草彅剛のすべてを“あり”にする表現力 『フードファイト』が“伝説のドラマ”になった理由

愛着を持たずにはいられない個性強めなキャラクターたち
人並み外れた強靭な胃袋を持つ満だが、対戦相手も負けてはいない。フードファイトの主催者である宮園総合食品の会長・宮園恭作(佐野史郎)は、次々と強敵を見つけては満にぶつける。ただ大食いなだけではなく、次第に辛さや寒さを感じなかったり、長時間呼吸を止めて気管に食べ物を詰め込むことができたりといった特殊能力者まで登場する。挙げ句の果てには、恭作自身が「胃袋が2つある」というとんでもない設定を持って対戦を挑むのだが……。
そんな挑戦相手を、市川染五郎(現・松本幸四郎)、田口浩正、いしだ壱成、桜井幸子、横山裕(SUPER EIGHT)、さだまさしなど、錚々たるキャストが熱量高めに演じる。日ごろ、グルメ番組でおいしそうに頬張るシーンは見ることがあっても、本作で描かれるような「死闘」とも言える大食いのシーンを観ることはなかなかない。一心不乱に食べ物を口に運んでいく姿は、まさにここでしか見られない姿だ。
そして、それぞれが持つ能力ゆえに、彼らの個性はゲームかアニメのキャラクターのように誇張されている。それがまた愛らしく思えてくるから不思議だ。主人公を追い詰める存在でありながらどこか憎めないのは、彼らもまた、このフードファイトに身を投じざるを得ない事情を抱えた“同じ側の人間”だからだ。
社会の不条理さや、アンダーグラウンドな賭博ゲームといった影の部分を描くだけでなく、令和の感覚では少々寛容過ぎると感じられる「不倫」や「性」「暴力」を絡めた笑いもある。そうした違和感を踏まえてもなお面白く見進めてしまうのは、やはり主演を務めた草彅の圧倒的な演技力の賜物だ。
「つくし園」でボランティアをする麻奈美(深田恭子)にちょっかいを出しては平手打ちをくらったり、会長夫人の冴香(宮沢りえ)と複雑な情が交錯するやりとりを繰り広げたりと、その姿には何度見てもドキドキさせられる。それは、草彅のくるくると変わる表情に翻弄される麻奈美や冴香と、視聴者である私たちが同じ視線になってしまっていたからかもしれない。
子どもたちと一緒に笑う朗らかな笑顔とはまったく異なる、戦う覚悟を宿した鋭い眼差し。弱き者たちの気持ちを汲み取り、涙する情け深い瞳。なかでも、個人的には第7話、母だと名乗り出てきた井原聡子(浅香光代)とのコロッケ対決の終盤で見せた、ある表情が忘れられない。
表面上は笑顔。だが、そこには母を求めてきた満の長年の思いが込み上がってくるのが見て取れた。愛情の飢え、運命に対する恨み、裏切りへの怒り、それでも信じていたいという願い……ともすれば砕け散ってしまいそうな心をギリギリのところで留めている。そんな人間の“生”そのものを表現する顔だったように思う。
そんな息を飲むような演技を見せられては、時代の移り変わりで生じる違和感をも吹き飛ばし、すべてを“あり”だとせずにはいられない。突き抜けた表現力は、時代を超えて作品を生かす。それこそが、「色褪せない」ということなのだ。
■配信情報
『フードファイト』
『フードファイト 香港死闘篇』
『フードファイト 深夜特急死闘篇』
Huluにて配信中
出演:草彅剛、深田恭子、宮沢りえ、筧利夫、田辺誠一、八千草薫(特別出演)、佐野史郎、木村拓哉(声の出演)ほか
©NTV






















