月額10ドル払えば映画館で映画見放題 米「MoviePass」は映画の敵か味方か?
映画、アニメ、TVドラマ……我々が日常的に楽しんでいる映像コンテンツの内容を決めているのは誰だろうか。と言われると、真っ先に浮かぶのが監督、脚本家、プロデューサー、だろう。しかしビジネスとしてお金を生まないコンテンツは作られない。テレビでも映画でも、利益を生み出すための仕組みが存在しているわけで、そのビジネスモデルの中でしか映画もテレビも作られない。そういった意味では、ビジネスモデルこそがエンタメを形作っていると言っても過言ではない。そんな中、テクノロジーの発展は歴史の長いエンタメ業界のビジネスモデルに変化を起こしており、我々が観ることができるコンテンツも変えつつある。
本稿では、アメリカの映画業界、特に大手映画館チェーンが警戒している新しいサービスについて紹介したい。それが定額映画鑑賞サービス「MoviePass」だ。
月額10ドルで映画見放題!MoviePass
「MoviePass」の仕組みは簡単だ。月額料金を払えば、対応している映画館であればどこでも、無料で映画が見られるというもの(現在は1日1回まで)。日本でもアメリカでも独立系映画館には「映画見放題パス」を販売しているところがあるが、それをAMCやRegalといったアメリカ全国に存在する大手映画館チェーンにも対応して使えるようにしたのがMoviePassだった。
7年前にローンチしてから去年の夏までは、見られる映画の本数に制限がある様々なプランを実験的に試したりしていた。月に20ドルで2本まで、50ドルで6本まで、無制限だと99ドル、といった具合だ。しかし去年の夏にデータ企業であるHelios and Matheson Analyticsに過半数の株式を売却し、同時に月額料金を9ドル65セントに下げ、1日1回までであれば月に何本でも見放題にしてしまったのだ(3D映画やIMAX映画は対象外となる)。
アメリカの映画チケット代は全国で平均して9ドルほど(boxofficemojo)。ニューヨークやロサンゼルスといった大都市では10ドルを軽く越える。つまり映画を月に1本でも観る人であれば得になるシステムにしてしまったのだ。この発表からたった2日間で15万人が新規加入し、それから半年経った現在、利用者は150万人を突破している。
MoviePassに敵対する大手映画館チェーン、なぜ?
MoviePassに加入すると、クレジット会社マスターカードによる専用のデビットカードが郵送される。映画館についたら、アプリを使って見たい映画と時間を選び「チェックイン」を行う。そして専用のデビットカードを使って支払いを行うだけだ。
映画館にはMoviePassからチケット代が全額支払われる。つまり映画館が受け取る金額は全く変わらない。MoviePassを利用するおかげで、むしろ映画館を訪れる客の数は増えるだろう。しかし金額を下げた直後から大手映画館チェーンであるAMCはMoviePassに対する反対声明を出している(Mashable)。
「定額制の映画鑑賞自体には反対しないものの、MoviePassが行っているものはAMCが応援するものではない。彼らのサービスから抜ける方法を探っている」というものだ。しかし支払いはマスターカードによるデビット支払いであるため、原理上AMCがMoviePassのユーザーのカードだけを排除することはできない。本稿執筆時(3/1)では、AMCの劇場でMoviePassは利用可能だ。
傍観者からすると、「映画を観る人も増えて、チケット収入も増えるのだから映画館チェーンにとっても良いことでは」と疑問に思うかもしれない。AMCが反対する理由として表向きに出しているのは「ビジネスとして成り立たない。いずれ破産してサービスが停止になった時、映画を観る価格が急に高くなった、と感じるユーザーが出て来る」、それによって映画業界がダメージを受けるというものだ。
この説明には一理ある。ユーザーが増えれば増えるほどMoviePassが支払うチケット代は膨れ上がるわけだ。月額料金を支払って映画を一本も見ないユーザーがいればそれはMoviePassにとって利益となるわけだが、そんなユーザーは少数派だと思われる。ユーザーがいつでも無料で映画を観られる生活に慣れてしまった後にMoviePassが破産してしまうと、「そんな毎回10ドルも払えないよ」と思うかもしれない。
MoviePassがどのようなビジネスプランを今後計画しているのかは未だ不明瞭だ。利用者たちも「ちょっと良い話すぎるけど、使える間は使っておけ!」という心情のようだ。実際に筆者も利用しているが、特に問題はない。