テトリス40周年記念作品『テトリス フォーエバー』は、いまこそ“最大のオススメ時”である

『テトリス フォーエバー』レビュー

「“個性派テトリス”が存在したという、ひとつの記録になることを願ってやまない。」

2023年は“個性派テトリス”たちの記念すべき1年だった ユニークな作品群を振り返る

“個性派”の『テトリス武闘外伝』が30年前のクリスマス・イブに発売された。たくさんの“個性派テトリス”たちの記念すべき1年でもあ…

 そんな一文で締めくくったのが、2023年末に執筆した『テトリス武闘(バトル)外伝』を先頭に立てた“個性派テトリス”たちをまとめたコラムであった。あの記事の執筆および掲載から半年以上が経った2024年8月。“それ”は突如として現れた。

 『テトリス』生誕40周年記念作品『テトリス フォーエバー (Tetris Forever)』だ。

Tetris® Forever [Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.8.27]

 この『テトリス フォーエバー』は、かつて存在したゲーム会社、ビーピーエス(BPS、Bullet-Proof Software)より発売された過去の『テトリス』シリーズ数作品と、1984年に開発されたエレクトロニカ60コンピュータ版を忠実に再現した初代(元祖)『テトリス』、そして完全新作『テトリス タイムワープ』などといった、15種類以上の作品をひとつにまとめたコレクションタイトルだ。

 その収録ラインナップのなかには『テトリス武闘外伝』も! この個性の強さが突き抜けている意欲作が、なんとNintendo Switch、PlayStation 4|5、Xbox Series X|S、そしてPC(Steam、Epic Games Store)という現代の環境で遊べるようになってしまったのだ。

 「復活の機会が与えられることを祈りたい」と書いた身としては、まさか1年足らずの内にその望みが現実になるとは思いもしなかった。あらためてこの場をお借りして、復活させていただいたことに感謝の一言を送りたい。

 だが正直なところ、『テトリス フォーエバー』は発売された2024年11月14日の時点では、オススメしにくいタイトルだった。では、2025年2月現在は違うのかと言われれば、答えはイエス。

 むしろ『テトリス フォーエバー』は、いまが遊ぶのに最適な好機なのだ。

2024年11月時点での『テトリス フォーエバー』は、旧作復刻タイトルとして深刻な問題を抱えていた

 なぜ、『テトリス フォーエバー』は発売された2024年11月の時点ではオススメしにくかったのか? それは、過去のゲームを現代の環境で遊べるよう復刻したタイトルとして、不完全かつ深刻な問題を抱えていたことが理由だ。

 『テトリス フォーエバー』には、ファミリーコンピュータ(ファミコン)で発売された『テトリス2+ボンブリス』、スーパーファミコンで発売された『スーパーテトリス2+ボンブリス』『スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版』『スーパーテトリス3』『スーパーボンブリス』というタイトルが収録されている。(いずれもBPS販売)

 一連のタイトルに共通するのが、バッテリーバックアップによる進捗状況の保存(セーブ)機能を備えていること。各ゲームモードで達成した最高得点(スコア)、攻略したステージの状況などが自動でセーブされる仕組みになっていた。

 そのセーブ機能が『テトリス フォーエバー』ではカット。各ゲームを終了したり、リセットを実行したりすると、初期化されるようになっていたのだ。

 一応、代替機能として、状況を細かく記録できるステートセーブ&ロードの機能は備わっている。しかし、これでも該当する作品においては、まったくフォローになっていなかったのである。

 特に致命的というに等しかったのが『テトリス2+ボンブリス』『スーパーテトリス2+ボンブリス』『スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版』。これらに収録された爆弾テトリスこと『ボンブリス』のゲームモード「Contest」には、裏面という追加要素が存在する。この追加要素は、全30ステージクリアで解禁されるのだが、そのトリガーというのがセーブ機能。

 ステージ30をクリアしたという進捗がセーブされることで、裏面が遊べたのである。だが、『テトリス フォーエバー』はそれをカットしたことによって解禁ができない仕組みに。復刻タイトルでありながら、オリジナルのゲーム内容すべてが再現されていないという、あるまじき形になってしまっていたのだ。

 オリジナルにも存在した隠しコマンドを用いる打開策もあるにはあるのだが、そのコマンドを入力するには2プレイヤー用のコントローラが必須。加えてNintendo Switch版には、スーパーファミコンの『テトリス』タイトル全般で、音楽がプツプツと再生される音割れの問題まで抱えていた。これは前述にて名を出さなかった『テトリス武闘外伝』も含まれる。

 こういった「再現が不完全」「ゲーム内の全要素が遊べない」「特定機種限定で音割れが生じる」といった、復刻タイトルとしては深刻な問題を抱えていたのが発売当初の『テトリス フォーエバー』だったのだ。

 特にセーブ機能と連動した隠し要素が遊べないのは、当時、オリジナルを遊びこんだプレイヤーからすれば、度しがたい難点だったと言っても大げさではないだろう。開発側がオリジナル版の中身をまるで理解していない、遊び込んでいないと言われても仕方がない。

