任天堂・宮本茂「あくまでソフトウェアに対する課金を」 開発者に向けてゲームの過去と未来を語る

任天堂・宮本茂、ゲームの未来を語る

スーパーマリオ ランからポケモンGOへ

 『スーパーマリオ ラン』は、マリオを軽く遊びたい人向けに、横スクロールでジャンプをしてアイテムを取っていくという簡単でシンプルなゲームにした。ところが、実際にローンチしてみたところ、スマホゲームを楽しむプレイヤーにとって適正な難易度はコンシューマーのそれとは大きく異なることに気がついた。「初めてマリオを遊ぶ人にとっては、軽く作ったつもりの難易度でも難しいんですね。遊んだ人の履歴を見て驚きました。ステージ3あたりで、ほとんどの人がその先に進むのを諦めているんです」。そのような現実を見て、アップデート後に実装したのが「リミックス10」。このモードは上手でも下手でも次々とステージを進めることができ、パーフェクトならハイスコアを取ることができる。「このようにプレイヤーの様子を見ながら、次のゲームの開発をしていくことができるので、モバイルは面白い環境だなと気がつきました」と宮本氏は振り返る。

 コンシューマーゲームを作り続けた任天堂が、モバイルゲーム作りにおいて感じたギャップは『ポケモンGO』の際にも生じた。2015年9月の発表時も。翌年のE3の発表の時も、メディアの反応は今ひとつであったという。ところが、2016年7月にサービスを開始した途端、世界中で大ブームを巻き起こした。開発期間中は、「ゲームがシンプルすぎる」、「これではプレイヤーが楽しめない」など、あまり肯定的ではない意見も社内で出ていた。その時点ではまだGPSを活用したゲームや、ゲームコミュニティをプレイヤーたちが楽しむイメージが宮本氏にも見えなかったという。「もし僕もそこに入っていたら、ゲーム性が足りないとか、色々言ったと思います。それをしなかったことが幸いで、本当に大勢の人にいまだに遊んでもらっています。パッケージソフトを作ってきた人間だけが見ると、どうしてもそこを見誤りますが、それをうまく切り抜けられたことが良かったと思います」。サービス開始から2年経った今も、親子で『ポケモンGO』を楽しみ、イベントがあれば遠方まで来るまで遊びに行くなど、ゲームを楽しむコミュニティがあるとのことだ。

あくまでもソフトウェアに対しての課金を徹底する

 任天堂がモバイルゲームに参入する際に、社会問題にもなっていた重課金の課題について、社内で入念な議論をしてきた。その際に決まった方針は、「お金を出してもらう対象はあくまでもサービスやデータに対してである」ということ。つまり、買い切り型モデルを基本とし、パラメーターやレア度を調整して価値を釣り上げることはしない。「“任天堂がガチャを禁じた”という伝わり方をしたかも分かりませんが、我々は自分たちが作ったアプリに対してお金を払ってもらいたいという気持ちでそう決めました。特に小さなお子さんにも遊んでもらうことを考えても、重課金を前提にしたモデルを取らないことにしました」と宮本氏は振り返る。

 スマートフォンの強みは、ゲーム専用機の普及を遙かに超える数の端末が、すでに潜在的なプレイヤーの手にあるという点である。『スーパーマリオ ラン』を買い切り型モデルにしたのは、任天堂のゲームを買わない人たちにもマリオのアクションゲームを遊んでもらい、少額でもお金を払う習慣を作ってほしいという意図もある。現時点でのダウンロード数は3億近く、そのうちの半数がプレイしたと仮定すれば1億5000万人がマリオで遊んだという計算になる。「買い切り型モデルを少しずつ定着させていけると思います。そうするとみんなも安心してゲームを作れますから、少額でもできるだけ大勢の人にお金を払ってもらえるように、がんばって続けていきたいと思います」。

 任天堂が自分たちの作ったソフトウェアに対して課金をするという考えを一貫して持っていることは、プラットフォームとソフトウェアに関連した次のエピソードからも窺うことができる。新しいゲームハードウェアが発売される時、ソフトウェアとのバンドル販売はよく行なわれるが、以前にイギリスで「5本ソフトをつけてハードウェアを売りたい」という話が出た際に宮本氏は「それは絶対にダメだ」と強く反対した。

 さらに遡るならば、故・山内溥 任天堂元社長は「お客さんはハードウェアなんか買いたくない。ゲームを遊びたくて仕方なく買うんだ」という有名な言葉を残している。プレイヤーにとって重要なのは、あくまでもソフトウェアである。一方で、ハードウェアやプラットフォームサイドは、自分たちのビジネスの顧客を拡大するためにソフトウェアやコンテンツを利用してきた。例えば、蓄音機を販売していた時代のビクターはミュージシャンを囲い込むことで自社製品のシェアを拡大したという逸話がある。この構造は音楽や映像コンテンツのサブスクリプションサービスが普及した今でも変わらない。

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