『踊る大捜査線 N.E.W.』のエンジンはどこにある? 14年ぶりの復活が映し出す“祝祭”の正体

『踊る大捜査線 N.E.W.』のエンジンを問う

 約30年前、日本中を“踊らせた”あのシリーズが帰ってきた。映画シリーズ8作品で累計興行収入524億円を超えるメガヒットシリーズが、『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』として14年ぶりに本編復活。58歳になった青島俊作(織田裕二)は、警視庁捜査一課の刑事として、今日もメトロポリスを走りまくる。監督・本広克行、脚本・君塚良一、製作・亀山千広という布陣も、1997年から変わらない。

 この映画で印象的なのが、予告編でも使われていたセリフ。佐々木蔵之介演じる北丘は、青島にこう問いかける。

「室井さんが辞めた時、お前も辞めると思った。なんで刑事を続ける? お前のエンジンはどこにある?」

 これは、作り手が自分たちに向けた問いでもあるはずだ。2012年に“FINAL”を掲げた『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』で一度終わらせたシリーズを、なぜまだ続けるのか。

※本記事では、『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』のストーリーの核心についての記述があります

 再始動の起点は、2024年の『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』というスピンオフ2部作にある。「室井さんに決着をつけたい」という思いが強かった君塚良一が、亀山プロデューサーに話を持ちかけて企画が始動。本広監督でさえ、当初は「FINALと言ってたのに? なんでいま?」という反応だったという。

 そして『生き続ける者』のラストに、青島がサプライズで姿を見せる。この登場は、脚本を読んだ織田裕二の提案で実現したもの。これをきっかけに、青島を主人公とする本編の復活が動き出した。

 つまり今回の『N.E.W.』は、語るべき新しい物語があって生まれた作品ではない。室井の物語の余波として作られた。エンジンが積まれる前に、車体が走り出していたわけだ。では、何がこのシリーズを動かしているのか。

 そもそも1997年にフジテレビ系のドラマとしてスタートした『踊る大捜査線』は、それまでの刑事ドラマのお約束をひっくり返すところから始まった。『太陽にほえろ!』(1972年~/日本テレビ系)や『西部警察』(1979年~/テレビ朝日系)の刑事たちは、カーチェイスに銃撃戦、ビルの大爆破と、ド派手なアクションで画面を埋め尽くしてきた。一方の『踊る』が描いたのは、経費精算、始末書、本庁と所轄の縄張り争い。刑事はただの会社員で、警察はガチガチの官僚組織。青島が元営業マンという設定そのものが、ジャンルへの痛快な批評だった。

 あれから約30年。『太陽にほえろ!』を知らない観客にとって、『踊る』はもうカウンターでも何でもない。刑事ドラマのど真ん中、本流そのものだ。笑い飛ばすべき外部を失い、新しい物語の必然も持たないシリーズは、パロディの矛先を自分自身に向けていく。

 真下正義(ユースケ・サンタマリア)と雪乃(水野美紀)の息子・勇気(増田貴久)は、「室井さんみたいな管理官になれ」と言われて、オデコにわざわざ線を描いて室井になりきる。街に大量発生した偽青島の代表として取調室に座り、本家本元の目の前で「俺に部下はいない、いるのは仲間だけだー!」の台詞を披露するのは、織田裕二のモノマネ芸人・山本高広だ。

 麻布中央警察署の美浦(白洲迅)が「コントかよ」とツッコむ場面があるが、観ているこちら側も思わずそうツッコみたくなる。そして笑いが内輪の記憶に向かうにつれ、物語の緊張もどんどん薄まっていく。

 冒頭で描かれる誘拐身代金事件は、実はFBI主導の演習だった。盗まれた毒性ウイルスの中身は、ただの空気。映画『セブン』(1995年)をあからさまになぞった“7つの大罪”は、最後の最後に犯行とは無関係だったと明かされる。ニセモノの事件もホンモノの事件も、同じ温度、同じ軽さ。見せ場は乱立していても、それらを束ねて物語全体を駆動させる力は見当たらない。

 その構造を象徴するのが、劇中で繰り返される「スジ」という言葉だ。捜査本部の上層部は、物証や動機といったスジ(根拠)がなければ逮捕状は出せないと言い張る。ところが終盤、美浦が「若い世代に筋なんて関係ない」と言い切り、青島はその言葉を信じて突き進む。映画のメッセージは「スジに囚われるな」へと反転するのだ。

 この「スジ」を、物語の「筋」と読み替えてみると、台詞はまったく別の意味を帯びてくる。パパ活をする17歳の少女たち、群衆がスマホを構えて青島を追いかけ回すSNS社会、3Dプリンター製の拳銃、逮捕状の可否を判定するAI。現代的な表象が記号のまま置かれ、物語の粗さを「スジに囚われるな」というテーマ自体が肯定してしまう。普通に見ればほとんど破綻していると感じられる今作自身の、まるで説得力のない自己弁護のように見えてしまうのである。

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