『風、薫る』が映し出す看護婦制度の“光と影” 理不尽な現実を浮き彫りにする衝撃展開に

「そもそも、君たち、看護婦が生まれたことで、こうなるのはかわっていたことじゃありませんか」
と冷めた口調の院長。
「大家さん、あなたの言う看病婦の問題の根底にあるのは貧困です。それは社会の仕組みを変えるしかない。大学病院の仕事ではありません。あなた方は、帝都医大病院の看護婦取締としてふさわしい仕事をしてください」

純粋なやる気が真剣にお金が必要な人たちから仕事を奪ってしまうことにもなる。その事実に愕然とするりんと直美。病院は病院で経営を考えないといけない。いかに効率良くやっていくか、そこを考えると次世代の看護婦を雇用して評判をあげていくしかないのだろう。以前、遊女の問題を卯三郎(坂東彌十郎)にりんが相談にいったときも、卯三郎は社会の問題だと言っていた。たとえひとりを助けることができても、不特定多数の被害者がまだまだいて、全員を助けることはできないのだと。理屈はそうだがやりきれない。
明日の生活費を必要としている看病婦が理不尽に減らされそうな問題こそシマケン(佐野晶哉)が記事化したらいいのに。りんもシマケンに頼めばいいのになんて思う。小説を書きたいシマケンの意に沿わない仕事だから、これ以上やりたくないのかもしれないが。
りんのモチーフになっている実在の人物・大関和は、日本初の正規の訓練を受けた看護師(トレインドナース)である傍ら、看護婦の質の低下を憂い、内務省に足しげく通って制度整備を訴えた。当時内務省衛生局長であった後藤新平に談判し、看護婦規則の制定に尽力した。また、社会運動家という一面もあった。再婚を考えていた社会運動家の木下尚江が収監されると、毎日欠かさず差し入れをしていたという逸話も残っている(参考:ステラnet『朝ドラ「風、薫る」が描く日本看護のはじまり 先駆者・大関和と避病院(現在の隔離病棟)――明治から現代につながる道【前編】』)。

ドラマのりんはいまのところ社会運動に身を投じていくような雰囲気はなく、おっとりして見える。だがモチーフの人物から考えると、やがてりんは看護婦や女性の社会的地位を確立するための活動にも熱を入れていくのかもしれない。看護とは何かを学ぶうち、病気や怪我をした人たちのみならず、社会的に弱い立場にある人たちに手を差し伸べたいと思うようになるのではないか。直美はすでに、「私が助けたいのは、つい味方したくなるのは、負けてる方、弱い方、不利な方なんだなって」自覚している。その中に、病気の人、けがをした人、患者さんが入っているが、そういう人全員に優しくしたいわけではない。
勝ち組や強くて得している人たちに手を差し伸べる必要性を感じないのが直美だ。彼女は長屋の人たちが貧しいため満足に診療も受けられない事実にも直面する。看護婦になっても、本当に苦しんでいる人達に看護が届かない世界。なんて理不尽なんだろう。看護婦という職業をきっかけにやがて、りんも直美もどうしたら社会をよくできるのか考えていくことになるのではないだろうか。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















