開始。より一層『ドンキーコング リターンズ HD』というアクションゲームに触れやすい環境が整った形である。

『ドンキーコング リターンズ HD』より

 しかし、筆者個人はこの状況にちょっとモヤモヤしている。それはNintendo Switchで遊べるもうひとつの「ドンキーコング」のアクションゲーム、『ドンキーコング トロピカルフリーズ』(以下、トロピカルフリーズ)があまり宣伝されていないことだ。

 『トロピカルフリーズ』は、今回のHD版のオリジナルたるWii用ゲームソフト『ドンキーコング リターンズ』の続編として2014年に発売された。2018年には、新要素を加えたNintendo Switch版も発売されている。

 そのことから『ドンキーコング リターンズHD』(以下、リターンズ)とは、非常に縁が深い作品でもある。だからこそ『トロピカルフリーズ』は、『リターンズ』を楽しんだプレイヤー向けに紹介する意義と価値が大いにあると筆者は思っているのだが……任天堂はHD版『リターンズ』を熱烈プッシュ中である。USJのことや、発売されたのがだいぶ前なのを踏まえれば、無理もない。

 そんな訳で『トロピカルフリーズ』をオススメしたく、筆を取らせていただいた。結論から言えば、『リターンズ』で初めて『ドンキーコング』シリーズに触れ、楽しんだ人なら『トロピカルフリーズ』は要プレイである。

前作『リターンズ』を正統進化させた『トロピカルフリーズ』

 『トロピカルフリーズ』の内容をひと言で紹介するなら『リターンズ』とほぼ同じである。ステージクリア方式で本編が進行する、横スクロールアクションゲームだ。

 『リターンズ』とほどんど同じということで、システムなどの作りも一緒。ワールドごとに設けられたコースを順番に攻略しながら進めていく本編、踏み付けとローリングアタックという攻撃手段、ディディーコングという相棒(バディ)が加わることで機動力が高まるドンキーコングなどなど。HD版『リターンズ』のプレイ経験があるなら、すんなりとなじめるだろう。

 ただ、全部が同じではなく新要素も多数。ひとつにバディ。『リターンズ』はディディーコングの1匹だけだったが、本作ではディクシーコング、クランキーコングの2匹が新たなバディとして追加され、それぞれが持つ固有のアクションを使えるようになった。ちなみにNintendo Switch版には、ファンキーコングがプレイヤーキャラクター(バディではない)として追加されている。

 もうひとつが全体攻撃技(必殺技)「コングパウ」。本作ではバナナを集めると、画面左上にある黄色のゲージが溜まっていく。そして満タンになった瞬間、LRボタンを同時押しすると、画面内にいるすべての敵をまとめて倒す必殺技を繰り出せるのだ(技の効果はバディごとに異なる)。『ドンキーコング64』の楽器演奏に近いもの、と言えば古くからのシリーズファンならピンと来るだろうか。

 さらに地中に埋まったものを取り出す「ひっぱる」という新アクションも追加。代わりに『リターンズ』にあった「息を吹く」のアクションは廃止されている。

 同じように『リターンズ』から変更されたものでは、トロッコおよびロケットバレルコースがある。『リターンズ』では、敵や障害物などに接触すれば問答無用で1発アウトだったが、本作ではダメージ制に変更。2回ダメージを受けるとミスになる仕組みに改められた。また、ニンテンドー3DSの『ドンキーコング リターンズ 3D』で追加された「クラッシュガード」のアイテムも逆輸入され、耐久力の底上げを図れるようにもなっている。

 かつての「スーパードンキーコング」シリーズに存在した水中コースが復活したのも大きな変更点。ただ、「スーパードンキーコング」シリーズと異なり、酸素の概念があるため、ずっと潜り続けることはできず、適時、泡に触れて酸素を補給する必要がある。

