デジタル先進国・フィンランドは新型コロナにどう対応? 現地ライターが政府・企業・個人の動きをルポ
“テレワーク化しやすい前提条件”整っていたフィンランド
業務内容のデジタル化はテレワークに不可欠だが、フィンランドでは顧客に提供される各種サービスも様々なものがデジタル化され、一般に周知活用されてきている。中には日本でもすでに広く活用されているものもあるかもしれないが、以下に例を挙げよう。
フィンランドでは以前よりスマホやパソコンなどを利用して、銀行のネットサービスの個人認証を活用した、個人認証が必要な公的・民間のサービスへのログインが可能となっている。これにより税金申告はもちろんのこと、病院の予約確認やカルテの確認、担当医とのメッセージのやりとり、電気・携帯・保険の契約などができる。
航空券、映画チケット、公共交通機関のチケットなども電子化されていれば、図書館でも電子書籍の貸し出しサービスがある。ストリーミングサービスもテレビ放送局各社が活用しているほか、音楽、オーディオブック、更にはカラオケまでストリーミングで提供されている。医療機関でも症例の深刻度が低ければ医師による電話での遠隔診療が一部自治体では行われている。首都圏のスーパーなどには無人レジも少なくない(客が困ったときに対応するため、最小限の店員は配置されている)。
なお、フィンランドはEU加盟国デジタル化の度合いを示す2019年デジタル経済・社会インデックス(DESI、Digital Economy and Society Index)で1位になっていることも指摘しておくべきかもしれない(このインデックスの詳細に関しては富士通総研が詳しく日本語で記している)。
このように業務のみならず、サービスも様々にデジタル化が進んでいる“テレワーク化しやすい前提条件”がフィンランドに存在するというのは、理解いただけただろうか。
デジタル化が不可能な業界は感染に立ち向かえるか
業務内容やサービス内容の物理的な制約が少なければ少ないほどデジタル化がしやすいーーそれは裏を返せば、業務内容やサービス内容にデジタル化できない物理性があればテレワークは難しくなるということであり、これは同時に、今回のようなパンデミックの状況下での業務の遂行は、感染症へのリスクを高くすることに繋がる。
“物理性”は、いくらデジタル経済・社会インデックスで1位の国でも、避けることのできない制約だ。実店舗での販売、人や物の運輸、建設、飲食、医療機関など、物理性が高ければ高いほど今回のようなパンデミックが与える影響は大きくなる。物理的に治療に当たる医療スタッフがテレワークをすることは無理だし、生きるのに不可欠な食料品を扱うスーパーマーケットなどでも、店員達は働かざるを得ない。
旅行業界は真っ先に影響を受けた業界だろう。各国政府による出入国規制実施より前から打撃を受けており、パンデミックが収まるまではどうすることもできなさそうだ。個人事業者による小規模ビジネスも大打撃を受けている。音楽、演劇などの文化芸術分野は人が集まることが禁止された影響で苦しんでいるのはもちろんだが、中でも公演毎に給料が払われるフリーランス労働者が業界に多く、彼らへのダメージは更に大きい。フィンランドの建設業界では、建設に必要な資材が海外から届かない可能性、海外から労働者を雇い入れるのが難しくなるといったことから、今後竣工予定が延期されることが予想されている。
すでに経営が上手くいっていなかった大手デパート『Stockmann』などは、新型コロナウイルス状況下で実店舗を訪れる顧客が低下し、年に一度の特大セールをネットセールに限定せざるを得なくなった。しかしこれが上手くいかず、企業再編申請をするに至っている。
今年1月から2月にかけて、フィンランドでの会社の倒産件数は前年に比べ20.8%増加しており、新型コロナウイルスの影響でこの数はより増える見通しだ。政府が5月末まで閉鎖を命じたレストランやカフェやバー業界では、現在の閉鎖予定が終了するまでに最大半数が返済不能に陥ると見られている。
フィンランド政府もただこの状況を傍観しているわけではなく、総額150億ユーロの経済対策を打ち出している(これは記事執筆時4月10日レートで約17.8兆円にあたる)。これまで自営業者は会社を廃業しないと失業手当を貰えない状況であったが、国民年金保険局KELAは一時的にこれを変更し、新型コロナウイルスの影響で収入が1089.67ユーロ以下になった自営業者も、会社をたたむことなく失業手当が受給できるようにした。個人事業者は加えて、経費支払い用に地方自治体から支払われる2000ユーロの手当を申し込むことができる。5人以下を雇用する会社には経済開発交通環境センター『ELY-keskus』から、それ以上雇う企業には『Business Finland』からも支援がある。