『パイレーツ・オブ・カリビアン』伝説の第1作 ジョニーデップの“常識はずれ”の役作りとは

映画という枠組みすら遊び場に変える永遠のアウトロー
普通に考えれば、これほど空気が読めない自己中男は、厄介者として嫌われかねない。それでも彼が観る者を強烈に惹きつけるのは、一切の執着を捨てた究極の自由が息づいているからだ。
たとえば、青年ウィルが父親から受け継いだ血筋や宿命に縛られているのに対して、ジャックには重苦しいルーツがまったくない。確固たる目的地すら持たず、その日の風向きや潮の満ち引きに合わせて飄々と今を生き延びるだけ。過去の因縁にも未来の目標にも縛られない根無し草のような生き方は、窮屈な物語のセオリーから見事に解き放たれている。
さらに彼は、富や成功を追い求める社会のルールのなかに突如紛れ込んだ、予測不能なバグのような存在でもある。海賊といえば普通は黄金を略奪し、富を蓄えようとするものだ。しかしジャックは財産を抱え込もうとせず、手に入れた金貨もあっけなく手放してしまう。
彼が執着するのは愛するブラックパール号だけ。それすらも財産としてではなく、自由を味わうための移動手段として捉えている。絶え間ない成長や所有を強要される資本主義社会のなかで、何にも執着せずに社会の枠組みを内側からかき回す彼の姿は、観る者の心をスカッとさせる痛快さを持っている。
事実、ジャックは完璧なヒーローどころか、作中でいつもドジってばかりいる。部下のバルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)に騙されて船を奪われ、孤島に置き去りにされる。トルトゥーガの港町では、過去に約束を反故にした女性たちから次々と強烈な平手打ちを食らう。イギリス海軍にあっさり捕縛されて、牢屋にぶち込まれる。
だけど彼は、その失敗を悔やんだりしない。頬を撫でる風の感触や、ラム酒の味だけを心底楽しんでいる。蓄財し、所有することを美徳とする成功神話とは真逆の存在。いわば彼は失敗の専門家なのだ。だからこそ、心の底から自由を謳歌できるのだろう。
こうした究極の自由は、アクションシーンにも色濃く表れている。ジャックの動きは暴力というよりも、高度に計算されたコレオグラフィーのようだ。剣を交える際の足さばきや、障害物をひらりと避けるターンの滑らかさは、明らかに周囲の荒くれ者たちとは異質。アクション映画の世界に一人だけ、軽快なミュージカル映画から逃亡してきたダンサーのように存在している。ジャンルの壁すらも横断してしまうこの異物感が、彼に唯一無二の華を与えているのだ。
この映画が、ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」を原案としているのは有名な話。しかしジャックの振る舞いは、用意されたレールの上を進むライドから勝手に降りてしまった、掟破りの観客のようだ。他のキャラクターがシナリオ通りに動くなか、彼だけは予定調和を無視して、カメラの死角で気ままに遊び続ける。決められた安全バーを自ら外し、ハリウッドの大作映画という枠組みすらも自分だけの遊び場に変えてしまう。そんな身のこなしこそが、彼を特異なアイコンへと押し上げたのではないだろうか。
シリーズを重ねるごとに、ジャック・スパロウは世界的なキャラクターへと肥大化していった。だが、この記念すべき第1作目に刻まれた彼は、まだ荒削りで、どこか危うい色気を放っている。富や名声、社会的な常識や因習といったあらゆる重力から解き放たれ、ただ己の羅針盤が指し示すままに海をゆく男。ジャック・スパロウという存在は、コンプライアンスや規律に縛られた現代社会に風穴を開ける、永遠のアウトローなのだ。
参照
※1. https://www.boxofficemojo.com/title/tt0325980/
※2. https://www.the-numbers.com/movies/franchise/Pirates-of-the-Caribbean
※3. http://interview.johnnydepp-zone2.com/2006_0707EntertainmentWeeklyCom.html
※4. https://www.ign.com/articles/2003/07/11/a-conversation-with-johnny-depp
※5. 同上
※6. 同上
■放送情報
『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、7月18日(土) 21:00~23:10放送
出演:ジョニー・デップ、ジェフリー・ラッシュ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジョナサン・プライス
監督:ゴア・ヴァービンスキー
脚本:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ
ストーリー:テッド・エリオット、テリー・ロッシオ、スチュワート・ビーティー、
ジェイ・ウォルパート
製作:ジェリー・ブラッカイマー
製作総指揮:マイク・ステンソン、チャド・オーマン、ブルース・ヘンドリクス、
ポール・ディーソン
撮影監督:ダリウス・ウォルスキー
編集:クレイグ・ウッド、スティーブン・リブキン(A.C.E.)、アーサー・シュミット
衣装デザイン:ペニー・ローズ
特殊視覚効果・アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック
音楽:クラウス・バデルト
音楽監修:ボブ・バダミ
©2003 DISNEY ENTERPRISES, INC





















