『グノーシア』はループものの新たな“始点”となる名作 『シュタゲ』に通じる圧倒的構成

「銀の鍵」と「Dメール」——唯一性の獲得

第9話から第12話は、アニメ『グノーシア』1クール目のハイライトのような形で構成されている。ユーリが銀の鍵に導かれるかたちで、コメット、沙明、SQ、ジナとの関係を深めていく(銀の鍵が各人物の情報を得ていく)過程が、それぞれのエピソードで描かれていく。
そしてユーリにとっては何度目かの邂逅であったとしても、コメット、沙明、SQ、ジナにとっては唯一の世界が、各々にとっていかに切実な経験であるかが明かされていく。
たとえばコメットは過酷な自然環境の生まれから、いつか宇宙船の船長になり旅することを夢見ていた。それはユーリとともにグノーシアとして生き残ることでほんの一瞬だけ叶えられる。沙明はグノーシアになっても人間を消すことに消極的で、自室に籠城しあえてコールドスリープ送りにされそうな振る舞いを続けていた。その理由は彼の過去(共に育った、知性化したボノボたちが処分されたのを助けられなかった自分を悔いていた)にあったことをユーリは聞く。SQは、自身の身体が母親のクローンとして造られた「511番目」のスペアで、さらに母親の人格移植が失敗した中途半端な存在であることに、諦観に近い思いを心の内に秘めていた。そのアイデンティティ=同一性は、SQのことを「何度も」観測してきたユーリによって見出される。ジナは、グノーシア化によって己を失い、人を騙し、人を消すという行為に強い拒否感を抱いていた。その生き様は、宇宙船事故に巻き込まれかけたユーリたちを、グノーシア化した自身の命を賭して救うことで守られる。
ユーリは「その世界線でしか知り得なかった人物の内面」に触れ、世界の唯一性と向き合い直していく。

ユーリは「複数」の世界を経験してきたからこそ(時にグノーシアになったり、女性になったり、自身がループに巻き込まれていることを打ち明けさえもしたり)、逆説的に彼らのかけがえのなさに触れていく(※2)。こうしたドラマツルギーもやはり『シュタインズ・ゲート』と共通する点だろう。
アニメ版『シュタインズ・ゲート』第16話以降では、「Dメール」をめぐる過去改変(のやり直し)と、それに伴うある種の喪失が描かれていく。阿万音鈴羽の思い出と橋田至との出会い、フェイリスが父と過ごした10年間と“電気街”の秋葉原、漆原るかの岡部への想いは、いずれも特定の世界線でしかありえなかった事象だ。
その喪失の責任と痛みは、「リーディング・シュタイナー」の所持者である岡部だけが引き受けることになる。「銀の鍵」の宿り主と「リーディング・シュタイナー」の所持者が「いくつもの唯一性」を喪失/保持することでドラマが生まれていく(※3)。
『グノーシア』と『シュタインズ・ゲート』の「始点」
多くの共通点を持つ『グノーシア』と『シュタインズ・ゲート』だが、ユーリとセツが同じループを共有できる「唯一」のバディ関係を結んでいることは、本作特有の美点だろう。

第13話のインタールード、あるいは第1話のミスリードを思い出そう。第1話中盤では、ユーリがセツに対して、自分たちは過去に知り合いだったのではないかと尋ねる。初見の視聴者は、これが文字通り「記憶喪失」に関わる発言だと判断せざるをえない。しかし第18話までを観測した視聴者は、このときのセツがすでに「ユーリに救われたことがある」事実を知っている。
ユーリとセツの因果は第1話の「始点」から深く絡み合っているのだ。
思えば『シュタインズ・ゲート』の物語も、岡部と紅莉栖の初めての邂逅の場こそがすべての鍵を握っていた。紅莉栖の「死体」を岡部に観測させたラジオ会館こそが、始点であると同時にすべてのルートの終着点でもある。
ならば『グノーシア』においてユーリとセツが二人同時に救済される道も「始点」に隠されているのかもしれない。銀の鍵の宿り主は、銀の鍵が開いた、別次元に続く扉が閉ざされることでループの呪縛から解き放たれる。問題はその扉を誰が通り、そして閉じるのか。ユーリとセツが同じ次元に残ったまま扉を閉じるなんらかの策(いわばHacking to the Gate)があればなんとかなりそうだが、原作プレイヤーとしてこれ以上の言及は避けておこう。
いずれにしてもこうした循環構造は、クリス・マルケルの『ラ・ジュテ』なり同ジャンル(時間跳躍もの)のお約束の一つだろう。後続作品の引用によって過去作の古典性が見出されるのだとすれば、『シュタインズ・ゲート』が同ジャンルの先行作品やノベルゲームの引用によって成り立っているように、『グノーシア』による引用によってまた、『シュタインズ・ゲート』の古典としての存在感も強化されることだろう。

そして『グノーシア』にもまた、後続作品に大きな影響を与えるであろうファクターが無数にちりばめられている。
『グノーシア』はループものの新たな「始点」となりうる物語だ。
参照
※1. https://gnosia-anime.com/glossary/
※2. 原作ゲームにおいては、複数世界をプレイヤー自身に経験させることで唯一性の問い直しを促す(あるいは忘却させる)ところに作品の批評性があった。対してアニメ版では、唯一性の喪失と再認識の過程を物語の中で主人公(ユーリ)に自覚させる必要がある。第8話におけるループに対する「慣れ」から、上記のような各キャラエピソードに至る流れはその象徴だろう。
※3. ちなみに、各キャラにとって思い入れの深い世界線が喪失される際には、主人公とそのキャラが恋仲的関係になりがちな点も共通する(『シュタインズ・ゲート』の原作ゲーム版では、過去改編を諦めることで各キャラエンド(時にバッドエンド)を迎えることができる)。これは『シュタインズ・ゲート』がゼロ年代に流行したノベルゲームの系譜を継いでいるからだろうし、『グノーシア』にもその伝統の影響がみられる。
■放送情報
TVアニメ『グノーシア』
TOKYO MXほかにて、毎週土曜24:00~放送&先行配信
キャスト:安済知佳(ユーリ役)、長谷川育美(セツ役)、鬼頭明里(SQ役)、七海ひろき(ラキオ役)、瀬戸麻沙美(ジナ役)、関智一(しげみち役)、早見沙織(ステラ役)、悠木 碧(夕里子役)、佐倉綾音(コメット役)、中村悠一(シピ役)、津田健次郎(ジョナス役)、────(ククルシカ)、花澤香菜(オトメ役)、大塚剛央(レムナン役)、江口拓也(沙明役)
原作:petit depotto
キャラクター原案:ことり(petit depotto)
監督:市川量也
シリーズ構成・脚本:花田十輝
キャラクターデザイン:松浦有紗
美術監督:鎌田麻友美・高田真理
撮影監督:野村達哉
音楽:深澤秀行
音響監督:納谷僚介
音響効果:川田清貴
人狼監修:松崎史也
プロデュース:川勝徹(petit depotto)、木村吉隆(アニプレックス)
アニメーション制作:domerica
©Petit Depotto/Project D.Q.O.
公式サイト:https://gnosia-anime.com/






