 また、「スーパードンキーコング」シリーズではアニマルフレンドの「エンガード」(カジキ)がいないと敵を倒すことができなかったが、本作ではドンキーコングたちが攻撃技を持つため、普通に倒せるようになっている(そのためか、エンガードは未登場)。

 細かいところでは、一部コースに隠しゴールが用意された。『リターンズHD』では「もんキー」というアイテムをクランキーコングの店で購入すると、正規ルート外のコースが解禁される仕組みだったが、今回は隠しゴールを発見しないと別ルートの解禁ができなくなっている。

 そして、本作最大の変更点にして、屈指のセールスポイントが音楽だ。任天堂所属のサウンドクリエイター陣が担当した『リターンズ』から一転し、元レア社のデビッド・ワイズ氏がメインコンポーザーとして参加。「スーパードンキーコング」シリーズで多くの名曲を生み出した伝説的クリエイターが帰還したのである。

近年ではお笑いコンビ「カミナリ」に独占インタビューを受けたり、その流れから東京国際フォーラムでのライブイベントが開催されたことで記憶に新しいワイズ氏(参考動画:【日本初】ドンキーコングBGM作曲家デビッド・ワイズにカミナリが30分独占インタビューinイギリス〜30 minute exclusive interview with David Wise〜)

 ワイズ氏の帰還により、楽曲全般には「スーパードンキーコング」シリーズ当時を思わせる、幻想的かつ野生の息吹を感じさせるテイストが復活。楽曲ラインナップも新曲中心になって新鮮味が増している。ただ、過去作のアレンジも多少ながらある。しかも、そのなかにはシリーズ屈指の名曲として名高い「とげとげタルめいろ(Stickerbrush Symphony)」も含まれているという、往年のシリーズファンなら震え上がること間違いなしなサービスも。

 このようにゲームとしての作りは『リターンズ』と大差ないが、数多くの新要素とシステムの変更により、着実な進化を遂げた作品になっている。何よりワイズ氏の帰還で、音楽全般の「スーパードンキーコング」らしさが『リターンズ』以上に強化されているのは特筆に値すると言ってもいいだろう。

ワイズ氏による新曲、興味深い小ネタ、そしてHD版『リターンズ』に勝る快適性!?

 前述した特徴のとおり、『トロピカルフリーズ』は『リターンズ』を楽しんだプレイヤーなら、ぜひ遊んでいただきたい作品だ。

 中身がほぼ『リターンズ』と一緒ゆえ、アクションゲームとしての遊び心地は正直、新鮮味に欠けると言わざるを得ない。それでも『リターンズ』の大きな売りだった仕掛けがてんこ盛りで、無駄に壊れまくるコースはより磨きがかかったものに進化。しかも今回は横のみならず、奥方向にも進む場面が用意されたことで、映像面の迫力とアイディアの大胆さまでもがパワーアップしている。

終盤のコース「いてつくビーチ」。ワイズ氏はこのコースの楽曲が作ったなかで最もお気に入りとのこと

 そこにワイズ氏の新曲が重なり会うのもあって、受ける印象も三割増しだ。数あるコースのなかでも序盤の「きりの森」、後半の「きょうふのスーパースライサー」は仕掛けと楽曲込みで必見である。筆者個人としては「リンゴーンジップライン」「いかりの八本足」「トロピカルフリーズ(※コース名)」「いてつくビーチ」「こおりのいせき」の5つを注目ポイントとして挙げたい。ちなみに「いてつくビーチ」の楽曲は、ワイズ氏自身が本作で作った新曲のなかでは一番好きであると公言されている。

 ディディーコング以外のバディ追加で、状況に応じてキャラクターを切り替え、難局に対処するという戦術的な遊びが楽しめるようになったのも面白い。それぞれのバディにも分かりやすい強みがあり、なかでもディクシーコングは水中コースでの意外な活躍ぶりに驚かされるだろう。バディの一匹として、元祖ドンキーコングたるクランキーコングがいるのも、新旧の共演という点でなかなかにエモい。

