月額10ドル払えば映画館で映画見放題 米「MoviePass」は映画の敵か味方か?
もしかすると、大手映画館チェーンが恐れているのはMoviePassが成功した場合かもしれない。映画館を訪れる客の大部分がMoviePassのユーザーになった場合、MoviePassが映画館チェーンに対してとてつもなく大きな交渉力を持つことになる。そして実際、MoviePassは全国の1000ほどの独立系映画館と「チケット代3ドル減額」の契約を結んでいる、と報じられている(DEADLINE)。彼らからすると利用客が増えるならチケット代が3割ほど減るのは仕方無い、ということだろう。また映画館の収益の大部分はポップコーンやジュースなどだ。
そして交渉が難航していると思われるAMCに対しては彼らの持つチェーンの中でも特に利用客の多い10の劇場でのMoviePassの利用を停止すると発表している(Variety)。「AMCの営業利益の約62%はMoviePassユーザーだ(MoviePass)」「MoviePassがAMCに関して誤った情報を出し続けているのは遺憾だ(AMC)」といったやり取りが公式声明で行われている(The Verge)。既にかなり攻防戦がヒートアップしていることが伝わってくる。
少しずつ見えてきたMoviePassのビジネスプラン
MoviePassはどうやらユーザーの映画鑑賞にまつわるデータに金脈を見出しているようだ。前述した、株主であるHelios and Matheson Analytics以外とはデータ共有はされないようだが、年齢、性別、よく観る映画の内容、場所、時間帯と、映画業界関係者なら喉から手が出るほど有り難いデータが得られる(MoviePassは第三者パーティにはデータは提供しないと公言している)。
そして今年のサンダンス映画祭で彼らが発表したのは「MoviePass Ventures」という映画権利購入部門の立ち上げだ。そう、MoviePass自体がヒットしそうな映画の権利を(一部)購入するのだ。もうピンと来た人も多いだろう。何百万人という映画視聴者の詳細なデータを活用してどんな映画がヒットするかを分析し、それに基づいてどの映画を購入するか、を決めることが予想される。作品のマーケティングに使える有益なデータもたくさん持っているだろう。
さらに購入した映画はMoviePassを通じてオープン週間にユーザーたちが見に行くよう、宣伝をするだろう。MoviePassによると、彼らがプッシュした作品に関しては、国内の興行収入の10%がMoviePassユーザー経由となるそうだ。通常でも、既に国内の映画興行収入の3%はMoviePassユーザーとなっている。さらに権利を購入した作品は映画館で上映されなくなってもストリーミング配信、テレビでの放送、DVDやデジタルでの販売など収益を生み続ける。
映画館に足を運ぶ人の数は減る中(Variety)で、ハリウッドは多くの集客を期待できる大規模な予算のスーパーヒーロー物や、シリーズ物に資金を集中させている。逆に小さな予算や中規模の予算で制作される映画を成功させる王道は存在していない。CEOのMitch LoweはMoviePassがこういった小〜中規模映画を成功させるキーになると信じているようだ(DEADLINE)。
MoviePassの登場で、映画に足を運ぶ客数が増え、またデータに基づいたマーケティングで大作以外も効率的に興行収入をあげられるようになるのだろうか。アプリ、デビットカード、ビッグデータ分析を活用するMoviePass。映画のビジネスモデルに変革が起きるのか、今後に注目していきたい。
(文=塚本 紺)