『ばけばけ』主題歌と物語の親和性 ”しじみ汁”のように身に沁みた「笑ったり転んだり」

「代わりに、おトキさんに書いてもらってくれない? 小説……いや、回顧録……そう、回顧録を」
ヘブン、改め雨清水八雲(トミー・バストウ)の最後の著書『KWAIDAN(怪談)』はベストセラーになるどころか、話題にもならなかった。彼に「私でも読めるものを」と、題材に怪談を半ば勧めたのはトキ(髙石あかり)だ。それを知ったイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)は、ヘブンが亡くなって気落ちしているトキを容赦なく責め立てる。

ヘブンの言葉を借りるなら、まさに「ジゴク!」のような光景。だが、イライザがトキに回顧録を書かせろと丈(杉田雷麟)に命令した瞬間、風向きが変わった。トキは家が貧しく、小学校を中退している。識字能力はあるが、ほとんど文章を書いたことがない。丈も無理だと言ったが、イライザは「おトキさんにしか、書けないものがあるはずだから」と譲らない。この一連のやりとりで、ずっと疑問に思っていたことの答えが分かった気がした。
朝ドラこと、NHK連続テレビ小説『ばけばけ』。2025年9月29日から放送されてきたこの物語にまもなく終止符が打たれようとしている。本作は、松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルにした夫婦の物語。小泉八雲の代表作となった怪奇文学作品集『怪談』は、セツから聞いた民話や伝承に独自の解釈を加えて再構築したもので、実質的な夫婦共作だ。筆者は途中まで、怪談を愛し、怪談で心を通わせたトキとヘブンが、その魅力を世に広めていくストーリーになると思っていた。

しかし、ヘブンがようやく『怪談』の執筆に取りかかったのは最後から2週目の金曜日であり、その回で完成まで描き切った。なぜ、そこをもっと深掘りしなかったのか。再話文学の金字塔として知られる『怪談』の執筆過程を詳細に知りたかったというのが正直な気持ちだ。だが、本作の主人公はあくまでもトキなのである。そもそも思い返せば、本作はトキがヘブンに「では私、トキの話を」と語り始めるところから始まったではないか。そう考えるとすべてに納得がいく。トキとヘブンが、それぞれの過去も踏まえて惹かれ合い、夫婦となり、共に酸いも甘いも経験して絆を深めていく過程にストーリーの軸が置かれていたのも。一見すると取るに足らない日常のエピソードや、やりとりが多分に盛り込まれていたのも。トキにとってはどんな怪談よりも、ヘブンと過ごす日々が心躍るものだったのだ。だから、それを回顧録としてまとめるのがこの物語のゴールになることは必然と言える。



