 過去の「ドンキーコング」シリーズを思わせるネタも多い。ひとつにトロッココース。一部に走行するレールを切り替えながら進むコースがあるのだが、これが『ドンキーコング64』の「ゾゾゾ~キャッスル」のトロッコをかすかにオマージュしたものになっている。

 もうひとつが今回の敵「ザ・スノーマッズ」。『リターンズ』の「ティキ族」に続き、またもキングクルール(クルール)率いるクレムリン軍団ではない新たな敵勢力なのだが、かつての彼らを思わせる攻撃を仕掛けてくる面子がチラホラ紛れている。際立っているのが最終ボスである親玉。攻撃パターンとその技の数々が歴代クルールの再現になっていて、ファンならニヤリとしてしまうはずだ。

 『ドンキーコング たるジェットレース』(Wii)以来、久しぶりにファンキーコングが登場しているのも見逃せない。Switch版では、彼をプレイヤーキャラクターとして使えるモードが新たに追加されている。

 このモード自体は『リターンズ』のHD版で言うところの「モダンモード」に当たる。ただ、ファンキーコング自身が二段ジャンプ、ホバリング、連続ローリングアタックといったアクションに加え、初期体力が5、トゲに接触してもノーダメージ、水中をずっと潜り続けられるという強いキャラクターになっている。

 それもあって、ただ難易度が下がるだけではなく、ドンキーコングたちでは味わえない爽快かつ大胆なアクションが楽しめるという独自の魅力を持っているのだ。おかげで1周クリアし終えた後も、2周目として楽しめる。しかも、極めるほど異様な立ち回りが可能になる底の深さも秘めていて、熟練者にもオススメできる内容になっているのだ。

 もし、ひと通り終えて内容が気になったのならお試しいただきたい。もうひとつの『トロピカルフリーズ』の世界を見ることになるはずだ。

 そして奇しくも、Nintendo Switch版には後発のHD版『リターンズ』よりも勝る形になった部分がある。それが快適性だ。なんとコース開始前などに発生するロード時間がHD版『リターンズ』より短い。加えて、ダウンロード版の容量も6.6GBと、HD版『リターンズ』の8.3GBより少ない(余談だが、オリジナルのWii U版は10GB以上だった)。

 こうも快適性が勝る背景には、開発をオリジナルのWii U版と同じレトロスタジオが担当しているのが大きいと思われる。HD版『リターンズ』はポーランドのForever Entertainmentが開発を担当し、ゲームエンジン「Unity(ユニティ)」を用いた移植となっている【※】。逆にこちらは本家による開発で、ゲームエンジンも内製なのだ(HD版『リターンズ』と快適性に差があるのは、これが要因と思われる)。

※Nintendo Switchのホーム画面で『ドンキーコング リターンズ HD』のアイコンを選び、+ボタンを押すと表示されるオプションメニューで「ソフト情報」⇒「知的財産の表記」を確認すると「Unity」のロゴが出てくる(逆にNintendo Switch版『トロピカルフリーズ』では「Unity」のロゴが出てこない)。

 それもあってHD版『リターンズ』が別会社と知ったとき、筆者は「あれ?」となった次第である。とは言え、レトロスタジオは『メトロイドプライム4 ビヨンド』の開発に長らくかかりきりの状態。前回と異なり、手が回せない事情があったのだろう。

 そんなわけで、ダウンロード版を検討しているプレイヤーで容量面での懸念を抱いているならばご安心いただきたい。奇しくも『トロピカルフリーズ』の方が小さいです。

 ちなみに「2本でお得 ニンテンドーカタログチケット」の対象でもある。もし、チケットが1枚残っているならば、それを使って手に入れるというのもアリだ。むしろ、2025年現在はパッケージ版の流通も限られてしまっているため、筆者としてもダウンロード版をオススメしたいところである。