 筆者はNintendo Switch版を購入した身だが、セーブ機能がカットされた作品は率直に言って「なぜ?」だった。待望の復活を遂げた『テトリス武闘外伝』も音割れの問題で、プレイ中に気が散りやすいものになっていたのが残念。『テトリス武闘外伝』はセーブ機能がないため、ほかのタイトルほど深刻な問題を抱えていなかったのが救いだったが、実は耳に残る名曲揃いという、もうひとつの魅力に泥が付いていたのはもどかしい限りだった。

 しかし、ここまで過去形で記したように、2025年2月のいまとなっては過去の話だ。まず、Nintendo Switch版特有の音割れは、2024年12月中旬配信のアップデートで修正。音割れはなくなり、各タイトルの楽曲をオリジナル版そのままの形で聴けるようになった。

2025年現在は、普通にクリアするだけで裏面が遊べるようになっている。(『スーパーテトリス2+ボンブリス』より)

 そして2025年1月中旬には、全機種版でセーブ機能を復活させるアップデートが配信。該当タイトルはすべてオリジナルそのままの形へと戻された。ゲームメニューから選択画面などに戻ったり、リセットを実行しても、セーブ機能対応作品は進捗がちゃんと残る。もちろん、『テトリス2+ボンブリス』などに用意された裏面も解禁可能になっている。

 正直な思いを吐露するなら、「それは発売前の時点でやってくれ」との思いはある。特にセーブ機能は、あって当然の要素でありながら、カットしてしまうという判断そのものが不可解の極みである。

 いまとなってはオススメできるものになったとは言え、一連の判断を取った開発のDigital Eclipseには今後、二度と繰り返さないためにも教訓としていただきたいところだ。放置せず、対応していただいたことには感謝の限りだが、ちゃんとオリジナル版の内容を理解したうえで復刻に取り組んでいただきたかった。

 そもそも、どれも日本でしか発売されなかったタイトルである背景から、アメリカ・サンフランシスコに拠点を置く同社にとっては、調査の限界があったのかもしれないが。

発売当時から鮮烈な輝きを放っていたドキュメンタリーコンテンツも、いまなら晴れやかな気持ちでオススメできる

 それに『テトリス フォーエバー』には、発売当初から鮮烈な輝きを放つセールスポイントが存在していた。それが素晴らしいの一言では足りないほどの仕上がりだったからこそ、復刻タイトルとしての問題が目の上のタンコブすぎたのだ。

 すべてが修正されたいまでは、件のセールスポイントも晴れやかな気持ちでオススメできる。

テトリス生みの親であるアレクセイ・パジトノフ氏

 セールスポイントとは、落ちモノパズルゲーム『テトリス』の誕生から発展に至るまでの歴史を、関係者への直撃インタビューや、当時の記録映像に広告などといった資料と共に紡いだドキュメンタリーコンテンツだ。全5つのチャプターから構成されたこのドキュメンタリーは、『テトリス』を愛してやまないプレイヤーのみならず、当時の歴史(海外情勢)に興味にある人、そして任天堂のゲームが好きな人にとっては、まさに垂涎モノといっても過言ではないほど、見応えバツグンの内容になっている。

 特に必見なのは『テトリス』の誕生と外への広がりが語られるチャプター1とチャプター2、そして、版権をめぐるさまざまな駆け引きの記録が語られるチャプター3である。インタビューにはテトリスの作者であるアレクセイ・パジトノフ氏、かつてのBPS代表で2025年現在は「ザ・テトリス・カンパニー」の創設者として活動するヘンク・ブラウアー・ロジャース(ヘンク・ロジャース)氏のほか、当時の版権を巡る駆け引きに参加した関係者が登場。文字通り「ウソのようでホントの話」が語られる。

 その詳しい内容は、語るだけでもかなり長くなってしまうことから割愛するが、『テトリス』の中でもとりわけ特別かつ伝説的な存在たる、ゲームボーイ版『テトリス』が登場するチャプター3は、当時をリアルタイムで過ごした世代であれば興奮不可避だろう。

 また、当時の任天堂社長である故・山内溥氏も登場。任天堂社内でパジトノフ氏、ロジャース氏と同席した時の貴重な写真のほか、『テトリス フォーエバー』に収録された『テトリス』無関係のタイトル『囲碁九路盤対局』にまつわるエピソードを見ることができる。

 写真には、任天堂がおもちゃとゲームを専門とする会社へとシフトする最大の転機を作った功労者で、ゲームボーイ生みの親としても知られる故・横井軍平氏が映ったものも。ほかにも当時のアメリカ任天堂内部を録画した映像があったり、『テトリス2+ボンブリス』のエピソードにて、現株式会社ポケモンの代表取締役社長でCEOの石原恒和氏の話題が出てきたりするなど、任天堂好きなら一瞬たりとも目が離せないものばかりである。

