『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』にみた、ネイバーフッドヒーローの現在形

『BND』にみたスパイダーマン映画の現在形

 トラウマは観客の胸中をのみ覆い尽くしたのではない。トラウマはスーパーヒーローの精神をもむしばんだ。ソーシャルメディア上での「評判」という形で。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022年)も、DC陣営のジェームズ・ガン版『スーパーマン』(2025年)も、敵側の陰謀に原因があったとはいえ、ネット上で増幅されていく悪評で名誉を傷つけられたヒーローが、その払拭に追われる姿を悲壮感たっぷりに描くほかはなかった。進退きわまったスパイダーマンが泣く泣く選び取らされた結論は、全世界の人々の記憶からスパイダーマン=ピーター・パーカーの記憶を完全にデリートすることだった。

 重力と糸の弾力を利用した跳躍アクションが生み出すストロークの運動感が、スパイダーマンを見ることの快楽だということはすでに述べた。今回の『スパイダーマン:BND』はヒーローの孤独を主題とし、苦悩の描写に少なからぬ尺が割かれている。その代償として、彼の雄弁さが湿りがちだったことが本作に対しての不満である。元来、スパイダーマンはマッチポンプ型ヒーローで、自分の活躍ぶりをみずから実況中継してしまうのが大いなる癖であるはずだった。ローカルヒーローであることの限界点を自覚し、アベンジャーズでは主戦クラスでないことを認識した上でも腐らない。自分を自分で実況しながら調子を上げていくのである。

 ところが今回、実況する役回りはもっぱらヴィラン側のジーン・グレイにお株を奪われてしまった。彼女は誰に頼まれもしないのに状況を説明し、問題を提起し、呪詛を吐き、スパイダーマンの弱みをわざわざ彼本人に向かって指摘する。しかもそれを彼女一人の唇ではなく、念力によって次から次へと市民から市民へと憑依をくり返しながら、セリフをシュレッドし、割り振っている。彼女は今作のヴィランであると同時に、セリフを割り振るダイアローグライターでもあり、事件を設計する自作自演の演出家でもある。

 憑依をすばやくくり返す多彩な視点の分散に、スパイダーマンもハルクもすっかり翻弄されてしまい、雄弁さが身上のはずのスパイダーマンから実況する元気を奪ってしまう。先ほど筆者はこれに「不満」と述べてしまったが、それは早とちりというものであって、慌てるのは禁物である。本作の真の主題とは、雄弁なる自作自演の実況者たるスパイダーマンから実況の契機を簒奪するヴィランを見せつける、というものだった。

 これに対しスパイダーマンは自身の孤独と向き合い、やがて敵方たるジーン・グレイの孤独とも向き合う。ミュータントというマイノリティがどのように保護されるべきか? 2028年、彼女が「恵まれし子らの学園」に流れついてその地で安息を見出し、プロフェッサーXやサイクロップスら、良き仲間と時間を築くことが楽しみでならない。最後に、筆者の個人的嗜好を白状させてもらうなら、筆者は元来、MCUよりもX-MENフランチャイズの方が好きなのである。20世紀フォックスがディズニーに買収された結果、両フランチャイズのドッキングが起こる。これをどうにか肯定的に受け止めていきたい。

■公開情報
『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』
全国公開中
出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロン、ジョン・バーンサル、トラメル・ティルマン、マイケル・マンド、マーク・ラファロ
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
スタン・リー&スティーヴ・ディッコのマーベル・コミックに基づく 
製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル、アヴィ・アラド、レイチェル・オコナー
エグゼクティヴ・プロデューサー:ルイス・デスポジート、デヴィッド・ケイン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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公式サイト:https://spiderman-movie.jp 
公式X(旧Twitter):https://x.com/SpidermanMovieJ

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