野沢尚脚本『眠れる森』は90年代を象徴する傑作ミステリー 木村拓哉が放った“暗い色気”

 TVer・FODで配信されている『眠れる森』(フジテレビ系)を観ていると、なんとも言えない懐かしさが込み上げてくる。

 1998年に放送された本作は、中山美穂と木村拓哉がW主演を務めたミステリードラマ。結婚を3カ月後に控えた大庭実耶子(中山美穂)が、荷物を整理している時に「15年後の今日、僕たちの森で、眠れる森であいましょう」と書かれたラブレターを見つけ、故郷に帰省するところから物語は始まる。

 古郷の森で出会った青年・伊藤直季(木村拓哉)は、実那子の身にこれから残酷なことが待ち受けていると警告する。その後、直季は実那子のことを監視し、嫌がらせのようなことを行うのだが、実は直季が実那子のことを狙う殺人犯を探すために動いていたことが、次第にわかってくる。
  
 本作は今風に言うと、考察要素満載のミステリードラマだ。放送当時は、「実那子を狙う殺人犯の正体が誰なのか?」という犯人探しで視聴者が盛り上がっていたが、改めて観ると、結婚を間近に控えた実那子が過去を振り返るという「自分探し」の物語となっているのが興味深い。

 実那子はエリートサラリーマンの濱崎輝一郎(仲村トオル)と婚約しており、関係は良好だが、漠然とした不安を抱えていた。そんな時に現れた直季は、輝一郎とは真逆のダーティな青年で、実那子を挑発するような不愉快な発言を繰り返すのだが、無視することができない怪しい魅力がある。

 そんな正反対の男の間で実那子の気持ちは揺れ動いていく。最終話がクリスマスに実那子と輝一郎が船上結婚式を挙げるという展開を見ても明らかなように、本作はクリスマスがクライマックスとなるラブストーリーとして作られていたことが理解できる。

 主演を務める中山美穂は、1990年代は多くのテレビドラマに出演する人気女優だった。彼女が主演を務めたフジテレビのドラマは、『すてきな片想い』、『逢いたい時にあなたはいない…』といった、秋クール(10〜12月)に放送されるラブストーリーが多く、最終話がクリスマスになる作品がほとんどだった。

 『眠れる森』も、そんなクリスマスドラマの一つだが、ミステリー仕立てだったため、とても異彩を放っていたことを覚えている。
 
 また、時代を感じるのが、当時日本で流行していた精神分析や心理学の要素が劇中にちりばめられていること。

 例えば、実那子と輝一郎が出会ったきっかけは、コンサートホールで起きた異臭事件。その後、病院で実那子と再会した耀一郎は「その後、どうですか。PTSD(心的外傷後ストレス障害)は?」と話かける。

 PTSDは、今では聞き慣れた言葉だが、当時、テレビドラマで流れてきた時はとても新鮮だった。こういった「心」に関連したやりとりが本作には多数登場する。

 つまり『眠れる森』は、自分探し的な恋愛ドラマと精神分析的ミステリーの両輪で成り立っており、心理主義が席巻した1990年代の日本を象徴する作品だったと言えよう。

 脚本を担当した野沢尚は、1985年に映画『V.マドンナ大戦争』で脚本家デビューし、映画やSPドラマを主戦場としていたが、1992年の『親愛なる者へ』(フジテレビ系)以降、連続ドラマの脚本を手掛けるようになる。

 1990年代は野島伸司、北川悦吏子、三谷幸喜、岡田惠和といった作家性を持った脚本家が頭角を現した時代で、野沢もその一人だった。

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