元BPS社長で、現在は「ザ・テトリス・カンパニー」創設者のヘンク・ロジャース氏

 ちなみにこの任天堂に関するエピソードのほか、ゲームボーイといったゲーム機の画像などは全機種版で制限なく閲覧可能だ。PlayStation、Xbox、PCで任天堂のゲーム機やその関係者がそのまま映って語られる様子は、いろんな意味で違和感があって面白いので、興味があればそちらの機種を選んでみるのも一興である。

 各チャプターには、関連する『テトリス』作品の情報も掲載されており、(本作に収録されている作品ならば)その項目を選べば、ゲームを直接遊ぶこともできる。情報の掲載のみで本作には未収録のものも多々あり、その中には『テトリスフラッシュ』『テトリス64』『テトリス・ザ・グランドマスター』『テトリス エフェクト』もある。いずれも2023年末掲載のコラムでピックアップしたタイトルだ。

 ほかにも当時の広告をはじめとする貴重な資料も豊富に収録されており、加えて、一部のゲームも遊べてしまうことから、遊べるデジタル資料集と言ってもいい作りだ。日本語翻訳も万全で、各種資料のテキスト、インタビューの字幕に違和感を抱かせる箇所は皆無。まさに珠玉という言葉がよく似合う、完成度の高いコンテンツに仕上げられている。

テトリス — 公式予告編 | Apple TV+

 このドキュメンタリーだけでも、『テトリス』の歴史を十分に知り尽くせるのだが、セットで『テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム』(白揚社)、「Apple TV+」で配信されている映画『テトリス』もあれば、より『テトリス』への理解を深められるだろう。

 そして、こんなにも見事な出来であるからこそ、発売当初、復刻タイトルとしての問題を抱えていたのが惜しくてならなかった。

『テトリス フォーエバー』のアップデートはさらに続く!?40周年を迎えた『テトリス』の次

 しかし、復刻タイトルとして問題があったことはもはや完全なる過去だ。『テトリス フォーエバー』は、『テトリス』という落ちものパズルゲームの波乱万丈な歴史と、これまで移植の機会に恵まれなかった15種類以上の『テトリス』作品たち、そしておまけで囲碁も遊べてしまう、豪華なコレクションタイトルである。

 収録タイトルの中で、筆者イチオシは『テトリス武闘外伝』になるが、『テトリス2+ボンブリス』と『スーパーテトリス3』の2タイトルもオススメできる傑作だ。前者は初代『ボンブリス』が遊べる内容もさることながら、音楽を『ドラゴンクエスト』シリーズで知られる故・すぎやまこういち氏が担当しているという、強烈なセールスポイントを持つ。

 『スーパーテトリス3』も「マジカリス」「スパークリス」という、この作品限りで終わった個性派テトリスが遊べる見所がある。あと、少々マニアックだが、この『スーパーテトリス3』収録の楽曲「Technotris」は、なかなかオシャレなアレンジになっているので要チェックだ。

 大きな問題が正された『テトリス フォーエバー』だが、実はDigital Eclipseによると、アップデートはこれで終わりではないという。PC版が供給しているSteamのコミュニティページによれば、今後もアップデートが予定されていて、新作『テトリスタイムワープ』に何らかの改良が加わるようだ。

 また、2024年12月のアップデートでは、疑似3Dテトリス『ウェルトリス』が追加されたりもした。このことから、今後も何かしらの『テトリス』が追加されるかもしれない。BPS販売の『テトリス』と言えば、ほかにスーパーファミコン版『テトリス フラッシュ』、PlayStationの『テトリスX(エックス)』『ザ・ネクスト・テトリス』がある。

 特に『テトリスX』は『テトリス武闘外伝』のネタも含んだタイトルでもあることから、追加される未来を待ちたいところだ。余談だが、この『テトリスX』の「Technotris」もなかなかいいアレンジだったりする。だが、真に要チェックなのは『テトリスX』ならぬ『ロックマンX』なアレンジがされた楽曲「Troika」かもしれない。(「だからエックスなのかい」と言いたくなるが、真相は闇の中)

 40周年記念タイトルとして発売された『テトリス フォーエバー』だが、2024年はほかにも『テトリスDX』が「ゲームボーイ Nintendo Switch Online」で、任天堂開発の海外ファミコン(Nintendo Entertainment System、NES)版『テトリス』が「ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online」で復刻を遂げるという出来事もあった。

NES版『テトリス』は「くるみ割り人形」と『テトリス』の相性の良さを教えられる(?)傑作だ(「ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online」より)

 今後も『テトリス』は、『テトリス ザ・グランドマスター』シリーズで知られるアリカより、完全新作の発売が予定されている。

 40年目を迎えた『テトリス』はこれからどのような進化を遂げ、時に話題を振りまいていくのか。数多くの歴史が詰まった『テトリス フォーエバー』や、ほかの復刻された名作たちと共に今後もその動向から目が離せないばかりだ。

任天堂の縦シューティングゲーム『ソーラーストライカー』に存在した“マリオ”という名の道しるべ

任天堂の古典的なシューティングゲーム『』

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