『ブラックパンサー』IMAX上映の興行的成功が示唆する、“映画体験”の未来

VRは映画にどう影響を与えるか?

 いま全米で爆発的な大ヒットを記録している『ブラックパンサー』。アベンジャーズシリーズ(以下MCU)の新たなヒーロー登場に大きな期待が寄せられているとはいえ、初週末で2億ドル、次の週末も1億ドルを突破し、MCU作品史上最速で4億ドルを突破。全米で6億ドル以上を叩き出した『アベンジャーズ』1作目を超える勢いは、想像をはるかに上回る。

 ちょうど先日、アメリカの大手経済誌「フォーブス」のウェブ版でこのような記事が掲載された。「なぜ『ブラック・パンサー』は『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・ワールド』を超える興行的成功を為したのか」。ちょうど公開から1週間を迎えたあたりで掲載されたこの記事の中では、2週目の興行収入がタイトル中の2作に迫る可能性を示唆していたが、結果的にわずかに及ばなかった。

 それでも公開から10日間(1週目と2週目のウィークエンド)で『ジュラシック・ワールド』にあと少しというところまで迫った本作。その大ヒットの要因として言われているのは、トランプ政権発足による差別問題を皮肉る内容の社会性に他ならない。そして上記記事でも触れられている通り、5月には『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の公開が控えており、それへの重要な伏線となる効果もある。

 しかしながらこのような“爆発的”なBox Officeの数字的推移は、近年あらゆるブロックバスター作品で連発されている。現時点で歴代興収の上位に入る作品の多くがここ10年ほどの間に公開された作品で、トップ30の内21本を占めている。そのすべてに共通していることは、IMAX上映が行われているということだ。

 日本でも通常の1800円の料金に上乗せされるIMAX料金。ここ数年3D上映をはじめあらゆる上映形式ができたことで、多くの国で映画の入場料金の平均値が年々上昇している。ほとんどの劇場が均一料金の日本では観客動員数を指標にランキング付がされているにも関わらず、劇場や地域によって料金が異なるアメリカでは興行収入がランキングの指標になる。必然的に入場料金が高い作品の興行成績は跳ね上がり、“ヒットしている”という印象を持ってさらに跳ね上がってっていくものだ。

 では、何故それだけの高い上乗せ料金を払っても、IMAX上映を観に行く観客が絶えないのか。その答えはとても単純である。映画が映画館だけでなくオンデマンドで観ることが主流になればなるほど、映画館という空間の価値が高まり、よりハイクオリティなものを求めはじめる。作品を“観る”だけならば映画館に行く必要はなくなり、映画館に行くならば作品を“体験する”時代になったということである。

 もっとも、そのような傾向は3D映画が量産され始めた2010年代以降、常日頃から言われてきたものである。しかしながらそれがますます顕著になるにつれて、それに見合うだけのシステムが映画館に導入されるようになった。例えば視覚に加えて嗅覚や触覚といった他の感覚へも作用させる4D上映がその最たる例で、“体験”=アトラクションである映画が増加していった。

 そんな中でも、IMAXの進化はあくまでも映画を“観る”ことを基準にしたまま、アトラクション的なベクトルへと傾向させない独自のプライドを貫く。例えばクリストファー・ノーランが良い例であるが、彼のような作り手の描きたい通りの映像を再現させることに重きを置き、ラージスクリーンフォーマットをふんだんに活かした画面作りと、それに相応するだけの高精細の画面。そして、臨場感という言葉の域を超越するリアルすぎる音響表現の数々。

 かつては教育的ドキュメンタリー映像の分野で出来上がったIMAXは、あくまでも視覚と聴覚だけにフォーカスを当て続けた“映画への没入”という筋書きを生かしたまま、90年代後半頃から劇映画の分野へと進んで行った。はじめは既存のフィルムを変換したもの、そしてデジタルシアターが主流になった頃からは専用カメラで撮影を行うという、理想に忠実なシステムが導入されたのだ。

 そこにさらなる革新を与えた作品は、2009年に公開されたジェームズ・キャメロンの『アバター』だろう。劇中の生物“トルークマクト”に乗って飛行する感覚を、特殊な振動や空気を噴出しないごく普通の座席に座っていても、目と耳で感じることができる。3Dシステムと巨大なスクリーンというIMAXの強みが結集したIMAX流の“映画体験”が完成された。

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