押井守×『装甲騎兵ボトムズ』への驚きと納得 高橋良輔との対話から窺える大いなる期待

押井守×『装甲騎兵ボトムズ』への驚きと納得

 『装甲騎兵ボトムズ』(以下、『ボトムズ』)を押井守が監督する。完全新作アニメーションの『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』が、サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)の設立50周年を記念したプロジェクトとして、押井監督とともに『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)などを手がけたProduction I.Gも参加して作られる。ミリタリーマニアとして知られる押井監督なら、ミリタリーアニメの『ボトムズ』にうってつけの人選だが、高橋良輔監督の色も濃いシリーズだけに意外性も残る。そこにはどのような関係があり、どのような思惑があったのか。そして、どのような作品が生まれてこようとしているのか。

『装甲騎兵ボトムズ』押井守監督で完全新作制作へ サンライズとProduction I.Gがタッグ

サンライズ50周年記念作品として、『装甲騎兵ボトムズ』シリーズ完全新作『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』が2026年に展開されるこ…

 「ミリタリーものやロボットものをつくりたいとう気持ちをもちながらも、僕はいまだにはたせていないんです」。KADOKAWAのアニメ専門誌『Newtype』の2005年2月号に掲載された高橋良輔監督と押井守監督の対談で、押井監督はミリタリー作品への強い思いをこう打ち明けていた。「もしかしたら、一生縁がないかも」。それから21年。遂に念願のミリタリーものでロボットものの『装甲騎兵ボトムズ』を手がけることになった。きっと凄まじい喜びを抱いているだろう。同時に激しいプレッシャーも。

 何しろ『ボトムズ』だ。高橋監督が1983年から1984年にかけてテレビアニメとして送りだし、ハードな戦場でのロボットバトルと背後でうごめく様々な思惑を、キリコ・キュービィーという過去にないクールな主人公を通して描きだして一大ブームを巻き起こしたアニメシリーズだ。その後、『機動戦士ガンダム』のシリーズがいくつも作られロボットアニメの主流のようになっていくが、『ボトムズ』のファンも絶えることなく存在し続け、『赫奕たる異端』や『ペールゼン・ファイルズ』、そして『幻影篇』といったOVA作品が作られた。

 映像作品としては2010年の『幻影篇』から途絶えているが、2024年に池袋で開催された「東京アニメアワードフェスティバル2024」での『ザ・ラストレッドショルダー』の上映と、その後の高橋監督とアニメ・特撮研究家の氷川竜介とのトークには満席となる観客が詰めかけ、変わらない『ボトムズ』人気を見せつけた。

 トークでは、大人気となっていた『ガンダム』に対抗するように、「ガンダムで出したものはボトムズでは逆に出さないようにしました」と話した高橋監督。前作の『太陽の牙ダグラム』よりもさらに無骨なボット「アーマードトルーパー(AT)」を設定し、ストーリーもゴリゴリにミリタリーに寄せたが、それが逆に新鮮味を感じさせて熱烈なファン層を生んだ。

 押井監督もそのひとりだ。『Newtype』の対談で、「初めて『ボトムズ』を見たときには血が逆流したクチですよ。ひとり興奮したものです」と語り、アニメで初めてミリタリーを描きロボットをキャラクターではなく兵器として描いたこと、キリコ・キュービィーという帰還兵を主人公にして焼け跡からスタートする物語にしたことを、「これはすごいと思いました」と打ち明けている。

高橋良輔(写真=タニグチリウイチ)

 1943年生まれの高橋監督は、太平洋戦争が終結したときに2才で、その後のまだ戦争の跡がくっきりと残っている社会の中で成長していった。やがて海の向こうで朝鮮戦争が始まりベトナム戦争も起こって現在よりも遙かに戦争の匂いが濃い空気の中で過ごしてきたこともあって、『ボトムズ』にアニメ経由ではない戦争のリアルさを入れ込むことができたという。

 対して押井監督は、戦争の原体験からアニメを作ったような経験がなく、「自分のテーマや思想を作品に持ち込んではいけない、子供のためのアニメをつくれと繰り返し言われながら仕事をしていました」と『Newtype』のインタビューで振り返っている。そうした自身の概念を、ぶち壊してくれたのが『ボトムズ』だった。

 押井監督はその頃、OVAの『ダロス』を監督していたが、以後に手がけた作品のほとんどが、どこを切っても押井守といった強いテーマ性や思想性を持ったものになっていく。真っ先に手がけた『天使のたまご』(1985年)が、4Kリマスター版の公開でどれだけ哲学的で衒学的な内容だったが知れ渡ったばかり。チームで作ったOVA作品の『機動警察パトレイバー アーリーデイズ』にも、ロボットが産業用の機械として普及した社会を描こうとした思索の跡が伺える。劇場版の2作品に至っては思想性のカタマリだ。

 それでも、ミリタリーものには縁がなかったと言う押井監督が、高橋監督の原体験を映し考え方も盛り込まれた生粋のミリタリー&ロボットアニメの『ボトムズ』に挑む。いったいどのようなものに仕上がるのか? 何しろアニメ作品で「監督」としてクレジットされること自体が、GLAYのミュージックビデオ「Je t'aime」を2010年に手がけて以来、16年ぶりのことになる。

 誰もいなくなった浅草で、バセット・ハウンドとロボットが邂逅するという押井監督らしさが詰まったミュージックビデオだったが、『ボトムズ』ではそうしたデザイン面や設定面をオリジナルにすることは難しいだろう。長い歴史と熱いファンを持つ作品だからだ。

『装甲騎兵ボトムズ 灰色の魔女』初弾映像

 それなら、やはり観てハッとさせられるようなテーマ性なり、ギョッとさせられるような表現を盛り込んでくるのだろうか。公開された初弾映像は、森の中をATのスコープドッグが疾走するといういかにも『ボトムズ』といったもので、押井監督ならではの味付けは特には感じられない。おそらく3DCGで描写されているスコープドッグも、2007年の『ペールゼン・ファイルズ』の頃から登場しており、20年近く経った現在のさらに進んだ技術で描かれるだけのことだろう。そこは安心できそうだ。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる