任天堂・宮本茂「あくまでソフトウェアに対する課金を」 開発者に向けてゲームの過去と未来を語る

任天堂・宮本茂、ゲームの未来を語る

クリエイティブのために、どこまで自分を追い込めるか?

中郷俊彦氏に手渡されたというメモ

 講演の終盤に差し掛かり、宮本氏が中郷俊彦氏に手渡された「デザイナーの悩みの構造」と題されたメモを投影した時、会場は共感と笑いに包まれた。「ここで大事なのは、よく練るということです。一つのことをよく練らずにどんどん手を広げると、ますます事態が悪くなります」という宮本氏の指摘には、きっと企画に関わる仕事に携わる人の多くが苦笑いとともに頷くはずだ。

 宮本氏自身の創作のエネルギーの源泉は、無茶振りや批判といった、一見してあまり嬉しくない出来事が思い当たるという。「結局そういう無茶振りや批判をポジティブなエネルギーに変えていくことが一番大事なことですから、どちらかと言うと感謝するべきじゃないかなと思います。堅苦しい会議では、少しでもそれをほぐす、自分は笑っている。それがポジティブなエネルギーに変えていく方法かなと思うようになってきました」と宮本氏。

 また、アイデアについては、誰もが色々なアイデアを出すものなので、それを採用するかボツにするかというだけのことだと語る。大切なのは、何かしらの理由で採用できない場合であっても、その使えない理由もふくめてアイデアを自分の引き出しに入れておくこと。ただ思いついたことを入れているのではなく、その入れたアイデアに対してラベルをつけてしまっておくことが重要だという。

 最後に宮本氏は、この春から放送されているNHKの朝の連続テレビ小説『半分、青い。』を引き合いに出して、講演を締めくくった。「このドラマでは、マンガ家を目指す鈴愛が少女マンガの大御所の先生に弟子入りをして何度もダメ出しをされます。そのマンガのネームは、本当に自分の実体験に照らし合わせて描けているのか? 通り一遍のあらすじのようなセリフでは、人の心には届かないと、しつこく言われます。彼女はセリフを練るために寝られなくなり、締め切りに追われて現実逃避をしたり、本当に大変な状態になっていきます。それを見ながら、果たしてゲームを作る時に自分はそこまで自分を追い込んだことがあるかな?と思いました。そこまで自分を追い込んで、クリエイティブなゲームを作れる人がこの中から一人でも出てきたら、日本もまだまだ世界に一矢報いることができるはずです。これからまた10年後に向けて、お互いがんばりましょう」。

■高橋ミレイ
編集者。ギズモード・ジャパン編集部を経て、2016年10月からフリーランスに。デジタルカルチャーメディア『FUZE』創設メンバー。テクノロジー、サイエンス、ゲーム、現代アートなどの分野を横断的に取材・執筆する。関心領域は科学史、哲学、民俗学など。

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