Nintendo Switchでは順序が逆になったが、続編として堅実に仕上がった作品

 いろいろと魅力を紹介してきたが、収録コースの総数が『リターンズ』から減少していたり、ボス戦の難易度が総じて高く、戦闘自体が冗長気味といった難点も存在する。また、相変わらず全体的な難易度は高い。しかも、数回のミスを重ねたときに解禁される救済機能「おてほんプレイ」も廃止されているため、本作は自力で攻略しなければならない。

 それでも、オススメできる傑作だと豪語できる一本である。繰り返しになるがHD版『リターンズ』を楽しんだプレイヤーならぜひ、遊んでみていただきたい。ワイズ氏の新曲が聴けるのに加えて、分かる人には分かる小ネタが満載なことから「スーパードンキーコング」シリーズファンも要チェックである。

 それにしても、発売の順序が逆になったことで、『トロピカルフリーズ』が前作との事実誤認が広まったりしないかが若干、心配なこのごろでもある。そもそもオリジナルのWii U版の発売が11年前、Nintendo Switch版の発売が7年前ゆえ、前作と見なされるのも無理はない話なのだが(そもそも、『トロピカルフリーズ』のNintendo Switch版が発売済みであること自体を知らない人がいても不思議ではない……)。

 こういう誤解を招きやすい情報展開の仕方というのは、ある意味「ドンキーコング」シリーズの風物詩なところもある。過去に遡れば、ゲームボーイ版「スーパードンキーコング」シリーズのタイトルが統一されずバラバラになったり、その4作目として発売された『ドンキーコング2001』は、『スーパードンキーコング』の逆移植作品でありながら新作であるかのような宣伝がされるなんてこともあった。

『ドンキーコングGB ディンキーコング&ディクシーコング』(『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』より)

 クルールとクレムリン軍団にまつわる話もそうだ。実際はレア社が離脱した後も現役で活躍していたのに、大ヒットした『リターンズ』に出演しなかった影響で「彼らのキャラクター版権はレア社が今も所持している」というムジュンだらけの一説が生まれてしまった。

USJ「ドンキーコング・カントリー」に思う、シリーズの功労者たる悪役「キングクルール」とその配下たち不在のいま

USJの「ドンキーコング・カントリー」は、『ドンキーコング リターンズ』をモチーフとしている。一方で、シリーズの象徴的悪役である…

 念のためだが、クルールの説はマユツバだ。2000年代のレア社離脱後作品における活躍は言うまでもなく、近ごろは「ニンテンドーミュージアム」の100種類以上のキャラクターが描かれたパネルにクルールがいる(逆にバンジョー&カズーイといった「ドンキーコング」シリーズ以外の任天堂販売のレア社作品のキャラクターたちはパネルにいない)ことも、新たな否定材料のひとつとなっている。

 そして、Nintendo Switchで『リターンズ』が後発になったことによる順序の逆転。正直、この誤解が生まれやすい展開、そろそろ改められないものなのかと思うばかりだ。

 最後の最後に脱線した話題を展開してしまったが、それでもHD版『リターンズ』が盛り上がりを見せているのは、『スーパードンキーコング』よりも前の作品からシリーズを知る人間としてもうれしい出来事だ。「ドンキーコング」シリーズの人気が衰えていないことも実感させられる。

 長らく新作展開もない状況が続いているが、『リターンズ』と『トロピカルフリーズ』を手がけたレトロスタジオは、ついに長きに及んだ『メトロイドプライム4 ビヨンド』の開発が一段落する。

『ドンキーコング リターンズ HD』より

 これで「ドンキーコング」シリーズの再始動も現実的になってくるのでは、と思ってしまうが……いまはただ、HD版『リターンズ』と『トロピカルフリーズ』を遊んだりしながら、動向を見守るまで。

 ジャングルの王者の真の帰還と新たな舞台での活躍、待っているぞ!

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