エル・ファニングが好演 『マーゴのマネートラブル』の倫理的な危うさとエンタメ的な爽快感

しかし一方で、その選択の先に待ち受けるはずの深刻なリスク、たとえば「身バレ」による永続的なデジタルタトゥーの恐怖や、執拗なストーキング、さらにはさまざまな犯罪に巻き込まれる可能性について、本シリーズがリアリティをもって描けているとは言い難いかもしれない。劇中に、そうした負の描写が皆無というわけではない。だが、現実の「OnlyFans」というサービスをめぐっては、ファンによる認知の歪みによる凄惨な事件や、暴力による強制的な出演、恐喝といった事件が相次いで起こっているのも事実なのだ。
そもそも、SNS、配信などを利用したビジネスで安定した生計を立てること自体、至難の業である。本作はそうした負の部分へのフォーカスを避け、あくまでマーゴの人生における突破口として機能させている。結果として、多大なリスクをはらむサービスを実質的に肯定し、宣伝してしまっているのではないかという疑問が生まれてしまう部分もあるのだ。
同時に物語は、マーゴが子の親権をめぐる法廷劇へと突入していく。このあたりは、やはり数々の法廷ドラマを手がけてきたデビッド・E・ケリーならではの展開だといえよう。法廷という冷徹な場において、彼女は貧しい生活実態や、成人向けコンテンツを制作しているという厳しい社会的評価、偏見と向き合わざるを得なくなる。しかし、そもそも彼女から多くの選択肢を奪い取り、袋小路へと追い込んだのもまた、この社会だったことも忘れるべきではないだろう。
かつてフーターズのウェイトレスとして働いていた母親(ミシェル・ファイファー)や、薬物依存症からの回復の途上にある元プロレスラーの父親(ニック・オファーマン)という、マーゴの両親も、人間的な魅力に溢れながら決して完璧とは言い難い存在だ。そんな両親の資質を良くも悪くも受け継いでいるマーゴ自身もまた、その行動には軽率で危うい部分が目立つ。
しかし、そもそも人間とは、不完全で愚かな生き物なのではないだろうか。ドラマや映画を観ているわれわれは、安全な場所から俯瞰することで、登場人物たちの選択を冷静かつ客観的に眺めることができる。だがひとたび現実の人生に戻ったとき、われわれはマーゴたちと同様に、数々の失敗を繰り返しながら生きていることに気づくはずだ。
そうした、ときに破天荒でめちゃくちゃながらも、生き延びるためにがむしゃらな努力を続ける主人公だからこそ、観客は彼女の姿に感情移入し、他人事ではない物語として受け止めることができるのだろう。そして、マーゴのサバイバルを通じて、極端な格差社会のなかでどうやって生き残るか、また人生の途上の挫折からの再起など、切実なテーマを共有することになるのだ。
劇中、そうしたセカンドキャリアをつかみ取った存在として現れるのが、ニコール・キッドマン演じるレースである。かつて女子プロレスラーでありながら、現在は法曹界へと転身した彼女は、孤立するマーゴたちの戦いを後押ししてくれる。ミシェル・ファイファーとニコール・キッドマンという、ハリウッドの歴史を築いてきたレジェンドたちが、新世代のエル・ファニングに寄り添い、背中を支えている構図が頼もしい。
ちなみに劇中で、頭の左右の高い位置で髪を結んだ「ツーサイドアップ」の愛らしい髪型で、プロレスのコスチュームに身を包みリングに復帰するキッドマンの姿は、彼女のキャリアのなかでもなかなか見られないと考えられる名シーンだといえる。ここだけでも、本シリーズを観る価値があるかもしれない。
倫理的な危うさと、エンターテインメントとしての爽快感。その危ういバランスのなかで、この不完全で愛おしい者たちの共闘は、果たしてどのような結末へと着地するのだろうか。現代をサバイブするためだからこその、“危うい希望”といえるラストシーンをどのように感じるのかは、視聴者次第である。
■配信情報
『マーゴのマネートラブル』
Apple TVにて配信中
出演:エル・ファニング、ミシェル・ファイファー、ニック・オファーマン、ニコール・キッドマン
エグゼクティブプロデューサー:デビッド・E・ケリー
画像提供:Apple TV


























