巨大ハリケーン×サメ、ダブルパンチの極限状況 サバイバル映画『猛襲』の洗練された複雑性

サバイバル映画『猛襲』の洗練された複雑性

 この映画でさらに注目したいのは、ここで描かれる災害が、地球の環境破壊に関係している面があるところだ。近年とくに大きな問題となっている地球温暖化にともなう海水温の上昇は、じつはハリケーンのエネルギー源となり、勢力を増大させる主要因になっているといわれる。それが上陸後も衰弱しにくいスーパーストームを発生させ、被害を深刻化させているのだ。

 ウィルコラ監督は、この企画をアダム・マッケイに提案し、彼にプロデューサーになってもらうことで、本作の製作が実現することになったのだという。アダム・マッケイといえば、過去作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)や『バイス』(2018年)などの話題作で、監督としてシニカルな視点で深刻な社会問題を描いてきたことは言うまでもない。

 とくにコメディ映画『ドント・ルック・アップ』(2021年)でのアダム・マッケイは、彗星の地球直撃を通して、地球温暖化に代表される地球規模の危機を、いかに多くの人々が見ないようにして問題を先送りしているのかを、皮肉なユーモアを込めてきわめて見事に表現していたといえよう。そう考えれば、本作が地球温暖化を背景にした災害を、ユーモアをふんだんにちりばめながら描いているのは、非常にアダム・マッケイ的なアプローチだと受け取ることができるのだ。

 本作は『シャークネード』シリーズのような確信犯的な“おバカ映画”でもなければ、スティーヴン・スピルバーグ監督の名作『ジョーズ』(1975年)のように、サメの恐ろしさを強調するサスペンスに専念した作品でもない。そして、真剣なスリラーの顔をしながら、中身はB級テイストの皮肉に満ちているというハイブリッドなトーンを提供している。このバランスを多くの批評家や観客が、中途半端で一貫性がないと判断してしまったのかもしれない。

 しかし分析してみると、このトーンを選んだのには必然的な理由があり、ユーモアもサスペンスもそれぞれに高レベルで機能している良作であると判断できる。そうした洗練された複雑性が、複雑であるがゆえに、現時点で評価に繋がらないというのは、残念なことだ。後の再評価を待ちたい一作である。

 さらに、ホイットニー・ピーク演じるダコタがハリケーンを孤独に待つまでの前半の時間は、この後の脅威を感じさせながらも、どこかわくわくした静かなムードもあるところが、面白い点である。ここは、相米慎二監督の『台風クラブ』(1985年)の表現にも通じる部分で、本作『猛襲』の隠れた美点となっているといえるだろう。

■配信情報
『猛襲』
Netflixにて配信中

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