巨大ハリケーン×サメ、ダブルパンチの極限状況 サバイバル映画『猛襲』の洗練された複雑性

巨大ハリケーン、サメ。どちらも人間にとって恐ろしい脅威だが、もしそれらが同時に襲いかかってきたとしたら……。そんな、ダブルパンチの極限状況を描くサバイバル映画『猛襲』が、Netflixから配信リリースされた。
サメとハリケーンといえば、台風によって巻き上げられたサメたちが人々を襲うという、荒唐無稽な低予算映画『シャークネード』(シャーク+トルネード)シリーズを思い出す人も多いだろう。だが本作『猛襲』は驚くべきことに、そうした二つの脅威が重なる状況を、現実でもあり得るものとして、予算をかけてよりリアルに表現しているところが特徴だ。
本作の評価は、アメリカの大手批評サイトにおいて、批評家や一般の観客の評判が芳しくないのだが、一方で視聴数が好評だという、面白い結果も出ている。ここでは、そんな本作『猛襲』で何が描かれていたのか、そして、その描写の背景に何があるのかを明らかにしつつ、本質的な魅力に迫っていきたい。
本作の舞台は、アメリカ東海岸・沿岸部。最大級の「スーパーストーム」ともいわれる「カテゴリー5」の巨大なハリケーンが街を襲う。この規模では家屋の屋根が吹き飛ばされ、海岸線で高潮による洪水が発生するという。カテゴリー5までいくと、家にいても安全とは言えないので、市民は住みなれた家を離れ避難を始めるのだ。ちなみに劇中において東日本大震災などでの津波を想起させる場面もあるため、一部観客には注意が必要である。
さまざまな理由により逃げ遅れた人々の前に現れるのが、「オオメジロザメ」だ。「ウシザメ(ブルシャーク)」とも呼ばれる凶暴かつ俊敏な種で、海はもちろん、海水と淡水が混じり合った汽水域や、淡水の水場でも生息できるという。実際、オーストラリアでは洪水によってオオメジロザメが市街地に侵入した姿が目撃されたり、水が引いた後にゴルフコースの池に取り残され、ゴルフ場のマスコットとして愛されたという例もある。
このハリケーンとサメに立ち向かわざるを得なくなる面々が、本作の登場人物だ。水に浸かった車の中に閉じ込められた妊婦リサ(フィービー・ディネヴァー)、広場恐怖症で家から出られず避難ができない少女ダコタ(ホイットニー・ピーク)、事態の打開に動く海洋研究者デイル(ジャイモン・フンスー)、そして自宅のキッチンカウンターに取り残された里子の子どもたち……。
劇中では、何人もがオオメジロザメに身体を噛みちぎられる、スプラッターに近い残酷な描写がある。監督・脚本を務めたのは、暴力的なアクション表現を得意とするトミー・ウィルコラ。グリム童話の主人公が大人になって賞金稼ぎとして魔女を倒していく『ヘンゼル&グレーテル』(2013年)、サンタクロースが傭兵たちと熾烈なバトルを繰り広げる『バイオレント・ナイト』(2022年)など、残酷とはいえ、ユーモアを含んだ描写が得意だ。
そんなユーモアは、サバイバルの緊張に包まれた作中に適度な弛緩を与えているだけではない。トミー・ウィルコラが脚本と演出を担当していることで、ストーリー展開に馴染むかたちで笑える描写やセリフが飛び出してくるのが、本作の大きな強みとなっている。なかでも里子たちのパートがいちいち面白く、ハリケーンから逃げようとする子どもたちが、あろうことか世界で最もハリケーンの被害を受けやすい場所の一つであるフロリダを安住の地に選ぼうとするところは、皮肉が効いている。























