美術館のオンラインチケットが生む弊害 様々な世代のニーズに応えるためにできることは?

美術館のオンラインチケット

 しかし、いつかは美術館のチケットにも導入されるだろうと予想していた人も、少なくないのではないだろうか。いま、こうして全国の美術館が半強制的にオンラインチケット方針に頼らなければならなくなり、美術館ごとにバラバラな選択肢をとっていることによる制度の複雑さ、情報も散漫な状況が、来館者数の低下につながってしまっている可能性は充分にある。美術館情報の検索、芸術家・アーティストのお気に入り登録(新しい展覧会情報の通知)、展覧会のリコメンド機能、大小の美術館チケットの(クレジット払い以外の支払い方法が可能な)定額制、展覧会個人ページでのカタログ購入など…。海外で人気の音楽サブスクサービス『Deezer』のように、「毎月の支払金は、実際に訪れた展覧会の中だけで分配される」といった仕組みが確立されれば理想的だ(そうでないと、行きやすい場所にある大型の美術館に利益が偏ってしまうからである)。コンテンツを充実させることで、美術館に訪れる人口を増やすことも期待できる。

 お年寄りの来館を促すにはどうすれば良いのか、というのは、また違う角度から考えなければならない問題である。いまは外出すること自体が牽制モードで、無理に来館を促すこともできない。もしかしたら、家から出る必要のないVRこそがお年寄りにピッタリなアイテムなのかもしれない。しかし今は、彼らにも届くところまで、美術館側が手を伸ばさなければならない。上記のサービスをアプリで提供できれば、スマートフォンを所有するほど好奇心が高い人は、活用してくれるかもしれない。ただ、紙チケットを越える安心感を提供することは難しいであろう。

 「サブスク型ストリーミングサービスの導入」というのは、筆者が提案するひとつのアイデアに過ぎない。美術館のオンラインチケット制度が抱える問題を解決するためには、それぞれの世代が抱える問題を多角的にとらえる必要があるだろう。そして、来館者の減少を食い止め、美術館側が定める三密回避ラインを越えない程度の客入りを取り戻すために、何ができるかをこれからも考えていきたい。美術館がそれほど危機的状況に陥っているということを、業界外の人たちにももっと知ってもらう必要がある。オンラインチケットの将来性を見据えた新たな取り組みは、音楽業界だけでなく、美術館の運営においても求められているのである。

(写真はPixabayより)

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